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AUTOCAR JAPAN誌 79号

もくじ

ー 共通項はオープンであること
ー オープン状態での走りは
ー W型12気筒のGTC
ー 強烈な存在感の3台
ー エグゾーストノートにも個性が

共通項はオープンであること

オープンカーというカテゴリーこそ共通しているが、この3台、その構成はかなりかけ離れている。ミドエンジンのスーパーカー、フロントエンジンのグランドツアラー、それに4シーターの高級カブリオレを取り揃え、しかも強風で名高いウェールズの丘陵地帯に持ち出し比較テストしようとしているのだから、端から見ればさぞかし意味不明に映ったに違いない。

アストン マーティンDBSヴォランテ、ベントレー・コンチネンタルGTCスピード、そしてランボルギーニ・ガヤルドLP560-4スパイダーの3台は実に個性的だ。これほどまでに裕福この上ない気分を満喫できるのなら、2700万円からの価格も十分に正当だと養護したくなる。

そして、これだけ異質なもの同士なのに、お互いの実力は想像していたよりもはるかに拮抗していた。動力および運動性能、贅沢感、スタイリングなどはいずれも究極と評してよく、なにより存在そのもののセンセーショナルさでこれらを凌ぐクルマはまずないだろう。では、なかでも最高に魅力的なのはどれなのかを探っていくとしよう。

ひとまずわかりやすくほかを圧倒できる項目がDBSにはある。トップを開放する速さだ。ファブリックのルーフが持ち上がって折りたたまれ、そしてリアデッキに格納されるまでの所要時間はわずか18秒で、GTCの21秒、ガヤルドの22秒に比べてあからさまに速い。

オープン状態での走りは

もっとも、ルーフの構造と動作を知ってしまえばそれほど驚くことではない。GTCは収納すべきファブリックの面積が少なくとも倍以上あり、そしてガヤルドをルーフレスへと移行させるためにはコンパクトなキャノピーを収納するためにいったんエンジンリッドを持ち上げ、そして元に戻す作業があるからだ。要するに、DBSがとりわけ野心的なルーフ開閉機構を用意しているわけではないのである。

タネ明かしが済んでしまえば無意味な勝負だと思われるかもしれない。そう、重要なのは速さそのものではない。ルーフの構造やメカニズムの違いこそ見るべき点であり、それがそのまま各車のコンセプトの違いを明確に表しているところがポイントなのだ。

そういう違いがありながら、3台は500ps以上の最高出力を掲げ、0-100km/h加速を5秒以下でこなし、300km/h級の最高速を誇る点で共通している。その動力性能をオープン状態でどこまで味わえるのか、実に興味深い。

アストンによれば、DBSヴォランテのボディのねじれ剛性はクーペの75%が確保されているそうだが、それに伴う重量の増加は115kgと比較的少なめに抑えられている。ポップアップ式のロールオーバー・バーとバング&オルフセン製のオーディオを備えており、後者はトップの開閉に応じてアンプの出力特性が変わる凝ったシステムだ。

しかし、走行メカニズムはいたってコンベンショナルで、517psの6.0ℓV12は6段のマニュアルもしくはパドルシフト式オートマティックトランスミッションを介して後輪を駆動する。

W12気筒のGTC

GTCも同じく6.0ℓの12気筒エンジンだが気筒配列がW型であり、しかもツインターボで過給して四輪すべてを駆動する。「スピード」オプションパックが用意されるようになったのはつい最近のことだ。選択すると50psと10.2kgmが上乗せされるほか、サーボトロニック・ステアリングのチューニングも専用になる。

エクステリアでは、グリルがより直立した形状になり、大型化されたエアインテークがより低く配置され、新たにリアスポイラーが追加される。インテリアでもっとも目立つ変更は本革に施されたキルティングだ。また、オプションでレーダー式クルーズコントロールとカーボンセラミックのブレーキが用意されている(後者は今回の試乗車に装備)。

このディスクは市販車に装着されているものとしては最大である。効きもさることながら、20kgの軽量化がオープン化による135kgの重量増をわずかながら相殺してくれるメリットも見逃せない。

クーペからの重量増ではガヤルドが140kgで最大だが、それでもDBSより明らかに軽く、ましてGTCに比べたら圧倒的に軽量である。昨年の大マイナーチェンジ仕様がベースであり、新型の5.2ℓ直噴V10エンジンは40ps/3.1kgmの出力増と同時に18%の低燃費化をも達成している。

さらにサスペンションとステアリングも見直され、eギアのシフト速度は40%も短縮された。スタイリングにも細かな変更が加えられており、レヴェントン風のフロントインテークと形状を変えた前後のランプが印象を新たにしている。仕上げはディフューザーの改良で、これにより高速コーナーでの安定性が増しているという。

強烈な存在感の3台

それではこれから2日間、この3台を徹底的に駆り立ててみるとしよう。今回のミッションはコンバーティブルに対するテストとしては並外れて過酷なものになるだろう。ルーフを取り去ったことによる構造上のアンバランスに起因する問題点を、仮借なく徹底的に暴き出すつもりだからだ。

視覚的な存在感という意味では、これら3台はどれも上々のスタートとなった。

DBSはDB9に比べるとディテールに凝り過ぎではないかと感じられるほど、手の込んだ造りになっている。クーペのルーフラインが形作るエレガントな曲線美を失っているのは惜しまれるものの、ロングノーズとテールの絶妙なバランス感覚に乱れはない。そして、ルーフが完璧な美しさで格納されると、クラシカルでグラマラスな典型的「夢のスポーツカー」が現れる。

存在感の強烈さではGTCも引けを取らない。巨大なボディとメッシュのグリルがやや鈍重さを匂わせるが、ルーフを開けていなくてもそのスタイリングは十分に魅力的であり、オープン時の整然とした仕立てにはかなり神経質な向きでも文句の付けどころを見つけられはしないだろう。

ガヤルドにはメカニカルな迫力がある。車高がGTCの半分しかないので、あたかもノーズを地面につけてうずくまっているかのようだ。ルーフを閉じた状態だとまるでキャップをかぶっているみたいだが、開け放せばショートノーズ&ロングテールのシルエットがさらに強調され、その変身ぶりはドラマティックでさえある。

エグゾーストノートにも個性が

そして、そのときに外から丸見えになる派手なオレンジレザーのインテリアが、このマシーンの非実用性と非日常的魅力をあからさまに誇示するのである。

路面をこすらんばかりに低いガヤルドの、やはりフロアに座っているかのように低いシートに身体を落とし込むと、もうひとつの強烈な魅力が待ち受けていた。ジャングルの野獣のごときV10エンジンの咆哮だ。

低回転域で高負荷をかけると3800rpmまではずっしりとした野太い拍動を響かせ、さらに回転を上げていくとトランペットのような朗々たるサウンドへと変わっていくアレンジには、感動せずにいられない。

意外かもしれないが、GTCもサウンドでは負けていない。その強烈なエグゾーストサウンドはまさに豪快な加速力に見合ったものだ。ただし、複雑な設計のエンジンではあるが音質自体はそれほど奇妙なものではなく、いたって普通である。この巨体を300km/hオーバーまで加速させる心臓の鼓動としては、少々平凡すぎるかもしれない。

DBSのエグゾーストノートは高回転では小気味良いほど粒の整った美声を聞かせてくれるが、低音もなかなかのもので、動力曲線の極限を体験してみたいと思わせるタイプのサウンドである。