織機と糸を繊細に操りながら軽快な音を立てて織り上げていく

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 世界で勝負するラグジュアリーブランドへ―。岡野(福岡県那珂川町、岡野博一社長、092・952・3586)が博多織の伝統を生かしながら、洗練されたデザインの製品を次々と打ち出している。商業施設「GINZA SIX」や「六本木ヒルズ」に相次いで出店するなど、ブランド確立へ果敢に突き進む。

 経糸(たていと)を通常の織物より多く使う博多織は締めやすく緩みにくいとされ、繊細な柄を表現できる。締める時にキュッと音が出る「絹鳴り」も絹織物としての特徴の一つ。

 そんな特徴を凝縮したネクタイが「ERIOBI」。帯と同様に襟元を「締める」共通点を生かし、風車やうろこなどが連なる模様をあしらっている。スカーフ「KAI」のデザインは江戸時代に幕府へ献上した献上柄がベース。「暮らしの道具として目に写る形で伝統を飾ってもらえたら」(岡野社長)と「OKANO」ブランドの新作を出し続ける。

 5代目となる岡野社長が挑戦を仕掛ける裏には危機感がある。廃業を視野に入れていた家業を継いだ時、経営は慢性的な赤字続き。財務体質改善のため、人員整理に踏み切らざるを得なかった。

 その後、赤字が出ない会社にするために進めたのが流通経路の確立。問屋へ卸す従来の商習慣を少しずつ変えていくため、2005年に直営のアンテナショップを開いた。

 「モノを作る文化はあったが売る文化がなかった」と振り返る岡野社長。消費者と直接の接点を築く過程で「エルメスなど欧州の高級ブランドがなぜ生き残ったのか」と海外の伝統工芸の歴史にヒントを得たのが、高級路線にかじを切る契機となった。

 業界の反発にも配慮しながら戦略を練り続け、満を持して17年にブランドを「OKANO」に統一。店舗展開を一気に加速させた。そんな岡野社長が見据えるのは「技術をどうビジネスに変えていくか」。伝統工芸が産業として生き残るためさらなる高みを目指す。

【メモ】鎌倉時代に中国・宋に渡った博多商人が織物技術を持ち帰ったことが始まりとされる博多織。76年に国の伝統工芸品に指定された。18年は発祥から777年の節目として記念行事やロゴマーク作成などを展開し、普及を進めている。11月には福岡県で「伝統的工芸品月間国民会議全国大会」が開かれる。