定年後も働きたい理由は、生計維持のためだけではありません(写真:pearlinheart/PIXTA)

「役職定年」や「定年後の継続雇用」などキャリアの節目となる出来事を、多くの人は50代から60歳前後で迎えます。そのとき、彼・彼女らの働き方や収入にはどのような変化があるのでしょうか。また、定年制度に関する意識や実態などにはどのような傾向が見られるのでしょうか。
役職定年後のモチベーション、定年後に働くことの希望やその働き方、定年後の継続雇用などについて、3回に分けてご紹介します(本記事は第2回)。今回のテーマは「定年後の働き方」です。
なお、本稿掲載のデータは、明治安田生活福祉研究所とダイヤ高齢社会研究財団が共同で行った調査の結果「50代・60代の働き方に関する意識と実態」によるものです。

「定年後も働きたい」正社員の割合は?

長寿化が進む中、重要性を増す定年後のキャリアプランやライフプランについて考える機会が今後ますます必要になると思われます。

そこで、50〜64歳の定年前の正社員に対して定年後のキャリアプランをたずねたところ、男女とも約8割が現在の勤務先に限らず定年後も働くことを希望していることがわかりました。その内訳を見ると「働きたいし、働く予定」が5〜6割で、働く場所の見込みがない・肉体的衰え・家族の介護等の理由で「働きたいが、働けない状況」が約2割となっています。

また、定年後も働きたい理由(複数回答)は、男女各年齢層とも「日々の生計維持のため」の割合が6〜7割と最も高く、次いで「生活のハリ・生きがいを持つため」が3〜5割となっています。


定年後の働き方について50〜64歳の定年前の正社員にたずねたところ、各年齢層とも最も希望の多い就労形態は、定年前と同じ企業グループで働く「継続雇用」です。男性は各年齢層で約7割、女性も50代では約7割が希望していますが、60代になると約5割となります。次いで定年前とは別の企業グループで働く「再就職」が2〜3割で続きます。

継続雇用を希望する理由については、男女各年齢層とも「今まで培ったスキルやノウハウを活かせるから」の割合が最も高くなっています。男性は各年齢層で7割を超え、女性は50代で約6割、60代前半で約7割となっています。

次いで「職場や勤務地など環境を変えたくないから」が続きます。男性約4割に対し女性は約5割と、各年齢層において女性のほうが男性より高くなっています。

「今まで培ったスキルやノウハウを活かせるから」と「職場や勤務地など環境を変えたくないから」は男女ともに高いものの、スキル・ノウハウを活かす点は特に50代では男性のほうが女性より高く、また、「別の会社の新しい職場環境や人間関係に慣れるのは大変そうだから」も含めて環境の変化を避ける点は女性のほうが男性より高くなっています。

また、「会社から継続を頼まれたから」は60代前半男性で19.2%と、ほかの年齢層や女性と比べて高くなっています。


「生計維持」以外に60代男性が働く理由

次に、定年後も実際に働いている60代男性に働いている理由をたずねたところ、60代前半では、「日々の生活維持のため」が64.7%と最も高く、次いで「生活のハリ・生きがいを持つため」が34.9%となっています。

60代後半では「生活のハリ・生きがいを持つため」が46.6%と最も高く、次いで「日々の生計維持のため」が42.9%と続きます。

また、60代後半では、「社会とのつながりを持ちたいため」28.7%・「健康のため」22.0%と、それぞれ60代前半より高い点が目立ちます。

定年後も実際に働いている理由を見ると、同じ60代でも前半では生計維持を、後半では生きがいを重視して働く傾向が見られます。


また、定年後も働いている60代男性に、現在の仕事に対する満足度をたずねたところ、満足している割合は7〜8割となっています。満足していない理由としては、7〜8割が「収入額が少ないから」、次に約4割が「業務内容にやりがいを感じないから」となっています(複数回答)。

50〜64歳の定年前の正社員、定年後も働いている60代男性にとって、働き続けるうえで最も大きな障害・課題をひとつだけ挙げてもらいました。

男女各年齢層とも「肉体的な衰えや気力などの身体的事情」の割合が最も高く、年齢が高くなるほどその割合は上がり、特に正社員女性は、50代後半の35.0%から60代前半は45.3%と高くなります。

また、「肉体的な衰えや気力などの身体的事情」を挙げる割合は、各年齢層において女性のほうが男性よりも高く、60代前半の正社員では、女性は45.3%と男性の34.0%よりも高くなっています。

「家事や家族の健康・介護」は各年齢層において女性が男性よりも上回っています。最も差があるのは50代後半で、正社員の男性3.4%に対して女性は10.5%と高くなっています。


勤務先に求めたい取り組みとは?

定年後の60代男性に対して、60歳以上の人を雇用するうえで、企業等勤務先に必要と思われる取り組みについてたずねました。

定年後に働いている・働いていないにかかわらず、「継続雇用者の処遇改善」の割合が5〜6割と最も高く、定年後も働いている男性のうち60代前半では約6割になっています。そして、「シニア層の就労についての職場の理解」「新たな勤務シフトの導入」が2〜3割と続きます。


今回の私たちの調査によれば、定年前の正社員のうちの約8割が定年後も働くことを希望しており、また、実際に定年後も働いている理由のトップは日々の生計の維持のためで、年齢層が高いほど生きがいや社会とのつながりも意識するようになることがわかりました。

定年後の働き方として最も希望が多かったのは継続雇用で、60歳以上を雇用するうえで最も必要な取り組みは処遇改善でした。

企業等にとって、労働力人口の減少に対応するひとつの手立てとして、60代社員の活性化やその働き方への工夫は従来以上に重要となります。個人にとっても、人生100年時代において収入や生きがいの確保という点で、仕事とどう向かい合っていくかは大切なテーマではないでしょうか。