他人から見るとどう考えてもおかしいことが、その内部にいるときは分からず、抜け出せないことがある。7日に公表されたスルガ銀行の不適切融資をめぐる第三者委員会の報告書では、

「数字がクリアできないなら、ビルから飛び降りろと言われた」
「机の前に起立し恫喝。机を殴る、蹴る」

など、信じられないようなパワハラが横行していた事実が明らかになった。

9月21日放送の「モーニングcross」(TOKYO MX)では、健康社会学者の河合薫さんがこの問題に注目。劣悪な企業風土から不正が生まれる構造を解説し、「最近のスポーツパワハラ問題にも通じる」と指摘した。(文:okei)

「死ね」「給料どろぼう」「出来るまで帰ってくるな」と罵倒される

第三者委員会が行った営業行員へアンケート調査では、「ノルマは厳しいと感じたことがある」に「はい」と答えた人が9割、「営業成績が伸びないことを上司から叱責されたことがある」人は7割以上に上る。パワハラが横行しており、

「毎日2〜3時間立たされる。怒鳴り散らされる。天然パーマを怒られる。1ヶ月無視され続ける」
「数字がクリアできないなら、『お前の家族皆殺しにしてやる』と言われた」
「『死ね』『給料どろぼう』『出来るまで帰ってくるな』と罵倒される」

といったことが常態化していた。

強力な営業推進政策によって上司から精神的な圧迫がかかり、「何をしてもいい」という意識が蔓延。逸脱行為でも成績が良ければ正当化され、コンプライアンスは機能していなかった。「非常に劣悪な組織風土が出来上がっていた」と報告書は伝えている。

健康社会学者の河合薫さんは、スルガ銀行にあった様々な「表彰制度」がパワハラを助長していたと見る。そもそも表彰制度というのは、頑張っている社員をねぎらう意味があり、それ自体は悪いことではない。だが、それが「成果の証」となり、パワハラで結果を出した人ばかりが昇進し、上の立場になっていったと指摘する。

「パワハラで成果が出るから、誰も止めない」構造に

その構造は、最近問題になっているスポーツパワハラに通じるものがあるという。スポーツ界のパワハラを研究し明らかになっていることとして、次の2つを挙げた。

「自身のスキル向上や勝負に勝つというポジティブな経験が、パワハラを肯定的に捉える傾向を高める」
「コーチや監督の体罰を目の当たりにしながらも、親たちが容認したり擁護したりするケースが度々確認されている」

つまり、パワハラによって成果が上がるという考えのもと、誰もパワハラを止めないという構造が生まれる。すると、

「"パワハラに耐えられない人は弱い人"ということになる。パワハラをすることは強い人を育てるという認識で、パワハラが維持される」

というのだ。スルガ銀行も同様のことが起きていたという。

700人以上のビジネスマンの話を聞いている河合さんは、パワハラで鬱になり仕事ができなくなった人の言葉を紹介した。「最初はパワハラを受けていると認識があるが、毎日会社に行って『お前はダメだこんなことができないのか』とずっと言われ続けると、自分が悪いんじゃないかと思うようになってしまう」という。

河合さんは、「自分がパワハラ上司に認められるためだけに、上司の奴隷と化してしまう」と解説し、「周りの人がそれをどうにか止める仕組みを作らないと、パワハラは無くならない」と警鐘を鳴らしている。

司会の堀潤氏は、自身も怖い上司に育ててもらった感謝の念があると振り返り、「でもダメなんですね、もう」と自戒の言葉を口にした。厳しくすることで伸びるという人もいるため、本当に難しい問題だ。しかし「天然パーマを怒られる」「家族を皆殺しにしてやる」はどう考えてもおかしい。誰もが第三者の目で、冷静に判断する心掛けが必要なのだろう。