会社員と仕事する場合、「より社畜的」なマナーのほうがうまくいく?(写真:SetsukoN/iStock)

仕事をしているとマナーの重要性をつねに説かれる。若い頃、私も職場の先輩からいろいろと教えてもらったものの、45歳になった今、改めてマナー本を読んでみた。

今回読んだのは『この一冊でもう困らない マナーのツボ大事典』(知的生活追跡班・編)だ。帯には「できる大人の大全シリーズ おかげさまで175万部突破!」とあり、さらには「一目おかれる人の『気遣い』は、ここが違う! 品格のあるふるまい、結果につながるビジネスマナー、美しい日本語の使い方…… ほんの少し変えるだけで、一流の作法は誰でも身につく!」とある。

正直、私は「会社勤めさえしていれば、マナーは自然に身に付くもの。マナー本なんて読む必要ない」と思っていた。だが、本を読むと「そうだよね」と納得できる指摘ばかりで、会社員だけじゃなくフリーランスが読んでも参考になるものも多いと感じた。

たとえば、名刺交換では「自社、他社の順で序列の高い人から紹介する」や、「いくら忙しくてもアポイントメントは必ず自分で取らなくてはいけない」「代役で大役を頼まれたら『おこがましい』とあいさつする」「『ひょんなことをお聞きしますが』でまず場を和ませる」などの振る舞いが「正しいマナー」として書かれてあった。

マナー=へりくだること?

しかしながら、読んでいて複雑な気持ちにもなった。

結局マナーって、「自分をへりくだり、相手を聖人君子扱いするってことか」と。書かれてある内容にはもちろん同意するし、“「気が利かなくてすみません」ではへりくだり過ぎ”という項目もあり、別に「へりくだり道」を説く本ではないことはわかる。ちなみに、この項目の正解は「行き届きませんでした」と答えることなのだという。

過去にこの本をもとにマナー関連の雑誌特集を企画した編集者を知っている。さまざまなマナー本を読んだ結果、この本がいちばん参考になったという。一方で、こうも言っていた。

「この本含めて、いろいろなマナー本を読みましたが、どの本も言っていることが異なり、結局何が正解かはよくわかりませんでした」と。彼が担当した特集では折衷案を作りつつも、読者がしっくりきそうなマナーをまとめる形になったそうだ。

こうした点から考えると、結局マナーというのは「自分にとっていかに心地よいか」という話になってきて、絶対的な正解はないのではないかと思う。もしそうだとした場合、この原稿で私が語れることは「嫌われることもあるけど、フリーランスとして17年、一度も仕事が途切れたことのない45歳男がこれまで実践してきたマナー術」かもしれない。

私自身は大学を卒業してから、業界2番手の広告代理店の社員を4年経験した。独立してからはフリーランスとして17年働いているが、“年上と年下の相手の機微を読む”ことで、仕事が途切れることはなかったと思っている。「年齢で態度を変えるなんて失礼じゃないか」と思われる方もいるかもしれない。だが、私の知るかぎりでは多くの社会人は相手の年齢によって態度を変えている。なので、そこに合わせることも必要だろう。

なお、会社員を相手とする仕事の場合、「より社畜的」なマナーのほうがうまくいくことが多い。つまり、旧来型の会社員が実践していたような「様式美」を徹底することである。

もともと私が、マナーについて識者として意見を求められるようになったきっかけは、「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(TBSラジオ)というラジオ番組にある。2011年5月に同番組で、私は「新・社会人のための素敵な真・社畜特集!」という特集に識者として出演し、社会人が実践すべきマナーを語ったり、マナーにまつわるリスナーの悩みに回答したりした。

番組はパーソナリティの宇多丸さんが、私と番組プロデューサーである橋本吉史氏との社畜的なやり取りにツッコミを入れ、正しいマナーについて解説していくという流れになった。ちなみに、私が登場したとき、橋本氏はスタジオ内の席に座らずに立っていた。これは冒頭で紹介した『この一冊でもう困らない マナーのツボ大事典』とも関連した作法である。商談などが始まるにあたり席に通された場合、「相手が来たら立つというマナー」があるが、これをさらに発展させ「とにかく相手が来るまで立っておく」という、より「社畜度合い」の高い振る舞いを実践したのだ。

宇多丸さんが「なんで立ってるの?」と聞いたところ、一応はゲストかつ彼よりも年上かつ大学のプロレス研究会の先輩である私を立てるべく「社畜たるもの立っておくべきだ」と橋本氏は答えた。番組は終始こんな感じで、会社勤めの経験がない宇多丸さんはとても感心してくれた。

45年生きて有効だと思ったビジネスマナー

冷静に見ると、こうしたビジネスマナーには「バカっぽく見える」ものや、「大げさ・やりすぎに見える」ものもある。しかし案外、相手に好印象を与えることも多い。以下、私が45年生きて有効だと思った、ビジネスマナーを3つのシチュエーションに分けて紹介しよう。

1.歴史の古い会社の社員が相手の場合

基本的には役職が上か下か、客が下請けか、というだけで判断する。とにかく「客が偉い」という意識を持ち、「(関係会社・自社ともに)役職が上のほうが偉い」というだけの判断基準で発言・行動する。打ち合わせで客先に行く場合は、相手先のビルに入った途端にコートを脱ぎ、いつクライアントの誰が見ていようが、「あいつはわが社の中に入っているというのにコートを着続けていた」と言われないよう万全を期す。

そこから先は、案内をしてくれる受付の社員含め、かかわる相手全員に対し、とにかく低姿勢でいることに徹底する。自分がどれだけ業界で評価されていようが、そこは関係ない。低姿勢でいることにより「あの人はあれだけ実績があるのに腰が低い感じのいい人だ」という評価を得られる。それだけで仕事がうまく回ることが多いし、客先の別の社員を紹介されたとしても、丁寧に接してもらえる。この点については、今回紹介したマナー本でも提唱されている教えとまったく同じである。

ただ、これから紹介する「年上」「年下」との接し方については、低姿勢でいること以外の振る舞いが必要になってくる。以下は、完全に私独自のマナーである。

相手の年齢で「態度を変える」生存戦略

2.年上が相手の場合

基本的には「小僧」的な態度に徹することを心掛けている。世の中には年齢が自分よりも下ということがわかるだけで、ぞんざいな態度を取る人がいる。だったら逆の手法を取れば相手は気持ちよくなる、ということも意味するわけだ。

年上が相手だった場合の基本は、太鼓持ちの役割を心掛け、丁寧な言葉遣いをし、とにかく褒めて恐縮することに徹する。これは年長者を気持ちよくするということに加え、その同僚や部下に対しても好印象を与えることが多い。

3.年下が相手の場合

相手が年下の場合も、同様に丁寧な対応を心掛けており、その方法は極めて簡単である。相手の名前を「さん付け」し、「敬語でしゃべる」だけ。さらに折りに触れ、手土産を持っていけば完璧だ。

というのも、基本的に若い人は社内で雑な扱いをされるうえに、前出の「年下に敬語を使えない年長者」により、理不尽な扱いを受けがちだからである(あくまで筆者が主戦場とする広告・出版業界においてだが)。

結局ビジネスにおける評価というのは相対評価なので、若い自分に対しても丁寧に接してくれる外部の人間というのは、その人からすればホッとできる存在なのだ。「あの人は傲慢ではない」程度の評価であろうとも、仕事をまた発注してくれる可能性は高い。

これまでマナー本を読んだ経験がなかった私はその価値を侮っていた。冒頭で「複雑な気持ちになった」とも書いたが、その前提をもとに自分自身の無手勝流マナーを振り返ってみると、案外マナー本の教えには納得できることも多いし、反省できるものもあることに気づく。そうした意味で、マナー本にもそれぞれの価値があり、その大前提を押さえたうえで自分なりのマナーを確立すべし。45年の人生で初めてマナー本を読んで、そう思った次第である。