上司に「なるほど」は失礼?

写真拡大

「職場で『なるほど』という言葉は使わない方がよいのか」。このような投稿が先日、ネット上で話題になりました。

「客に相づちを打つつもりで『なるほど』と言ったら、激怒された」という体験談や、「『なるほど』は、相手の意見を評価する意味を含むから、目上の人が使う言葉」「誰に対しても使ってよいと思う」「気にしたことない」「言い方による」など、さまざまな声が上がっています。

 ビジネスシーンで「なるほど」と返答することは、マナー違反なのでしょうか。年間250本以上の講義やビジネスマナーの連載・執筆などをこなし、著書「入社1年目 ビジネスマナーの教科書」(プレジデント社)がベストセラーとなった、マナー講師の金森たかこさんに聞きました。

「上から目線」の印象を与えかねない

Q.ビジネスシーンにおいて「なるほど」「なるほどですね」という返答は、マナー違反なのでしょうか。

金森さん「『なるほど』は、相手の話に対する『同意』『納得』の感情の他、『知らなかったことを知ることができた』というような、相手の話が『理解できた』ということを伝える場合や純粋な相づちなどとして、さまざまなシーンで使われている言葉です。

相手に対する返答として、言葉自体は間違いではないものの、『相手の発言を評価した上で認める』ニュアンスが含まれるため、「上から目線」の印象を与えてしまう可能性があることも事実です。相手に与える印象が特に重要視されるビジネスシーンにおいては、相手によってはマイナスイメージを与えかねないため、慎重に使うべき言葉ではあるでしょう。

なお、『なるほどですね』は『なるほど、そうですね』から来ている言葉だと思いますが、このような略し方は違和感があり、そもそも日本語として正しいものではありません。そのため、ビジネスシーンで使用するのは不適切です」

Q.「なるほど」を特に控えるべき相手とは。

金森さん「マナーの大前提は『相手がどう思うか』を考えることです。『なるほど』は、本人はそのつもりはなくても、誤解を与える可能性のある表現なので、初対面の人やお客様、上司・先輩など目上の方に対しては使用を控えるべきでしょう。その言葉を使ってもよいかどうかは、相手との関係性によって変わってきます。慎重に判断し、失礼な印象を与えないようにしましょう」

Q.同意や納得した気持ちを表す際、ビジネスマナーとして望ましい表現や、振る舞い方について教えてください。

金森さん「基本は、まず『はい』と答えることです。『なるほど』ではなく、『おっしゃる通りです』『そうですね』などは不快な印象を与えず、どんな相手でも使えます。『かしこまりました』『承知いたしました』はさらに丁寧な表現です。

先述の通り、『なるほど』はその言葉一つで、さまざまな意味を伝えることができる便利な言葉ではありますが、どうしても上から目線の印象がつきまとうため、相手から反感を買うなど、誤解を招く可能性も含んでいます。

もし、つい『なるほど』を用いてしまった場合は、単体の言葉として使うのではなく『なるほど、よく理解できました。ありがとうございます』のように、より具体的な言葉を添えて伝えるとよいでしょう。相手に正しく気持ちを伝えるために、“言葉を尽くすコミュニケーション”を意識することで、誤解やクレームなどを防ぐことができます。

コミュニケーションにおいては、態度も重要な情報です。『なるほど』を発する場合でも、表情や態度を意識するだけで印象が全く変わってくるもの。相手に言葉を伝える時は、その言葉が正しいか正しくないかだけに気を取られるのではなく、その言葉を発する時の表情や態度、話し方にも意識を向けることが大切です」

気を付けたい言葉遣い&言い換えフレーズ

Q.その他、ビジネスシーンで気を付けたい「返答」はありますか。

金森さん「コミュニケーションや言葉遣いは、たとえ文法的には正しい表現であっても、画一的な判断しないことが求められます。シーンや相手によって適切な表現をするためにも、日頃から『自分が言われた時にどう思うか』の感覚を知り、学んでおくことが大切です。

返答の場合でも、言葉が持つ印象と、相手が言葉を受け取った時にどう感じるかをイメージすることが不可欠です。例えば『すみません』は軽いニュアンスを含むため、日常生活では問題ありませんが、ビジネスの場での謝罪の言葉は『申し訳ございません』『申し訳ありません』などが適切でしょう。

同様の例に『了解』があります。『了解』は『わかる・わかった』の意味を持つため、『了解』と単体で使っても文法的には問題ありません。しかし、単体だとぶっきらぼうな印象を与えかねず、敬意が不足しているように受け取られる可能性もあります。ビジネスシーンでは『かしこまりました』『承知いたしました』を用いると、まず失礼にはあたりません。

使用することで相手が不愉快になる可能性のある言葉は、最初から使わないのもマナーの一つです。例えば『はい、はい』『わかった、わかった』など、同じ言葉を2回以上繰り返す返答があります。こうした言い回しは、関西地方では日常的によく聞かれる印象がありますが、全国区の表現ではないため、使用の際には相手に不快感を与えないよう要注意です。

また、多くの意味合いが含まれているため、つい便利に使ってしまいがちな言葉に『大丈夫』があります。本来の意味は『間違いがなく、確かである』『危険や心配がない様子』ですが、最近では可能・不可能の意味や、断り文句としての使われ方も定着しています。こちらが伝えたい気持ちとは違う意味に伝わる可能性があるため、上司やお客様に対しての使用は控え、『問題ございません』などその場に合った表現に言い換えましょう」

【覚えておきたい「返答」のビジネスマナー】

×→○
なるほど→おっしゃる通りです、そうですね
すみません→申し訳ございません
了解です→かしこまりました、承知いたしました
あ、いいですよ→はい、かしこまりました
大丈夫です→問題ございません
本当ですか→さようでございますか
わかりません→申し訳ございませんが、わかりかねます
私がやります→私がいたします、私が行います
うん、うん(相づち)→はい、そうですね
(お客様に手土産を頂いた時)どうもすみません→ありがとうございます