斉藤総一さん

写真拡大

 身に覚えのない家宅捜査をきっかけに、薬物裁判を556日傍聴し、その法廷劇の全文を書き取ったという斉藤総一さん。556日も裁判の傍聴に通い続けるようになり、それだけでなく、彼は文字通りその法廷劇のやりとり全文を書き取ってきた。今回紹介するのは、前回紹介した裁判の被告女性の交際相手である。男女の関係性に覚せい剤はどう作用するのか? そのリアルを伝える法廷だ。

※プライバシー保護の観点から固有名詞や住所などはすべて変更しております。

 前回紹介した裁判は、覚せい剤を摂取し不審な言動をとっていた女性を心配して自宅を訪ねた女性の姉が、覚せい剤と注射器を見つけて警察に通報したというケースでした。今回の被告は、その女の交際相手の村上正和(55歳)。

「公訴事実。被告人は法廷の除外事由がないのに、平成28年4月下旬頃から同年5月9日までの間に、東京都内または、その周辺において覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン、またはその塩類若干量を自己の身体に摂取し、もって覚せい剤を使用したものである。罪名および罰条、覚せい剤取締法違反、同法第41条の3第1項1号19条。」(検察・起訴状)

 今回も覚せい剤の使用ですが、村上が使用した場所は「都内または、その周辺」と非常に漠然としており、この起訴状からは人間性、人柄、そういったものはわかりません。村上はどんな男なのか。検察官の冒頭陳述を聞くと、それが少しずつ見えてきます。

検察官「(前略)まず身上経歴等ですが、被告人は高等学校を中退後、職を転々とし、本件犯行当時は無職でした。離婚歴がございます。前科は同種前科5犯を含む前科13犯を有します。犯行に至る経緯および犯行状況等ですが、被告人は平成元年から平成17年までのあいだに、5回覚せい剤取締法違反で有罪判決を受け、いずれも服役しています。犯行状況は公訴事実に記載したとおりです。被告人は平成28年5月9日に警察官に尿を任意提出したことから、本件犯行が発覚しました。(後略)」

 ここまで読むと、村上が“常習者”であることが伺いしれます。今回の逮捕は11年ぶりということですが、以下の弁護人とのやりとりを聞くと、前科の多さゆえか手慣れた感があり、やはり「通り一遍の受け答え」という印象を拭えません。

弁護人「前回の覚せい剤取締法違反の裁判のあと、いつから再び覚せい剤を使用するようになったんですか?」
被告人「11年振りだから、今年の4月あたり。」
弁護人「そこで再開するまで、覚せい剤は使用しなかったということでいいんですか?」
被告人「はい」
弁護人「なぜ再び覚せい剤を使ってしまったんですか?」
被告人「仕事に嫌気がさして、仕事をしてもお金にならないという、嫌気があったので、それを埋めるために使用しました」
弁護人「仕事に対する不満とかストレス、あるいは疲れ。そういったところですか?」
被告人「はい」
弁護人「今回の覚せい剤はどこで入手したんですか?」

 文面からは神妙な態度ともとれますが、この後、被告人は検察が具体的な話に踏み込むと「よくわからない」という曖昧な答弁を繰り返します。検察官が過去の逮捕について触れ、「やめていたのに手を出せば、また前に戻ってしまうと思わなかったか?」と聞くと、被告はまた「結果的にはそうなったが、よくわからない」と答えます。もちろん、検察官はそう簡単には納得しません。

検察官「よくわからないなんて言う人が、今後覚せい剤をやめられると言えます?」
被告人「年も年だし。産まれてくる子供のために頑張って働いて、仕事さえマジメにやっていれば、薬なんかに手をだしませんから!」
検察官「でもこのときも、マジメに仕事をしていたのに、お金にならなかったから、覚せい剤に手を出してしまったんじゃないんですか?」