男子バレーボールの世界選手権の1次ラウンドで、全日本男子チームは2勝3敗で勝ち点5のグループA5位となり、4位までが進める2次ラウンドに駒を進めることができなかった。


休養のためネーションズリーグを欠場した石川祐希も出場したが......

 就任2年目の中垣内祐一監督の進退問題も取り沙汰されているが、「更迭必至」の報道については日本バレーボール協会公式サイトにて否定されている。「過去最低の成績」という報じられ方も、前回は出場権さえ獲得できなかったことを考えると、恣意的に切り取られた印象を受ける。

 とはいえ、中垣内監督が目標に掲げていた「ベスト8相当」には程遠い結果になったことは事実だ。

 日本は、他のグループの第1次ラウンドに先立ってローマの屋外競技場で夜に行なわれた開幕戦を、ホスト国のイタリア代表と戦った。イタリアチームは過去のワールドリーグでその会場を使用したことがあるが、日本は初めて。普段はテニス競技場として使用されている会場では、割れるような地元の大声援が響き、目線を上げると強烈な照明が目に入った。

 風の影響も強く、とりわけセッターは苦労しただろう。この試合の日本のセッターは関田誠大(まさひろ)だったが、彼らしくない短すぎるトスが散見された。また、スパイクレシーブを拾ったあとレシーブが乱れた際に2本目のトスを誰が上げるかというところで、チームメイトの声が聞き取れずあたふたする場面もあった。イタリアもかなり浮足立った状態だったため勝機はあったが、セットが進むごとに自信を取り戻したイタリアに0-3のストレートで破れた。

 黒星スタートになった日本は負傷者が続出するなど相次ぐ不運に見舞われた。まず、14名の登録選手に入っていた高橋健太郎(ミドルブロッカー)が手を負傷したため、アジア大会に回っていた小野寺太志に差し替えた。開幕戦数日前の練習では、18歳の新星・西田有志が足を負傷。開幕戦には出場することができず、第2戦の途中から出場することになった。

 さらに、1次ラウンドが始まって間もなくの練習中に、日本の攻撃の第1コンセプトである「真ん中からの攻撃」の軸となる李博(ミドルブロッカー)が右手を舟状骨骨折し、第2戦から欠場。追い打ちをかけるように、第5戦のアルゼンチン戦ではボールを追って客席に飛び込んだリベロの古賀太一郎が負傷退場した。大会後には、中垣内監督も「李博と健太郎の離脱は痛かった」とうつむいた。

 一方で、これまでケガに悩まされてきた石川祐希は、今春から行なわれたネーションズリーグを欠場したことで体の状態はよかった。しかし、その大会である程度完成されたチームに遅れて合流することになったためか、チームに合わせきれなかった。特に、セッターの藤井直伸とのコンビが合わない。2戦目までは、大学時代に石川と、高校時代に柳田将洋と合わせてきた関田がスタメンだったが、西田の復帰と共に藤井がスタメンに戻った。

 4戦目のベルギー戦は、西田の連続サービスエースで第1セットを奪ったものの、それ以降は相手に対応されて逆転負け。試合後の中垣内監督には、報道陣から「なぜもっと控えの選手を使うなど手を打たなかったのか」と質問が飛んだ。

 このときのスターティングメンバーは、両サイドに石川とベテランの福澤達哉、オポジットに西田、セッターが藤井、ミドルブロッカーが山内晶大と伏見大和だった。質問における交代は、セッター、または福澤と柳田の点だっただろうが、中垣内監督は、自分に言い聞かせるようにこうコメントした。

「調子の上がらない石川を代えるべきだ、と何度もフィリップ(ブランコーチ)に言ったが、彼は聞き入れなかった。石川は、今大会はあまり精神的に充実していないのではないかと思う。それでも、浅野博亮を積極的に使えば失点は少なくなるかもしれないが、こじんまりとしてしまう。もっと強い相手に勝つために、これからも石川を軸にしていく」

 しかし結局、最終戦となったアルゼンチン戦で石川はスタメンから外れた。公式練習中の石川には笑顔が見られ、本人も「この試合に向けて気力は充実させられたと思います」と意気込みを語っていたが、公式練習が終わって一旦ベンチに戻った後にベンチスタートが言い渡された。

「2次ラウンドに行くために(セットカウント)3-0、3-1で勝たなければならない試合で、スタートから外される。それは信頼されていないからですし、まだまだ実力が足りないんだと思いました」

 その石川の途中出場の機会は思いがけない形で訪れた。試合の中盤で西田有志が後衛に下がった際、いわゆる「2枚替え」として石川がオポジットのポジションに入ったのである。これは練習でも試していなかった”ぶっつけ本番”の交代だった。

「びっくりしましたけど、自分が言われた役目をやりきるだけ」と語った石川は6打数6得点を挙げるも、第3セットで6点差をひっくり返されるなどセットカウント3-2で勝ったものの得失セット数による勝ち点で劣り、日本の1次ラウンド敗退が決まった。

 中垣内監督はベルギー戦後、石川に「雰囲気がよくない」と声をかけたという。そして、「ネーションズリーグでのいい雰囲気に戻そうとした」と、アルゼンチン戦でのスタメン変更の意図を語った。

 調子が上がらずとも石川を起用したかったブランコーチ、石川を軸にしたいが世界選手権で手堅く勝利を求めた中垣内監督の”落とし所”が「石川2枚替えのオポジット」だったのだろう。東京五輪を見据えて戦うか、手堅く勝ちに行くかという選択は難しいが、今大会は土壇場までそこが定まらなかった印象がある。

 中垣内監督は、「やろうとしたコンセプトは正しかったと思う。今後もそれは続ける」と明言した。確かに、批判の多かった福澤の多用も、ブロックの貢献の少ない山内の起用も、「真ん中からの攻撃」を最優先にしたという点から見ればわかりやすい。

 真ん中からの攻撃を使うため、サーブレシーブがある程度安定していて、サイドの中ではブロック力の高い福澤が途中から使い続けられたのだろう。山内は、関田でも藤井でも安定してクイックで得点ができる。今の日本にはパラメーターが正六角形になるような選手はいない。何かを選べば、何かに目をつぶることになるのだ。

 真ん中からの早い攻撃を多用し、サイドの軸を石川に。サーブやブロックの強化も急務だが、石川は大会後、世界選手権をこう振り返った。

「開幕戦のような特別の試合も含めて、大きな舞台で戦うことができて嬉しいし楽しかったが、結果が残せず悔しい。柳田さんと比べて自分がまだまだだと思うところは、セッターを選ばず打ちこなせないところ。それは今から修正します。切り替えて、所属チームのシエナ(セリエA)でステップアップしたいです」

 東京五輪まであと2年。世界との差をいかに縮められるか。