日本橋三越(左)と新宿伊勢丹(右)

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三越伊勢丹HDの株価が上昇基調となっており、約1か月半ぶりの高値水準で推移し、さらに切り上げることも視野に入っている。2018年9月13日に19年2月の店舗休業日を廃止すると発表したことが好感され、その後も買いが入っているためだ。米中貿易戦争が中国人の訪日観光に与える影響を懸念する向きもあるが、今のところ三越伊勢丹HD株を下げる圧力にはなっていない。

三越伊勢丹HDは従来、首都圏の店舗で他の時期より客足が遠のく2月と8月の「ニッパチ」に従業員の労働環境改善も兼ねて1〜3日ずつの休業日を設けていた。しかし訪日外国人の増加などを背景に販売機会のロスを避けて売り上げを確保する方が、会社ひいては従業員のためにもなるとの判断に傾いた。従業員は交代で休みをとって負担を増やさないようにする。すでに2018年度は8月について店舗休業日を廃止しており、1年を通じて正月以外の閉店はなくなる。

前社長時代に「従業員の負担軽減」のため導入

2月と8月の店舗休業日は従業員の負担軽減のため、2012年に社長に就任した大西洋前社長が13年に導入したものだった。「ミスター百貨店」の異名をとり、働き方を含めた大胆な経営改革を進めた大西氏らしい施策だった。しかし、三越伊勢丹HDは17年春、突然の社長交代劇で杉江俊彦氏が社長に就任し、大西氏は社を去った。三越伊勢丹HDは現在、杉江氏のもとで新たな経営改革を進めているところだ。「定休日と知らずに来店した顧客をがっかりさせたくない」という狙いはもっともだが、働き方改革が叫ばれるご時世ではあり、前社長時代の遺物を排除したい気持ちが勝ったと受け止められても仕方ないだろう。

日本経済新聞が9月13日朝刊でこの件を独自に報じたが、株式市場は早速、歓迎した。この日の三越伊勢丹HDの株価は前日終値比3.5%高の1327円まで上昇、終値は1317円だった。その後も勢いは衰えておらず、米国が対中制裁関税第3弾を発表した連休明け18日も一時、前週末終値比54円高の1353円まで上昇した。三越伊勢丹HD株は2018年4〜6月期連結決算が発表された直後の8月1日に大きく下げて終値が1300円を割り込み、しばらく低迷していたが、7月末の水準に戻った格好だ。

猛暑による夏物雑貨の売れ行きが好調

足元の業績がまずまず好調であることも株価を支えている。7月の既存店売上高は前年同月比4.4%減だったが、これは悪天候やセール開始を6月に前倒しした影響によるもので、高島屋3.6%減、大丸松坂屋4.1%減と同業他社も軒並みダウンした。8月は業界大手4社が増収で三越伊勢丹は4.8%増。訪日外国人の高級ブランド品購入や猛暑による夏物雑貨の売れ行き好調が貢献した。

株価が下がる要因となった2018年4〜6月期連結算。確かに売上高は前年同期比2.3%減の2867億円、純利益は5.3%減の45億円と減収減益で、通期の見通しも4.9%減収のまま据え置いた。ただ、店舗閉鎖の影響が一巡すれば回復する可能性はあり、アナリストの評価もさほど悪くない。野村証券が8月1日に出したレポートでは、「構造改革が計画通りに推移していることを受け、今・来期業績予想を上方修正するとともに目標株価は1310円から1480円へと引き上げる」として目標株価を170円上げた。米中貿易戦争の影は無視できないが、株式市場全体が高水準で資産効果が見込まれるだけに、旗艦店舗を中心に業績が伸びることが期待されている。