中村幸嗣(元自衛隊医官、血液内科医)

 漫画『ちびまる子ちゃん』の作者、さくらももこさんが53歳の若さで永眠されました。死因は乳がんだそうです。

 タレントの小林麻央さんの時とは異なり、詳細な病歴は不明です。闘病中の情報が表面化しなかったのは、さくらさんがあくまで漫画のイメージを大事にされていたのだと感心します。ご冥福をお祈りします。

 さくらさんのエッセーに印象深い一節があります。生前に「死は誰にでもいつか訪れます。でも死ぬまでの間は生きています。生きている間は生きていることを満喫しようじゃありませんか」と綴っていたのです。

 私も医師として、「答えのない問題に対する不安で押しつぶされて生きていても楽しくないですよ。前を向いて進みましょう。ただ、疲れたらいつでも休みましょう」と、いつも患者さんに言っています。

 さくらさんもそうでしたが、最近、比較的若い人のがんの報告が目立ちます。血液疾患は、昔から若い世代の人間がかかる病気でしたが、上皮系のいわゆるがんは私が医師になりたてのころ、若い人の死因の中でそこまで多いものではなかった気がします。

 この間、自身のがんを公表した山本KID徳郁(のりふみ)さんも41歳です。メディアの発達もあるのでしょうが、なんとなく若年者のがんが現場では増えてきている感じがします。もちろん、高齢者も含めて、がんの総数が増えているだけなのかもしれません。

 また、治療の進歩で「がんサバイバー」が増えたためでしょうか、今、15〜39歳の若い世代、いわゆる「AYA(アヤ)世代」へのがん対策研究が行われています。今年約2万人が発症していると、ようやくわかったくらいで、研究はそれこそまだ始まったばかりです。それでも、AYA世代への対応が、全年齢対象へのより良いがん対策に結びつくのではと、さまざまな社会対策を含めて検討されてきているのです。

がん闘病を告白した山本KID徳郁=2015年1月(桐山弘太撮影)

 とはいえ、なんとなく不安を増強させる有名人のがん、そして特に亡くなられたと報じられると一般の方は不安になります。

 「原因は一体何?」「自分がなったらどうしよう」「どうやって予防すれば」「どうやって診断すれば」「どうやって治療すれば」「どの病院に行けば」と、情報はどんどん錯綜(さくそう)し、増えていきます。

 このような患者の葛藤やジレンマの原因を、国立がん研究センターが分析した資料があります。

1・選択肢についての知識・情報の不足

2・ある選択肢に過大・過小な期待をかけている

3・価値観がはっきりしない

4・周囲の人の価値や意見がよくわからない

5・ある1つの選択肢に対する周囲のプレッシャーがある

6・自分の選択を聞いてくれたり認めてくれる人がいない

7・これらの障害を乗り越えるスキルや支援がない

 複雑に絡み合い、このように混乱している患者さんに、「善意の第三者」から、「テレビや週刊誌でこう言っていた」、「この食品がいいらしい」、「この壺のお水に御利益があるそう」などとトンデモ情報が次々送られます。そういう「ありがた迷惑」を断ったら、「罰当たり」と呪いの言葉を浴びせられることも多いらしく、患者さんの不安はさらに増幅します。全くとんでもない話です。

 そこで、がんとは何なのか、そしてみなさんはいざというとき、どうすればいいのか、もう一度整理したいと思います。

 まず、がんには「一度かかってしまうと短期間で死に至る疾患」という印象が、一般の方には存在すると思います。まず、この印象が最大の間違いです。

 実はがんもいろいろあって、本当に千差万別です。1カ月以内に進行して命を落とすものもあれば、10年以上病状が全く進行しないものもあります。それこそ、自然に消滅するがんすらあって、かえって健康食品関係の「治癒ネタ」に使われてしまう場合もあるわけです。

 一方、進行しないがんとして有名なのが、甲状腺がんや前立腺がんです。検診で見つかっても、すぐには治療の必要ないがんの代表になります。また少し専門的な報告ですが、検診で見つかる乳がんにも、ある程度の割合で治療しないでもいい乳がんがあるという報告が最近なされました。

 技術が進めば進むほど情報が増えて錯綜し、100%の答えを出すことが難しくなっています。そして、これだけ医療が進歩しても治しにくいがんがあることも事実なのです。

国立がん研究センターがん予防・検診研究センター

 つまり、がんといわれたら、治療すべきか経過をみるべきか、手術するのかしないのか、抗がん剤や放射線治療をするのかしないのか、正直そのがんによって選択肢は全く異なるということになります。悪性リンパ腫の中でも濾胞性リンパ腫とびまん性大細胞型リンパ腫があるように、同じ名前の一つのがんでも、本当にさまざまな多様性があるのです。

 当然、同じ名前のがんでも、治療への反応が違うし、個人でも反応が違います。そのようなことを考えた上で、現場では個別に治療を変える必要が出てきていますし、悪性度、個人の状態によって薬の量を変えることなどはもう当然のこととして現場で行われています。

 このように、がんの多様性を知れば知るほど、全てのがんに効果のあるとうたう健康食品などは間違いということが理解できると思います。そういろいろながんがあるのに薬が一つでいいわけないのです。

 このことを踏まえた上で、今現在ある最適ながん治療との向き合い方はなんでしょうか。最善の方法は医療者との信頼関係の構築、良好なコミュニケーションになります。

 患者さんは、がんの種類とは関係なく、年齢、価値観、社会的状況、経済的状況、いわゆる生き方(宗教など)によって全く異なります。その意味でも、どのように治療を行っていくかは医療従事者と患者さんのコミュニケーションによって成り立ちます。

 今、医療従事者ができることは、エビデンスや医学的アセスメントに基づき、意思決定のためにさまざまな情報を与えることになります。

1・十分な情報提供からの治療選択肢の提示、医学的助言、意思決定の支援(がん治療の緊急性、生命予後などの情報)

2・医療の提供(副作用に対処しながらさまざまな治療法の実施)

3・患者の教育機会の提供(治療における必要事項など)

 正直その医療の質はかなり異なりますし、専門的な部分も多くわかりにくいものです。そして、その情報を患者自身が確認した上でできること、すべきこととして以下の3点が挙げられます。

1・治療への能動的参加(受動的ではがんが治っても寝たきりになってしまう恐れ、リハビリなど)

2・さまざまな自己管理(タバコ、アルコール、リハビリなど)

3・精神的安定を含めての医療者とのコミュニケーションの継続(気軽に話し合える、弱音を出せるなど)

 これらを踏まえた上で患者の自己決定権に基づき治療法を決め治療を継続していくことがより良いがん医療となります。

 私が最終的に患者さんたちに答えとして言えることは「がんはまだまだわからないことがいっぱいあります。だから今はっきりと証明されている一番いいといわれていることを医療者と一緒に淡々とやっていきましょう。答えは100%ではないかもしれませんが、最大の確率で恩恵が受けられます」です。俗にいう「標準治療」ということになります。

 その上で信頼できる医療者と切磋琢磨(せっさたくま)し、新しい情報をしっかり整理し、自分の価値観で予防法、診断法、治療法などを決めていってください。その「標準治療」で稼いだ時間でまた次のいい治療が受けられるかもしれません。