復活して1年のシビック(左)と、発売されたばかりで新車効果が大きく出ているCR-V(右)(撮影:梅谷秀司、大澤誠)

「シビック」と「CR-V」。ホンダがこのところ立て続けに日本で復活させた車種だ。いずれも一度は日本での販売を打ち切り、海外専用モデルとなった時期があったが、10代目に当たる現行シビックは昨年、7年ぶりに、CR-Vはこの夏、2年ぶりにそれぞれ日本で再び販売を開始した。


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シビックはホンダを代表する車種として、CR-VはかつてのRVブームを牽引するモデルとしてホンダの屋台骨を支えた時期もあったが、日本ではモデルを追うごとに販売台数が落ち込み、シビックは2010年、CR-Vは2016年にそれぞれ日本での販売を打ち切った。

それを経て復活した現行シビックの全幅は1800mm、新型CR-Vは同1855mmと、全幅1700mm未満の「5ナンバーサイズ」を軽く超える大きさになっている。デザイン面での迫力を増したり、大きなタイヤを履かせて走行性能を高めたりすることなどの要素もあるが、アメリカをはじめ海外市場の需要に対応するために大型化してきたともいえる。

ホンダが2車種を復活させた効果と狙い

そんな2車種を復活させた効果を測るとともに、その狙いも考えてみたい。

8月27日に配信した「ホンダ『シビック』、日本復活から1年の通信簿」でも述べたが、シビックは今年1〜6月(上半期)に1万0319台を販売。日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車ブランド通称名別新車販売ランキング(軽自動車除く)で37位につけた。月間平均販売台数は約1700台だ。

かつての自動車業界では月販2000台以上ないと損益分岐点を超えられないといわれたが、現在は1500台以上売ればまずまず立派な数字と言える。

月販1000台を超えれば販売ランキングでベスト50位以内におおむねは入れるし、月によっては40位台も可能だ。新車効果を満喫しているとはいえ、1994年以来ホンダを象徴してきたミニバン「オデッセイ」よりシビックの販売台数は多い。5ドアハッチバックと4ドアセダンという、日本では人気が落ちてしまったカテゴリの車種としては健闘していると言えるだろう。

一方の新型SUV(スポーツ多目的車)であるCR‐Vも、まずまずの出足だ。8月31日に発売されたばかりながら、8月の販売実績は1344台と実質的に1営業日だけで月間販売目標の1200台を超えた。同月の日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車ブランド通称名別新車販売ランキング(軽自動車除く)では35位。37位だったシビック、40位だったオデッセイを上回った。

ホンダに起死回生をもたらした車種たち

今日でこそ、ホンダのSUVといえば「ヴェゼル」を思い浮かべる人が多いはずだが、CR‐Vは、1995年にオデッセイに次いで誕生した、当時のクリエイティブ・ムーバー(生活創造車)シリーズの一台であった。クリエイティブ・ムーバーとは、当時、乗用車やスポーティカー中心の品ぞろえだったホンダが、満を持してRV(レクリエーショナル・ヴィークル)を投入するに際し、独自の車種構成を示す名称を与えたクルマ群を指す。ほかに、「ステップワゴン」や「S‐MX」といった車種があった。そしてこれらの車種が、業績悪化にあえいでいたホンダに起死回生をもたらしたのである。


2016年9月以降、2年近く姿を消していたCR-V(撮影:大澤誠)

そのなかでCR‐Vは、全幅こそ1.7mを超えて3ナンバー車ではあったが、ほぼ5ナンバー車に近いSUVとして人気を呼んだ。これがアメリカでのSUV人気に乗り、2世代目以降、モデルチェンジのたびに車体寸法が大型化し、国内では扱いにくいクルマになってしまったのであった。結果、4世代目の途中の2016年に国内販売は中止された。そして国内市場は、ヴェゼルがSUVを担うことになった。ヴェゼルはまさに、初代CR‐Vとほぼ同じ大きさだった。

その判断に間違いはなく、その後、マツダ「CX-3」やトヨタ「C‐HR」が追随したように、ヴェゼルは国内小型SUV市場を改めて切り拓いたといえる。

一方で、日本市場から撤退することとなったCR‐Vのような割と大きなサイズのSUVも、しだいに国内で売れる状況になってきた。マツダ「CX‐5」が牽引し、トヨタ「ハリアー」が「レクサス RX」と別に国内向けに開発・市販された。また、レクサスには新たに「NX」も投入され、ミドルサイズSUVへの関心が国内でも高まったのである。輸入車のSUVも、比較的大柄な車種が都市部では人気を得ている。

こうなると、ホンダも手をこまぬいているわけにはいかない。そこで、CR‐Vの再登場が決まったのだろう。同時に、近年注目される3列シートも導入された。

発売されたCR‐Vの今年8月の販売成績は、実は、マツダ「CX‐8」に次ぐ順位であり、CX‐5の30位よりは下だがCX‐3より上位という、30位台のSUV群の塊の中にいる。21位の日産自動車「エクストレイル」や、22位のSUBARU「フォレスター」より順位は低いが、一世を風靡してきたマツダのSUV群と遜色ないと言っていい位置づけである。

ホンダにとってのCR‐Vの復活

新車効果を満喫する初速とはいえ、販売台数から察すれば、シビック同様に、CR‐Vの復活は、ホンダにとって、悪くない成果を残していると言えるのではないか。

というのも、近年のホンダの売りは、「N-BOX」をはじめとする軽自動車のNシリーズと、小型車「フィット」、その派生といえる「シャトル」といった小さなクルマたちが中心で、それらに続くのが、ステップワゴンやヴェゼルなどである。いずれにしても収益率の高い大きなクルマは含まれない。もし、シビックとCR‐Vがまだ市場になければ、より大きなクルマでは販売台数ベスト50に入ってくるのがオデッセイしかないことになる。


軽自動車や小型車に商品の偏りが強かったホンダに、品ぞろえの調和が取れてきた(撮影:梅谷秀司)

これでは、ホンダ本社はもとより、販売店は成約と納車の手続きで忙しいが、手元の儲けは伸びないという状況があったのではないか。

自動車販売店の収益は、新車販売以外には車検・点検や修理などのアフターサービスや自動車保険、中古車販売などで稼ぐ。それらの売り上げも、高価格帯の車種になればなるほど大きくなっていく。買い替え時に下取りできる中古車の価格や粗利も大きくなる。

消費者の多くは、手頃な大きさと価格で商品性に優れるクルマを買いたいと小型車に人気が集中したとしても、販売店にとっては高額商品も不可欠なのである。

トヨタ、日産、ホンダと国内の3大メーカーで、軽自動車や小型車に商品の偏りが強かったホンダに、品ぞろえの調和が取れてきたという側面はある。ただし、CR-Vは発売されたばかりで新車効果が大きく出る。一方、シビックは発売1年を過ぎて新車効果が剥落する。2車種復活の成功を見極めるには、もう少し時間をかけたほうがいいだろう。