「日本の銀行員で付加価値の高い仕事をしていない人は、年収300万円くらいまで下げたほうがいい」。ぐっちーさんは消費者目線でズバリ言う(撮影:今井康一)

「高金利通貨やビットコインなどは紙切れである」、という話はすでに2008年あたりから「アエラ」などで書いている私の持ちネタの一つでありまして、著作にも散々書いておりますので、「後出しじゃんけん」ではありません。

せっかくですから、この機会にわたくしの著作も是非お読みください。この10-11月にまた新刊が出る予定ですが、こちらはぐっとAI(人工知能)に迫ったものになっておりますので、そちらもお楽しみに(残念ながら東洋経済新報社さんから出るわけではありませんが・・・笑)。

5000万円の融資がたった2日で実行されるアメリカ


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

さて、私の場合、経済評論家である一方、実際には「日米星の3カ国(星はシンガポール)において事業を展開している中小企業経営のおやじ」というのが本職なわけで、やはり「現場で見えてくる変化」というのはすさまじいのです。正直、大学の先生やテレビでしゃべっているような人たちが話しているような話はもう大分古い、というのが実感です。

先週、この定期コラムを輪番で担当しているお一方である吉崎達彦さん(双日総合研究所チーフエコノミスト)が現地レポート「上海『シェア自転車』ブームはもう去っていた」をお書きになっていましたが、先日、未だに中国では自転車のシェアライドが進んでおり、日本は遅れている、とテレビでしゃべっていた大学の先生がおられたので大笑いして見ていました。そう、もう終わってるんです、中国では・・・・・・。

実際、経営の現場はそんな生ぬるいレベルではなく、例えば「フィンテック」とひとことで言いますが、ワタクシが数年前アメリカで、あるフィンテック企業から5000万円ほどの融資を受けたときは一人の担当者に会うこともなく、わずか2日で入金されました。

もちろん、私のクレジットカードデータ、納税記録、生命保険の状況など、かなりの個人情報が引き換えで渡るわけです。しかし、一方日本はというと、ワタクシの会社において、わずか2000万円の融資に際し、支店からぞろぞろ4〜5名がやってきて、「ハンコが薄いので押し直してください」、とかなんとか、なにかと面倒な手続きを時間をかけまくっています。こんな日本の銀行の融資部門はガラパゴスどころではないような気がします。

昨年、みずほフィナンシャルグループが「約6万人の行員を10年のうちに1.9万人削減して4万人規模に移行する検討に入った」との報道があり、日本の金融業界にも衝撃を与えましたが、金融業に関して言えば、正直10年などというそんな長い時間は残されていないでしょう。私が取引したフィンテック企業は取り扱い資金量で言うと4-5兆円くらいですので、日本でいうと地銀の中位行といったサイズで、社員数は20数人です。たったそれだけでいいわけですね。

金融はAIに向いている典型的な産業

実は2年ほど前、この話をしながら「みなさん、クビになりますよ・・・」と地銀の支店長が集まる講演会で致しましたところ、場内は失笑の嵐となって、こちらが驚きました。この種の話が近未来の話だとお思いだったのでしょうが、すでにアメリカでは現実に動いていた話で、今となってはこれを笑える日本の銀行員はいないと思います。

さらに驚いたのはそのあとの懇親パーティー。某地方銀行の支店長が、「山口さん、あんたはもうアメリカに長いので日本の事情に疎くなっているんです。われわれのような人間が毎日毎日汗水たらして取り引き先に通い、不在なら名刺を置いて、それでも毎日顔を出す・・・そうやって営業を積み重ねてビジネスをするのが日本の金融業であって、それをしなければビジネスが成立しないのが日本なのです。あなたは実情がわかっていない」
とおっしゃるわけですね。

この話、いかがですか? サービス受ける側からすれば、手間がなく、安くお金を借りられた方がよくないですか。なので、私はその支店長にこう申し上げました。「仮にそうだとすると、そんな仕事をやるためだけに年収1500万円(地銀の支店長の平均的な給与水準)をとっているあなたは不必要ですよね。そんなことをするだけならせいぜい300万円で十分で、ATM(現金自動預け払い機)の手数料をタダにした方が、よっぽどいいんじゃないんですかね」と申し上げると、さすがに支店長は下を向いておられました。

キーポイントになるのはやはりAIで、要するに金融業は典型的なAI向きの産業であり、いの一番に人間が淘汰される業種です。早く、正確に数字を管理することはAIの最も得意とするところで、人間の仕事が残るのはごく一部、これまでにやったことも見たこともない業務に融資するかどうかの判断くらいだと思います。

しかし、今の銀行はそういう業種には「前例がない」と言って融資はおろか見向きもしないところが少なくないわけですから、それならAIですべて済むはずです。実際、岩手県・紫波町で、「オガールプロジェクト」(「雪捨て場」のようになっていた駅前の公有地を「公民連携」で再開発。都市と農村の新しい結びつきを創造するプロジェクト)を開始するときには銀行に融資を依頼しましたが、当初は県内の信用金庫に至るまで、軒並み却下されました。

銀行は、さっさとAIを導入して銀行員の給料を300万円くらいまで下げて、みなさまが金融機関に払っている手数料(外貨交換手数料が一番ひどいですね。米ドルを買うときも売るときも両サイドで1円ずつとるって、なんなんでしょうか)など、タダやタダに近い形にできるものがたくさんあるでしょう。これがサービス業というものであります。

新たな中小企業のビジネスモデルが確立しつつある

一方、「金融業以外で大きな流れが来ているな」、と思われるものに、われわれのような中小企業の活躍できる場が大きく広がってきたことがあります。これまでの大量生産による「安くて品質が均一のもの」を、「広告宣伝費をバラまいて大量に販売する」、というビジネスにおいては、中小企業はその量をカバーできる設備投資ができないので、特に工業に関しては大企業の下請けに入るしか生きる道はありませんでした。小売業などでは、大手スーパーなどに一方的に淘汰されるだけで、日本中の商店街がつぶれまくったわけです。

ところがここ数年、「消費者の大量生産品(工業製品)離れ」、がますます鮮明になってきています。従来からの消耗品は徹底的に安い物を追求する一方で、本当に欲しい物・・・・人によっては洋服だったり、車、家具、時計など、食べ物も高級イタリアンやフルーツなど・・・についてはある種「値段は関係なく、良い物には支払う」、という消費者がどの分野も激増しているのです。

こういうものを扱っている中小企業(ほぼ個人商店と言っていい)はすごい利益率を誇るわけですが(単価が高いから)、そのオーナー達は作っている動機そのものが売れるから、ではなく、自分が好きだから、という方が非常に多く、マニアックな供給者とマニアックな消費者が固く結びあったようなビジネスモデルが出来上がっています。SNSのお陰で広告宣伝料なしにあっという間にマニアの間に情報が拡がっていき、売り上げが増えていく、というのが最近成功している新しい中小企業のビジネスモデルなのです。

何しろ、会社を作る初期投資は物すごく安くなり、300万円もあれば十分会社を設立できます。最もかかるコストが人件費とオフィス賃貸料ですから、ともに安価な地方でビジネスを起こす方が絶対的に有利です。昨年、岩手県紫波町につくった「はちすずめ菓子店」は完全なビーガンフードショップ(絶対菜食主義者のための店)で、パイやキッシュなどを調理販売していますが、売り上げが倍々ゲームで増えています。

店主の女性1人(阿部静さん)、アルバイト2人ですので、むしろ生産量が追い付かないという問題がありますが、価格も通常のアップルパイよりはるかに高いにもかかわらず順番待ちの顧客が行列をなしているわけですから、3人を養うには十二分の利益が出ており、ビジネスとしては大成功です。

こういうビジネスは、東京だと高い家賃に負けて続けられません。いわゆる「コスト負け」です。しかし、地方ならできるのです。彼女(阿部さん)はたまたま自分がビーガンだったこと、料理が好きだったこと、料理は見た目も重要だ、という個人的趣味が融合してこういうビジネスになっただけです。恐らく読者の皆さんのだれもが、「こういう何か」、をお持ちなのではないでしょうか。それが実際にマネタイズ(お金になる、稼ぐ)できる時代がやってきた、と考えると、この時代は決して悪い時代ではない。個人にとっては企業のサラリーマンという「奴隷」のような生活から解放されるチャンスがあるわけです。

これで思い出しましたが、佐藤優さん(作家・元外務省主任分析官)とお話したときに、佐藤さんが「日本のサラリーマンは奴隷以下だ」、とおっしゃられていたのが印象的です。つまり、帝政ローマ時代でさえ、奴隷は「必要な再生産コスト」を受け取ることが最低条件だった。人間にとっての再生産コストとは、食べて、寝て、家族を養い子孫を増やして教育をして一人前の大人にする一連のコストにほかならない。その金もない、という現代の低賃金労働者(非正規雇用者)は、奴隷が保証されていた賃金すらもらっていないことになる、というのが佐藤さんの解説です。

先ほども書きましたが、AIのおかげで今や起業コストはとても安い。サーバーもアマゾンと契約すれば課題は解決しますし、税務申請はほとんど税務署がくれるソフトでことが足ります。労務管理も同様で、グッチーポストの例で言うと10年前の会社設立時と同様のことを今やると、だいたい10分の1くらいのコストで済んでしまいます。誰でも手軽に稼げる時代が来たわけです。

そうなると、経済全体の動きも当然変わってくるわけで、いつまでもGDPばかり見ているような政策決定は間違うに決まってる、としか言いようがないわけですが、「大学の先生には多分伝わらないだろうな」、と思いながら、こうして皆様に発信をしているわけです。やるかやらないかはみなさま次第ですが、人間らしい生活を取り戻すチャンスが出てきたのは事実です。

(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

さて、いよいよ秋競馬が始まります。いろいろなレースがありますが、ワタクシが選んだのは阪神競馬場で行われるG1スプリンターズステークスの前哨戦である、産経賞セントウルS(G2、9月9日阪神競馬場11R、芝1200メートル、)。

セントウルSはギャンブラーとして「一発大勝負!」

と言いますのは、このレースは例年荒れに荒れて高配当が付くので有名なレースでありまして、ギャンブラーとしては「ここは一発大勝負!」と行きたいところなんであります。

何せ、「近代最強スプリント馬」と言われるロードカナロア(2013年度のJRA賞年度代表馬)が2013年の1年間でたった1回負けたレースがこれ、と言えばお分かりいただけるのではないでしょうか(ロードカナロアはクビ差の2着。勝ち馬はハクサンムーン)。

どうしても本番スプリンターズSがターゲットになるために、有力馬がこのレースをめがけてパンパンに仕上げて来るわけではないため、足元をすくわれるケースが多発する、わけですね。ということで穴馬さがし。

過去10年のレースを見てみると、3歳馬の活躍が目立つことがわかります。だからといって「3歳なら何でもOK!」というわけでもなく、やはりオープン特別、重賞を勝つくらいの力は必要です。

そうなると、今年の場合、アサクサゲンキとアンヴァルという2頭の3歳馬が浮かび上がってきます。アサクサゲンキは昨年の小倉2歳S(G3)を勝って以降、勝ちには恵まれていませんが、掲示板にはしっかり乗ってくる堅実な走りが続いており、古馬との対戦も経験済み。ま、こちらはある程度は人気になるでしょう。

完全に見落とされそうなのがアンヴァル。

昨年の2歳時に、未勝利から500万下、オープン特別の福島2歳S(福島・芝1200メートル)まで3連勝を遂げているのですが、その後色気が出たのかクラシック路線に転向したものの、成績が振るわない。元々スプリンターっぽい体型をしていることもあり、どう見てもクラシックでは距離が長い印象があり、陣営も2走前から1200メートルに路線を戻したのですが、馬がペースをつかめず、今だ未勝利。

しかし、前走のG3北九州記念(8月19日小倉芝1200メートル)では勝ち馬からはコンマ7秒差の10着と着順以上の接戦で、しかも3カ月ぶりのレースだった・・・などなどを考慮するとこの辺で一発あっても全然おかしくないですね。前走がプラス14キログラムでかなり余裕を残していたので、馬体重が減っているという前提でアンヴァルを推してみたい。いや〜、これはギャンブル感満載のレースでありますな。