多くの平壌市民が動員された黎明通りの竣工式(2017年4月14日付労働新聞より)

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好調を保ってきた北朝鮮の不動産市場に暗雲が立ち込め始めた。平壌やその周辺部の高級マンションの価格が1ヶ月で3割以上暴落したのだ。

平壌市内中心部にある230平米の高級マンションは、2016年には10万ドル(約1120万円)、昨年には20万ドル(約2240万円)を突破し、今年の6月までは30万ドル(約3360万円)に達するものもあった。ところが、7月から下落を始め、8月には5万ドル(約560万円)以上も値を下げた。

平壌郊外の物流の要衝、平城(ピョンソン)の中徳洞(チュンドクトン)と駅前洞(ヨクチョンドン)のマンション価格も、今年初めの10万ドルから8月末には7万ドル(約780万円)、最近は5万ドルまで暴落した。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、不動産価格は大幅に下落したが、売りに出してもなかなか売れない状況となっている。購入希望者たちは、まだ価格が下がるかもしれないと様子見している模様だ。

情報筋は、今回の不動産価格の下落の理由について供給過剰を挙げている。

「平壌には黎明通りなど大規模なマンション団地ができて物件が増加したが、一方で(国際社会の対北朝鮮制裁などで)ビジネスが思うように行かなくなった人々が所有するマンションを売りに出していて、供給がさらに増えた」

平壌の内部情報筋は今年7月に、供給過剰の原因を次のように指摘している。

「国が『贈り物』として高層マンションの部屋を大量に供給したため、(供給過剰になって)物件が売れなくなっている」(平壌の情報筋)

(参考記事:北朝鮮に「バブル」の予感…不動産取引が活況

デイリーNKは、平城在住の新興富裕層、トンジュ(金主)が市内の高級マンションを売り払い、郊外に豪邸を建てて移り住む傾向について伝えたが、これは不動産価格の下落を見越したものとも言えよう。

不動産ブローカーは、携帯電話で各地のマンション相場をリアルタイムで把握し、取り引きを行うため、平壌で不動産価格が下落したことは遠く離れた地域にもすでに伝わっている。そのため、他の地方の不動産価格も下落が避けられない状況だ。

北朝鮮のトンジュや幹部の間で不動産投資が人気を集めるのは、単純に儲かるからだ。

北朝鮮では、土地や建物は国の所有となっており、金銭での取り引きは違法だ。しかし、市場経済化で儲けたトンジュは、1990年代から闇市場で不動産の取り引きを始めた。

政府も、そのような流れを後押ししている。2000年代からは住宅の資材、労働力をトンジュを通じて調達し、その見返りに住宅や分譲権を提供するするようになった。そして金正恩体制になってからは、トンジュが建設費を投資する形になった。平壌市内では、国の進める未来科学者通り、黎明(リョミョン)通り以外にも各地でマンション建設が行われ、利ザヤ目当ての投資も活況を呈していた。

平城では、内装を終えていないマンション(北朝鮮では一般的)を売れば分譲価格の3割が利益になり、それを次の物件に投資する形で、カネがカネを生んでいた。しかし、不動産市場の不況が続けば、内装業者など不動産関連業のみならず、北朝鮮経済全般にに悪影響が及ぶことは避けられないと情報筋は見ている。

北朝鮮の不動産価格は10年近く上昇傾向にあるが、情勢の影響を受けて暴落することもあった。投資者であるトンジュや幹部はそのたびに肝を冷やしているが、ブローカーは儲けのチャンスと見ている。

「マンション価格は下がったが、ブローカーの動きは依然として活発だ。彼らは『今こそ高級マンションを手に入れる絶好のチャンス』だと営業に力を入れている」