フランス人は政治の議論が大好きです(写真:johnkellerman/iStock)

今月20日の自民党総裁選を前にして、日本でも政治の話題に関心が集まりつつありますが、それでも、友人同士がカフェで激論を交わすことはまれ。一方、フランス人は世界的にも政治論争が大好きなことで知られます。フランスに住む日本人女性のくみと、日本に住んだ経験を持つフランス人男性のエマニュエルが、今回はフランス人がなぜ日常的に政治の話をするのかを語り合いました。そこから見えてくる日本とフランスの違いとは?

日本人の同僚とは政治の話が弾まない

エマニュエル : そういえば、フランスと日本での政治についての違いってまだ話してなかったよね。僕が日本で初めて働いたときに、日本人の同僚との昼食中、政治の話題を何も考えずにふってしまったことがあったんだ。


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それは、こんな感じだったんだけど……。

僕「今の日本の政府の政策って、前政権のときよりもよくなったのか、それとも悪くなったのか、どう思う?」

同僚「……んー」

僕「……首相が代わったけど、今回の首相はどうだろうね?」

同僚「……」

僕「今の政府の経済政策って効果あるのかな?」

同僚「……ないんじゃない?」

それまでは普通に会話してたのに、なんか急に気まずい雰囲気になったんで驚いたんだよね。

くみ:うーん、確かに、なんか想像できる(笑)。

エマニュエル : この同じ質問をフランスで同僚にしたら、たぶんこんな感じになると思う。

僕「今のフランスの政府の政策って前政権時よりもよくなったのか、悪くなったのか、どう思う?」

同僚A「今の政府は増税することしか能がないよ。そのせいで企業が外国に逃げてしまってる。そもそもフランスは税率が高すぎなんだよ。30年以上続いている失業問題を終わらせるには、企業が採用と解雇をもっと柔軟にできるようにするべきだって、いつになったらわかるんだろうな。そもそもこんなの基礎だろうに、なんで政府はわからないんだろうね。成功してる国は、ほぼみんなこれをしてるというのに」

同僚B「そりゃ君みたいな右翼な自由主義者には金持ちから少しのお金をとるのは気に食わないだろうね。だからここ30年での貧富の不平等は広がるばかりじゃないか。何かを変えるために国民が政府に対して反逆するのを待てとでも言いたいのかい?」

もうこの話題は終わりにしようって強制的に終わらせないと、延々と話し続けちゃうぐらいなことが多いんだよね。

くみはフランス人って政治の話が好きだなぁーて感じたことはある?

バカンスに行った先で政治討論が始まった

くみ:私が初めてパリに留学しにきたとき、有名な政治系のグランゼコールを卒業した友人たちに誘われて一緒にバカンスに行った。南仏のほうに行ったから、毎日みんなで海に行ってのんびりリラックスした日々を満喫してたんだけど、ある夜、1人が「久しぶりにデバ(英語だとディベート。ここでは政治討論の意味)しない?」と言いだして、「いいね!」と賛同した1人と、1対1で形相を変えて1時間以上も激論を交わしたの。

フランスは首相選挙のとき、テレビで生中継しながら、最後に残った2人の最終候補が何時間もかけて延々と討論するのが習慣だけど、さながらそれを目の前で見ているみたいで圧倒されたのを覚えてる。

エマニュエル : 確かに、こういう政治の話題は会社の同僚だけじゃなくって、あらゆる年齢の人がフランスの至る所でしている。

たとえば高校だったら、高校生でも特定の政党を支持していることがよくあるし、政府の政策に反対する大規模なストを5年ごとぐらいにやっている。毎回、全国で数千人の高校生が参加するんだ。校舎に横断幕をかけたり、バリケードで封鎖したり、デモ行進をしたりと、数週間にわたって行う。同じようなことは大学でもみられるかな。

家族の夕食時によく政治について話すと書いたけど、僕の家も両親との夕食や親戚との食事の席なんかでは必ず政治の話題は上がっていたよ。そして、たいてい右派と左派で熱い議論になってしまうんだ。

カフェやビストロなんかでも政治の話を客同士で盛り上がってしているなんて光景もよく見られる。以前、フランスの有名なサッカー選手がイタリアでは全国のカフェに監督(気取りであれこれ議論してるやつ)がいる、と揶揄していたんだけど、フランスだったら、全国のカフェに首相がいるって言えるだろうね。

日本ではどんな感じなの?

くみ:エマニュエルの指摘するとおり、確かに日本では、あらゆる年代のあらゆる人がそれなりに政治を語る、という現象は見られないかも。私が知るかぎりでは、小規模でも会社を経営していたり、企業のトップに近い立場の人ほど日常的に政治に対する意見を口にすることが多いかな。

でも、逆に、学生とか(政治専攻は除くかもしれないけれど)、政治が自分たちとは無関係だと思っていて興味がなかったり、いわゆるサラリーマンとかは、居酒屋での話題は政治よりも、もっと身近な先輩、上司の悪口とか仕事の愚痴などが多そうなイメージ。

普通のフランス人が突然マクロン派になった

エマニュエル : フランスでは政治家について、たとえば人となりだとか、私生活だとか賄賂や権力の乱用みたいなワイドショー的な話ももちろんするんだけど、それだけでなく、どんな政策が今必要だとか、現在の政策の問題点みたいな政治そのものについて議論することも好きなんだ。

つねに政治に関心があって議論をしょっちゅうする、このフランス人の特徴は国にとっても大きな影響を与えている。

くみ:たとえばどんな?

エマニュエル : フランス革命がその典型だね。18世紀のフランス人は、現在よりもはるかに政治に関心があったんだろう。この関心の高さと議論を好む性質があったからこそ起きた革命といえる。

最近の例としては、エマニュエル・マクロンが大統領選挙のときに行った運動があげられるかな。数カ月の間に何千、何万という普通のフランス人が突然マクロンに賛同して、支持者として活動を始めたんだ。各地で集会が開かれていたし、多くの人がマクロンの政策を広めるために広報的な活動を、余暇を使ってしていた。これが本当に熱狂的で、ここ数十年の間では類を見ないぐらいに、大きな運動だった。こういうことは日本でもみられるのかな?

くみ:少し違うかもしれないけれど、日本でも、特にこれまで政治や政治家のことをあまり知らず関心もなかった人たちが急に方向転換し始めることは増えているように思う。

エマニュエル : でもフランス人は政治について話すことで、かなり多くの時間を失っているともいえる。たとえば経済に関する政治の話だと、議論に必要な知識を持っている人がそんなにいるわけでもないので、すごくつまらなくて非生産的な議論がダラダラと続いている、なんてこともけっこうあるんだ。しかも、異様に攻撃的に反論してくる人もいて、無駄な時間とエネルギーを使ったような気になることも。

日本だとこういうことはほぼないでしょう?

激論を交わしたフランス人同士がその後したこと

くみ:そうね。それぞれ、政治に対して何かしら思うところはあっても、友人とか職場の人と意見が違う可能性が高いテーマでもあるから、あえて話題に出さず、触れないという人も多いのかも。意見の違いを認め合って、それでもほかの部分は変わらず親しい関係でいられる、ということが日本では難しいのかもしれないなあ。

エマニュエル : まぁでも、いくら不毛な議論が多くて、時間を失っているといえども、政治の議論に対する執着は民主主義国家で生きるうえでは大切だとフランス人は思っているよ。少なくとも一人ひとりが社会について考えるいい機会にもなるし、独裁者が現れにくい社会にもなるしね。

日本人があまり政治の話題をしないのは、何か理由があるの? たとえば、ほかの人と違う意見を言うのをためらうとか。

くみ:「空気を読む」とか「あえて言わなくてもわかって当然」といった空気が重視されることも多い日本は、つまり同じ感覚を共有していることが前提だよね。だから、少しでも意見が違うと、互いに居心地が悪かったりする。そういう状況を避けるために、政治に限らず、よく知らない人同士だと余計に遠慮しあって、本心ではないのに付和雷同という現象が起こったりするのかもね。

さっき話した、激論を戦わせたフランス人の友人同士は、最後は興奮状態で意見の食い違いに対して互いににらみ合うような状態だったんだけど、それをずっと見守っていた周囲の1人が「よし、そろそろデバは終わりにしようか」と言うと、即座に「オーケー、ねえ、フィリップ、これからも友達でいてくれるね?」「もちろんだよ、ジュリアン!」と抱擁を交わしていた。

デバの最中は今にも取っ組み合いのけんかになりそうな勢いで、私はてっきり、彼らはこれで絶交でもするんじゃないかと思ったんだけど、その後本当に何事もなかったかのように仲良しで。とても印象的だったな。

エマニュエル : そうだね、そう考えるとこの違いはフランスと日本の根本的な社会の違いといえるかもね。またの機会にもっとこのテーマで話し合うのもいいかもね。