おいしい水に、おいしいお酒。大人の休日は「神津島」

写真拡大 (全26枚)

「どこにもいかないまま、夏が終わってしまった…」「9月になったけど、まだまだ遊び足りない!」

そんな不完全燃焼を抱えているあなた。週末にひょこっと「東京の島」へ出かけてみるのはいかがでしょうか。思わず「ここは東京?」とつぶやいてしまう、うれしい「裏切り」に出会えること請け合いです。

「島好きライター」である薮下佳代さんが、東京の島の楽しみ方を5回にわたってガイドします。

島好きライター
薮下佳代(やぶした・かよ)
編集者・ライター。2009年、新島を訪れてから東京の島の魅力にはまり、2011年、大島から神津島までの5島を紹介する東京の島のガイドブック「島もよう」(エスプレ)を制作。2018年夏、東京11島を取材した「東京 島の旅 伊豆諸島・小笠原諸島」(京阪神エルマガジン社)を出したばかり。
 
今から9年前、新島と出会ってからは、東京の島で夏休みを過ごすのが私の定番になりました。

そのほとんどは新島だったのですが、今年、7年ぶりに神津島を訪れてみて、こんなにも大人の夏休みにぴったりな場所はないのではないか?と思えるほど、最高に楽しい時間を過ごすことができたのです。
東京・竹芝桟橋から高速ジェット船で終点まで。大型客船ならのんびり行くこともできますし、飛行機でサクッと行くこともできます。そのチョイスがいくつもあるのはやっぱりうれしい。

お酒好きにはたまらないクラフトビールのお店ができたことで夜の楽しみも増えました。海だけでなく山もあるから、朝は山へ登って、昼はビーチでのんびり、なんて欲張りな楽しみ方もできます。

民宿ではびっくりする量の舟盛りが出てきますし、歩いてすぐの場所で星空も見ることができます。

ひとつだけ残念なのは温泉が21時で閉まってしまうことぐらい。ま、夕日の時間に楽しめばいいのですが。

9月でもまだまだ海に入れますし、夏休みの子どもたちがいなくなった9月こそ、静かに過ごせる大人の夏休みにベストなんじゃないかと個人的には思うのです。(毎度、台風だけが心配なのですが…)
 
 
 
「東京の名湧水57選」にも選ばれたおいしい水はひんやり冷たくて、乾いたのどを潤してくれます。水筒か空のペットボトルを忘れずに。
湧き水がこんこんと湧き、神話が今に残る神津島。その昔、伊豆諸島の神々が天上山に集まって、水の分配について話し合ったといいます。水があるかないかは島では死活問題。島の神様たちは先着順に分けることを決めました。

一番に到着したのは御蔵島の神様。そのため、今でも御蔵島は水が湧き出る緑豊かな島なのです。次に新島、八丈島、三宅島、大島と水が配られていきます。

だんだんと残り少なくなっていく中、最後に寝坊してやって来たのは利島の神様でした。ほとんど残っていない水に怒った利島の神様は暴れてしまい、残りわずかな水があちこちに飛び散ってしまいました。そのおかげで神津島では至るところで水が湧き出ているというのです。
多幸湾から見た天上山。白い山肌がむき出しになっており、圧巻の景色。
大迫力で、眼前に迫ってくる神津島・多幸湾の白い崖。恐ろしいぐらいの海の青さと、その荒々しい山肌のコントラストに胸がざわつきます。

そんな麓から、水がこんこんと湧き出てくるのです。惜しげもなく流れていく清らかな水は、ひんやりと冷たく、なんともまろやかな甘みのある軟水。島で真水はとても貴重なもので、これほどまでに豊富な湧き水が島にあるのはとても珍しいこと

神津島では水道水にもこのおいしい水が流れてくるというぜいたくさ!島の人も毎日汲みに訪れては、タンクいっぱいに持って帰る姿を見掛けます。宿のごはんがおいしいのも、この水のおかげ。いつもはそんなに食べない白米も、朝も夜もおかわりしちゃうほどおいしいのです。
神津島酒造の島焼酎「盛若」。樫樽で熟成された麦焼酎。湧き水で割れば、より一層まろやかな味わいに。

そんな湧き水の島で生まれたクセのない島焼酎「盛若」は伊豆諸島で最も有名で、どの島へ行っても島民から愛されています。島で生まれたお酒を、島の水で割って飲めるなんて、呑んべえにはもうたまりません!

2017年には伊豆諸島で初めてのクラフトビールが飲めるブルーパブ(醸造所付きパブ)も誕生しました。湧き水の豊富な島だからこそ生まれる美味なるお酒で、さぁ乾杯です!
できたてのビールが味わえるブルーパブ「Hyuga brewery(ヒューガ ブルワリー)」が2017年にオープン。島の特産品「明日葉」を使った「アンジー」はその独特の香りがビールの苦みとマッチ。赤イカの塩辛と一緒に。
 
 
 
島の中央には、天上山という名の山があり、神津島のシンボル的な存在です。

標高572mの小さな山ながらも、バラエティに富んだ景観が楽しめるとあって、山好きな人にも愛されています。

登り始めてたったの30分で山頂へ。そこに至るまでは、真っ青な海を眼下に見ながらのオーシャンビュー!ヤッホー!と海に向かって叫びたくなります。

この山のお楽しみは、登り切った後にこそあります。白砂の砂漠のような地帯、ハート型の池、季節ごとに咲く色とりどりの花、ころころ変わる景色に飽きることのないハイキングコースは、何時間でも歩けてしまう、魅力にあふれた山。

しかも、歩きやすい靴と長袖長ズボンがあれば十分登れてしまう、初心者にも優しい山なのです。
神々が集まったといわれる神話の舞台「不入ガ沢」を左に見下ろしながら山頂を目指します。
青い海と空がどこまでも広がり、ひとつになって島を包んでいます。そんな景色を眺めながら登山ができるなんて、なかなかない経験!
こんな景色を歩いていると、その先には真っ青な海が!

天上山は新日本百名山にも選ばれ、「海に浮かぶアルプス」とも称される人気の山なので、時間や見どころによって選べる登山ルートも豊富。島の人に聞けば、オススメの登り方を教えてくれるはず。海に吸い込まれそうな絶景登山を、ぜひ体験してみてください!
 
 
 
穏やかな前浜海岸は島の人も訪れます。8月を過ぎれば、人も少なくのんびり。
宿のある西側の集落から歩いてすぐにある「前浜海岸」の遠浅の海。

「多幸湾」の吸い込まれそうな海の青さ。

吊り橋や飛び込み台もあり、夏場は子どもたちで大にぎわいの「赤崎遊歩道」。

神津島の海は場所によって違う青さで、通るたびにカメラを向けたくなる美しさ。何度も撮っているのにまたシャッターを押してしまう。それほど、毎回心が動く、そんな海があります。
赤崎遊歩道の吊り橋からダイブ!(昨年の台風で壊れてしまったため、修理中の箇所があるとのこと。立ち入り禁止の場所もありますのでご注意を)
島内を走るバスか自転車に乗って、島の端っこにある赤崎遊歩道へ行くと、ぷかぷかと浮かび、魚と戯れる人たちがいっぱい。

ここは岩場に囲まれた入り江になっており、魚たちがいる格好のシュノーケリングスポット。勇気を出して吊り橋からダイブ!なんてスリリングな体験もできますよ。

私は見ているだけで足がすくんでしまいますが、みんなとても楽しそう。いい大人たちが順番待ちする姿もなんだかほほえましく感じます。
集落の中にある商店は食べ物だけでなく、日用品に衣服など何でもそろいます。
西側の集落はコンパクトなので、歩ける範囲に宿はもちろん、飲食店やお店があってとっても便利。集落内は一方通行も多いので、レンタカーの場合は要注意です。

西側にはビーチや温泉、神社に巨大な岩や笑っている不思議なえんま様が祀られている「えんま洞
などの島の見どころが集中しています。

夕日の時間に合わせて温泉へと向かい、オレンジ色に染まる海を眺めながら入る露天風呂は格別です。汗を流してさっぱりした後は、お楽しみの夕食が待っています。

温泉から宿へ帰る道すがら、のどの渇きと空腹で思わず走って帰りたくなることも。そんなふうにワクワク、ソワソワする気持ちは、大人になってからずっと忘れてしまっていたのかもしれません。この遠い感覚がよみがえってくる時、子どもみたいな夏休みを心から楽しんでいる自分に気が付くのです。
 
 
 
伊豆諸島の中でもとりわけ漁師が多いといわれる神津島では漁業が盛ん。宿はもちろん、定食屋や居酒屋など至るところで魚が食べられるのも神津島ならでは。

代表的な魚は、一本釣り漁で獲る金目鯛!都内で食べると高級な金目鯛ですが、神津島ではとってもリーズナブルにいただけます。煮付けなんてまるまる一匹出てくることもあって、びっくりします。お刺身は、脂の乗ったとろりとした食感でもううっとり!

漁師さんが営む民宿では、夕食に舟盛りで出されるお刺身はてんこ盛り。金目鯛、メダイ、アカサバなど季節のお魚に事欠きません。
大人気の食堂「よっちゃーれセンター」でのランチ。漬け丼、刺身定食、煮魚定食には、明日葉の天ぷら、おひたし、小鉢、名物のところてんなどが付いて1000円〜。あぁ、おなかいっぱい。
また神津島で「ウナギ」といえば「ウツボ」のこと。天日干ししたウツボを短冊状にして唐揚げにしたもので香ばしくて旨みがあり、おつまみに最高なんです。居酒屋さんで食べることができるので、ぜひオーダーを。

ほかにも神津島名物の赤イカの塩辛や、夏に出回るタカベ(しっとりとした身が最高においしいんです)、冬は伊勢エビなど、どの時期に来ても旬のおいしい魚に出会える神津島は、魚好きの楽園。

島のおいしい魚とお酒があれば、もう言うことなし。大人の夏休みなんですから、思い切り飲んで食べて、あとはぐっすり眠るだけ。こんな幸せな休日、最高だと思いません?



↓もっと詳しく知りたい方は↓ 
 
 
「島の旅」といえば、沖縄? それともハワイ? いえいえ、実は東京にもあるんです、すぐに行ける素晴らしい島々が。次の週末にでも思い立ったら船や飛行機でらくらく行ける伊豆諸島から、上陸できるかは“運次第”な絶海の孤島・青ヶ島、そして24時間もの船旅を経てたどり着ける憧れの小笠原諸島まで。東京の有人島11島すべての過ごし方、見どころ、ごはん屋さん、宿、おみやげまでを紹介する、唯一無二の旅行ガイド。(京阪神エルマガジン社 1200円+税)
イラスト/阿部伸二(カレラ)
写真/志鎌康平
編集・文/薮下佳代
デザイン/矢部綾子(kidd、マップ)、桜庭侑紀