そこに試合があることに感謝!

昨晩未明、僕のSNSのタイムラインは興奮に満ちていました。羽生結弦氏が出場するフィギュアスケート・オータムクラシックの公式配信に、各カテゴリの練習風景が映っていたからです。もともとは配信の予定はないという話で、実際に「次の配信は明け方やで」と動画のウィンドウにも表示されていたのに。問い合わせ、願い、アクセス数…そういったものが運営サイドの気持ちを動かしたのでしょうか。羽生氏の公式練習がこの配信で映りそうだぞ、そう思って多くの人がザワついていました。

一回寝てから起きてきた者。寝ずに見守っている者。起きた人から起こされた者。会社に行くときにはこんなにシャッキリしないであろう具合で、ガバッ!ムクッ!ザワッ!とタイムラインが覚醒していきます。さながらそれは夕闇のなかで家の灯りが次々にともり、街が覚醒していくときのよう。「あぁ、羽生氏の試合が始まるんだな」と懐かしい気持ちが甦ります。

昨季、羽生氏の試合は少なかった。右足の負傷により、連覇を果たした五輪1回に集中せざるを得なかった。NHK杯、GPファイナル、全日本、目の前で見られたかもしれない機会はすべて流れていきました。五輪はもはや試合云々を超越した舞台ですので、気持ちとしては昨年10月のロシア杯以来、ほとんど1年ぶりに羽生氏の試合を見る、そんな気分です。

カメラは1台、リンクの角から俯瞰で全体を映すという状態。滑る選手は豆粒で顔もよく見えません。しかし、アナウンスとともにリンクに入ってきた羽生氏の姿を見たとき、それが豆粒であってもハッキリと羽生氏であることがわかります。シルエットや立ち姿、リンクサイドのコーチの話に耳を傾ける姿勢、そして何より滑る姿がどんなサイズであっても羽生結弦その人です。

ジャンプのフォーム、とにかく美しい。流れるように滑り、助走なく思いがけないタイミングでパッと跳ぶ。跳び上がるときの淀みない流れから、空中で身体を絞り急速に回転速度を上げる。そしてまた空中で傘を開いてふわりと降りてくる。噴水の描く放物線でも見るかのように滑らかで一定しているその跳躍。ディティールがわからなくても、芯の部分だけで美しさが伝わってきます。

繰り返されるループジャンプの練習は、怪我からの復帰を高らかに示すもの。「今回はループまで」ということで将来的にはルッツやアクセルでの4回転も構想に入れているのでしょうが、何よりもまず跳びたいジャンプを跳べることが喜ばしい。平昌五輪、その時点でできることをすべてやって勝ちはしたけれど、怪我によって我慢をした部分もあったはず。今はもう我慢しなくてもよい。繰り返されるループの練習に、戻ってきたんだなぁという感慨も高まります。

白いジャージを脱いで、全身黒のウェアになったとき思います。「見やすい…!」と。さすがに「配信の映像はかなり引きだから、なるべく動きが見やすいように全身黒にしてあげよう」なんてことは考えちゃいないでしょうが(いつも大体黒だし)、もう豆粒であることはそんなに気にならなくなります。ひたすら画面を凝視して動きを追う。そして、それをたくさんの人とともに感じる。その楽しみがあること、それは試合ならではだなと感謝の気持ちでいっぱいです。

↓お帰りなさい羽生氏!記録と相手と自分と戦う勝負の場へ!

アイスショーも楽しかったし、イベントも嬉しいけれど、やっぱり試合がイイ!

悔しがったり、喜んだりする姿が見られる、試合がイイ!

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曲掛け練習で流れてきたのはフリープログラムの楽曲アート・オン・アイス。かつてエフゲニー・プルシェンコさんが「ニジンスキーに捧ぐ」というプログラムで使用した楽曲は、羽生氏によって「origin」という新たなプログラムとなりました。公開練習でも披露された「プル様に捧ぐ」をようやく全体の流れで見られる。「ショートの『ジョニーによせて』ことotonalは試合で初披露かよ!」「隠すねー!」「お楽しみはとっておくタイプー!」と興奮のなかで見守ります。「開幕前夜」、何が起こるかわからないあのワクワクに包まれて。

強い風の音のなかで翼を広げた鳥のような姿で待つ羽生氏は、鼓動のような音に合わせて首を強く振って滑り出していきました。冒頭のジャンプはクワッドループ。腰を落として滑るベスティスクワットイーグルでは指でクイッと挑発しながらリンクを大きく蛇行し、おそらく4回転とするであろうトゥループを2回転で入れてきます。ステップなどを入れるであろう場面では、しばらく流して滑るところも。むむ、まだ全貌は明かされないのか、本当にお楽しみは最後にとっておくタイプだな…!

一旦曲調が変わり後半のパートへ。後半の頭も再びループ、ここは3回転。つづけざまにクワッドサルコウとトリプルトゥループのコンビネーション。一番盛り上がりそうな部分はまたも流して動きの確認のみ。その盛り上がりのクライマックスを示すように、世界一の「イーグル⇒カウンター⇒トリプルアクセル⇒両手をあげてのトゥループ」のつなぎ。今季はルールの変更によって「ジャンプ中に手をあげる」動作の得点における意味合いは薄れましたが、演技構成として変わらずそれを入れてきました。

3部編成のようにして曲調の変化を挟んだ終幕のパート、レイバックイナバウアーで歓声を誘っておいてからの、世界一のトリプルアクセル。あとは軽く流して最後にフライングから入る足換えのコンビネーションスピンで締め。最後のスピン、アップライトでギュィィィンと回転速度を上げてからそのままフィニッシュの決めポーズに移る流れは、盛り上がる気しかしません。勝利と歓喜を確信して見守るスピン、そこでのギュィィィィン、これ好き!この流れ客ウケするヤツ、すごい好き!まだ練習の段階で、半分くらいは隠されている状態ですが、いいプログラムになる気しかしません!

↓オリンピックチャンネルが現地にスタッフを派遣し、練習の模様を全世界にお伝えしてくれました!


ISU(国際スケート連盟)ではなくオリンピックが動いた!

それが66年ぶり連覇の王者の再始動を迎える興奮かもしれない!

オリンピックにもう1回きてほしいんだな、わかるぞその気持ち!

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いやーーーーーー、よかった。まだ練習なのでこのとおり滑るとも限りませんし、ここからプログラムを練っていく段階ではあるのでしょうが、大変楽しい「観戦」でした。まだスピンもステップも衣装も隠されたままですし、プル様に捧ぐビールマンスピンなども入ってくるでしょう。ゆくゆくはクワッドアクセルという超大技もトライしてくるはず。新プログラムの進化、じっくり堪能していきたいもの。とりあえず僕は冒頭の鳥っぽいポーズと締めのポーズのマネをしながら、本番を待ちたいと思います。

「SEIMEI」は和・五輪連覇・総合最高得点の歴史を作った名プログラムでしたが、「origin」はその金字塔との戦いにも挑める予感の漂うプログラムです。「自分のために滑る」と本人からは少しリラックスした言葉も聞こえてきますが、自分のためにやることは結局、ラスボスとして全世界の選手の前に立つ「SEIMEIの羽生結弦」と競っていくことにつながります。自分の最高を追い求めれば、そこにSEIMEIやホープ&レガシーなどが超えるべき金字塔として待っているのです。

そうした過去の名プログラムたちを超えられる選手は今のところ羽生氏しかいないでしょうし、やはり自分自身で超えるべきでしょう。ルールの変更によって、文字通り永久不滅となった旧ルールでの記録は、勝った負けたを論じるのは難しい相手です。後世の選手たちのためにも、永久不滅の羽生結弦を残していくのではなく、それをも上回った新ルールでの最高の羽生結弦を歴史に刻みつけておいて欲しい。そんな「戦い」が見たいし、とても楽しみです。

夢や願望を抱いて日々を過ごせるのも、また羽生氏がリンクに戻ってきてくれたからこそ。

お帰りなさい、試合へ。

お帰りなさい、「戦い」へ。

お楽しみがまだまだこれからいっぱいあることに、感謝です!

テレ朝さんもCSと言わず、地上波で流してくれてもいいんですよ!