居酒屋の「お通し」は訪日外国人にも不思議だ
新宿歌舞伎町の飲食店街、2018年4月(写真:Richard A. De Guzman/アフロ)
今年も日本におけるインバウンド消費(訪日外国人消費額)の増加が話題になっている。
東京でも新宿、渋谷などの繁華街で外国人観光客を数多く見掛けるようになった。観光には宿と食事は最低限必要であり、その需要だけでもかなりの経済効果をもたらす。
しかし、10年ほど前の日本では外国人観光客はそこまで多くなかったし、いまでも日本人の多くが英語をはじめとする外国語でのコミュニケーションに不慣れなこともあり、トラブルも起きている。
大きなホテルであれば、外国人対応ができていることがほとんどだと思われるが、個人経営の旅館や飲食店などでは問題が生じやすい。
そうした外国人観光客をめぐる問題のひとつにお酒を提供する飲食店でのお通しがあるという。お通しトラブルは日本人の間でも起こっており、昨年筆者が取り上げた際も、反響が大きかった『300円のお通し、支払い時の小さくない疑問』(2017年10月27日配信)。
いつの間にかお通しが利益確保の手段に
日本人の間でも、なぜ頼みもしないお通しをお金を払って食べなければいけないのかという疑問の声も多い。
そもそもお通しは、「おもてなし」として、職人の技を見せる「逸品」の位置づけであり、注文した料理ができるまでのお酒のあてとして出す日本独自の食文化だ。
昔を知る人からは、それゆえにタダだったとの声もきく。しかし、居酒屋が大衆化して競争が激化し、単に店側の利益確保の手段として簡単なおつまみを300〜400円の値段で提供する店が多くなった。
客単価3000円のお店で300円のお通しを出せば、その10%にあたり、薄利のお店側にとっては好都合なのだろう。しかし、食の多様化やアレルギーなどもあり、嫌いなものや食べられないものが提供され、代金を取られることへ不満を持つ消費者も増えているのは事実だ。
日本食を楽しむ外国人観光客(写真:Fast&Slow / PIXTA)
まして、欧米人は契約概念が日本人以上にしみついており、注文していないものを強制されることへの反感は根強いようで、東京の繁華街である新宿や渋谷でもクレームになることが多いという。
しかも店側が英語などでそのシステムを説明できないことも多く、外国人にはぼったくりのひとつに見られることもあり、おもてなしの心に反するものに映る。
お通しとセットになったメニューを定額で楽しめる
そうした経緯もあり、東京の渋谷、新宿両区の観光団体が新たな動きを見せた。
9月12日、訪日外国人向けに夜の飲食店やバーで使える定額式のバウチャーチケット「TOKYOナイトタイムパスポート」を発行すると発表したのだ。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどを控え、「訪日外国人の増加が予想されるなか、魅力的な夜の体験を提供すること」が主目的だが、お通しのクレームなども意識して企画されたという。
バウチャーチケット(画像:一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会提供)
渋谷区観光協会と新宿観光振興協会などが、公益財団法人「東京観光財団」(新宿区)の地域資源発掘型実証プログラム事業として実施するものだ。
3000円と2000円の半券が付いた計5000円分のチケット5000枚を販売する。訪日外国人は半券を切り取ることで、お通し代などを含む食事とお酒類がセットになったメニューを楽しめるというものだ。
会計のことを気にせず安心して夜の飲食タイムを楽しんでもらおうという趣旨で、お店側が2000円、3000円、あるいは5000円のセットメニューを提示する。
12日の会見では吉住健一新宿区長、長谷部健渋谷区長も出席し、新宿区と渋谷区がタッグを組み、外国人観光客の消費拡大を目指すことを表明した。
左から一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会代表理事 新津研一氏、一般財団法人渋谷区観光協会理事長 金山淳吾氏、渋谷区長 長谷部健氏、新宿区長 吉住健一氏、一般社団法人新宿観光振興協会専務理事 古川哲也氏(写真:一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会提供)
バウチャーの販売場所は新宿観光案内所をはじめ、東京・大阪の「Tickets Today」13店舗で、2019年1月から販売する。購入できるのは外国人だけだという。また、試験的に2カ月間だけ行うもので、今後は利用状況をみて考えるという。
繁華街では、ぼったくりなどの被害が時たま報告される。酒が入るとおおらかになったり、判断能力が鈍ることがあり、それに付け入って荒稼ぎする業者も一部ではあろうが存在する。またプチぼったくりという言葉も登場してきた。
「飲み放題1000円。300円からある料理を最低2品注文してほしい」と客引きに言われて入店したところ、お通し400円、それにテーブルチャージ、週末料金が加算され、さらにサービス料を取られたというようなトラブルだ。金額は小さくても納得いかない支出、だまされたという事実は嫌な思い出として残る。「おもてなし」の国にはふさわしくない。
「おもてなし」の国にふさわしいサービスを
こうした試みだけで問題が解決するかは疑問だが、2019年にはラグビーワールドカップの日本での開催、2020年には東京オリンピック・パラリンピックを控え、スポーツイベントを通じて数多くの外国人が日本にやって来ることが予想される。
飲食店や行政など関係者が知恵を絞るきっかけにして、日本人、外国人を問わず安心してナイトタイムが楽しめる繁華街に成長してほしいと願っている。