スウェーデンのサーブが開発した「グリペン」は、コスパ最強との呼び声も高いマルチロール機です。その正統進化である新型機「NG」とあわせ、独自の立ち位置を占める「グリペン」の特徴や強みについて解説します。

独自路線を歩んできたスウェーデンと「サーブ」

 2018年のヨーロッパは日本と同様、記録的な猛暑に見舞われ、ヨーロッパ諸国は様々な自然災害に見舞われており、スウェーデンでは今年の7月、猛暑による乾燥により、全土で大規模な森林火災が発生しました。消火が不可能と判断したスウェーデン政府は、空軍の戦闘機からレーザー誘導爆弾を投下し、爆発によって酸素を奪って消火するという荒業を用いていますが、その「爆撃」の任務を担ったのが、国産戦闘機JAS39「グリペン」です。


エアショーでデモフライトを行なうハンガリー空軍の「グリペン」(画像:サーブ)。

 ナポレオン戦争から2005(平成17)年まで、スウェーデンは重武装中立政策を採用しており、外国から兵器の供給を絶たれて中立が脅かされることを嫌ったスウェーデンは、軍の使用する兵器も極力国内で開発してきました。

 戦闘機もスウェーデンが国内開発に力を注いできた兵器のひとつで、第二次世界大戦開戦直前の1937(昭和12)年に設立されたサーブ社の手によって、推進プロペラ式のレシプロ戦闘機「サーブ21」、同機にジェットエンジンを搭載した「サーブ21R」を皮切りに、愛嬌のあるフォルムながら1960年代に初頭に発生したコンゴ動乱において、国連の平和維持活動で大活躍した「トゥナン」、1950年代初頭に開発された機体であるにもかかわず、主翼などの設計にコンピュータを使用した「ランセン」、世界で初めてダブルデルタ翼を採用した「ドラケン」、有事の際に高速道路を使って離着陸するため、機首部に揚力を生み出すカナード翼、エンジンに戦闘機としては珍しい逆噴射装置を装備して、通常ジェット戦闘機では1500m以上を必要とする離着陸時の滑走距離を500mに短縮した「ビゲン」といった、ユニークな国産戦闘機が開発されてきました。


1940年代に開発された「トゥナン」。愛称のトゥナンはスウェーデン語で「樽」を意味する(竹内 修撮影)。

漫画『エリア88』で主人公の愛機となったことから日本でも人気の高い「ドラケン」(竹内 修撮影)。

500mの滑走で離着陸が可能な「ビゲン」(竹内 修撮影)。

 JAS39「グリペン」は「ビゲン」の後継機として1980年代に開発された国産戦闘機で、1993(平成5)年からスウェーデン空軍で運用が開始されています。ちなみにJASという記号は、スウェーデン語で戦闘を意味する「Jact」の頭文字「J」、対地攻撃を行なう航空機「Attack」の頭文字「A」、偵察を行なう航空機「Spanding」の頭文字「S」を意味しており、「グリペン」が多用途戦闘機であることを示しています。

安い、軽い、速い! 使い勝手まで考慮した「グリペン」

「グリペン」はほぼ同時期に開発されたユーロファイター「タイフーン」やダッソー「ラファール」と同様、水平尾翼を持たない三角形の主翼(無尾翼デルタ翼)と、機首部の揚力をもたらすカナード翼を組み合わせたデザインを採用していますが、機体のサイズは両機に比べて小さく、エンジンも「ラファール」や「タイフーン」が2基のエンジンを搭載しているのに対し、1基しか搭載していません。


「グリペン」(C型)のコックピット(画像:サーブ)。

 このため航続距離は「ラファール」や「タイフーン」の半分程度ですが、複合材料を多用して機体を極限まで軽量化したため、最大速度はそれらを上回るマッハ2.2に達しています。

 機体が小柄なため兵装の搭載量は「タイフーン」「ラファール」に劣りますが、搭載できる兵装の種類では引けをとらず、レーダー誘導式のAIM-120「AMRAAM」空対空ミサイルや、精密誘導爆弾の「JDAM」といった、西側諸国の戦闘機の標準的な兵器に加え、国産のRbS15対艦ミサイルや、ヨーロッパ各国が共同で開発した長射程空対空ミサイル「ミーティア」、小型精密誘導爆弾「SDB」といった多彩な兵装が搭載できます。さらに「グリペン」同士はもちろん、早期警戒機や地上の防空レーダーなどと、敵や味方の位置情報などのデータを共有する、データリンク機能も備えています。

「グリペン」も「ビゲン」と同様、有事の際には高速道路を使って離着陸することを想定して開発されたため、離着陸時に必要な滑走距離も700m程度と短く、また有事の際には召集した予備役の兵士が整備することを想定して、ほかのジェット戦闘機に比べて整備手順が簡略化されています。

「グリペン」は同時期に開発された「タイフーン」や「ラファール」などに比べて性能のわりに価格が安く、またスウェーデン政府とサーブは資金に余裕が無い国にはリース契約による貸し出しを行なったり、「グリペン」導入の見返りとして、導入した国で「グリペン」の部品の製造を行なったり、導入国の特産品を購入するといった柔軟なセールスをしていることから、スウェーデン製の戦闘機としては輸出も好調で、チェコ、ハンガリー、南アフリカ、タイの4ヵ国に輸出されたほか、テストパイロットとエンジニアの養成を行なっているイギリスの王立テストパイロット学校でも1機が運用されています。

次世代の「グリペン」はどんな戦闘機?

 安価で性能が高く、またスウェーデン政府とサーブが柔軟なセールスをしたこともあいまって、輸出市場でも健闘した「グリペン」ですが、「タイフーン」や「ラファール」はもちろん、同じエンジンを1基搭載するF-16などに比べても機体が小柄なため、航続距離や兵装搭載量の面ではこれらのライバルに及ばず、それが輸出商戦での足かせとなっていました。

 このためサーブはグリペンの基本設計を流用した新戦闘機「グリペンNG」を開発しています。


2016年5月にロールアウトした「グリペンE」の飛行試験初号機(竹内 修撮影)。

飛行試験を行なう「グリペンE」(画像:サーブ)。

「グリペンNG」に搭載される「ES-05」AESAレーダー(竹内 修撮影)。

「グリペンNG」の外観は一見した限りだと、「グリペン」と大差無く見えますが、機体は全長が14.9mからF-16を若干ながら上回る15.2mに、全幅も約20cmそれぞれ拡大されており、拡大によって生じたスペースには燃料タンクが増設されています。また前脚と主脚の収納方法を変更して、兵装や燃料タンクを搭載するハードポイントの数を8か所から10か所に増設しており、これらの改良によって、「グリペン」に比べて大幅に航続距離と兵装搭載量が増加しています。

「グリペン」はF/A-18「ホーネット」戦闘機と同じ、「F404」エンジンを搭載していますが、「グリペンNG」はF/A-18E/F「スーパーホーネット」と同じ「F414」エンジンを搭載しています。軽量な機体に「F404」よりもパワーの大きな「F414」エンジンを組み合わせたことで、「グリペンNG」はF-22などと同様、アフターバーナーを使用することなく超音速で飛行する「スーパークルーズ」能力を備えています。

新しい「グリペン」は電子戦にも強み

 電子装置も「グリペン」に比べて強化されており、F-35や航空自衛隊のF-2戦闘機などと同様、捜索・探知距離の長いAESAレーダーを装備しているほか、F-35と同様、レーダーなどの各種センサーが収集した情報をコンピュータが整理してパイロットに提供するデータフュージョン能力も備えています。現代の戦闘機の多くは敵のレーダーを妨害する電子戦装置を装備していますが、「グリペンNG」に装備される電子戦装置「AREXIS」は敵戦闘機のレーダーはもちろん、AWACS(早期警戒管制機)や地上のレーダー施設を妨害し、さらには電子的に自機の囮を作り出す機能も備えています。


ブラジル空軍向け「グリペンNG」のコクピット(写真は実大模型)。F-35と同様のタッチパネル式の大型カラー液晶ディスプレイを備える(竹内 修撮影)。

 現時点で「グリペンNG」はスウェーデン空軍が単座型の「グリペンE」を60機、ブラジル空軍の単座型28機と複座型8機の受注を獲得しているほか、フィンランドやスイス、カナダ、インドなどにも提案されています。

 ステルス性能などの面ではF-35には及ばないものの、F-35に比べて安価で、最大速度や運動性といった飛行性能や、電子戦装置などの性能はF-35を上回る「グリペンNG」は、世界の戦闘機市場において、台風の目となるのではないかと見られています。

【写真】日本でも広く知られていたクルマのほうのサーブ


1986年発売「サーブ900」カブリオレモデル。自動車メーカーとしてのサーブは1990年に別会社となり、2017年にブランドとしても消滅した(画像:Artem Konovalov/123RF)。