企業の「クールビズで」という服装指示が就活生を迷わせる(写真:Fast&Slow / PIXTA)

「就職活動=黒スーツ」は日本だけの風景。当事者である就活生と企業はどのように考えているのか。

人事関係者にとって、黒のリクルートスーツは見慣れたファッションだが、就活生以外で黒のスーツを着ているビジネスマンはまれだ。通夜や告別式以外で見ることはほとんどない。滅多に見ない服装なので、会社訪問する黒スーツ姿の就活生は目立つ。


春先でも就活生は異様に見えるが、連休を過ぎて気温が上がり、梅雨を過ぎ、高温多湿な夏になっていくと、さらに違和感が増す。というのも、ビジネスマンのファッションはむしろカジュアル化しており、就活生の堅苦しい服装との差が目立つからだ。

総務省の家計調査によれば、1世帯あたりのスーツ(背広、ネクタイ、ワイシャツの合計)の年間支出額は、1991年(バブルがはじけ始めた年)に2万5000円超とピークを迎えた。ところが25年後の2016年には、6959円と3割以下まで減少した。

クールビズ推奨企業は36%に過ぎない

2011年に底を打ち、横ばいになっているが、これは3月の東日本大震災の影響だろう。震災被害によって電力危機が起こり、暑くなってもエアコン使用を控え、クールビズが一気に普及。ビジネスファッションに対する意識も一変し、夏冬を問わずスーツ姿が減り、ネクタイを見ることは少なくなった。以前から服装が自由なIT企業が増大したのも、拍車をかけた一因だろう。

気象庁の調査によれば、クールビズの認知度は98.3%と高いが、「クールビズを実施したことがある」という回答は61.5%だった。

HR総研が今年6月に実施した調査でも、「クールビズを推奨したか」という設問で、「推奨した」企業は36%。企業規模はあまり関係ない。そして推奨した理由で圧倒的に多いのは、「自分たちがクールビズだから」と言うものだ。

「弊社もクールビズを行っているため」(301〜1000人、メーカー)
「当社側もクールビズを実施しているため、自社セミナーではクールビズを推奨している」(301〜1000人、商社・流通)
会社としてクールビズを行っているので」(300人以下、情報・通信)

クールビズを「特に推奨していない」企業は3分の2近くある。かなり多い。その理由はいろいろある。

クールビズを推奨しても、そうしない学生がほとんどだから、推奨する意味がないという声は多い。キャリアセンターが指導しているのではないか、という推測をする企業もあるが、実際にそうかもしれない。

「推奨してもクールビズにならない学生が多いので」(1001人以上、サービス)
クールビズを伝えても、変わらないため(キャリアセンターから指導されているのでは)」(301〜1000人、情報・通信)
「推奨というほどではなく、5月からはクールビズOKという連絡はしていた。しかし、実際にクールビズで来社した学生はいなかった」(301〜1000人、商社・流通)

現在の採用スケジュールは、3月1日に採用広報解禁、6月1日に採用選考解禁だが、実際には3月に選考を開始する企業がかなり多い。環境省は「5月から9月末まで」をクールビズ期間としているが、それ以前に選考を終える企業は、クールビズを推奨する理由がそもそもない。

インターンシップは夏期期間もあるため、クールビズを推奨していますが、選考については、弊社の場合、クールビズ期間とはあまり重ならないため、特に推奨していません」(301〜1000人、情報・通信)
「時期的に早かったから。来年からは推奨したい」(301〜1000人、情報・通信)
クールビズの時期とはずれていたため」(300人以下、メーカー)

あいまいな指示に学生は困惑する

「リクルートスーツを着ずにクールビズで」という指示が学生を迷わせるという指摘もある。確かに社会人経験のない学生はビジネスファッションに疎く、どこまでラフな服装でいいのかの判断に苦しむだろう。

クールビズ実施中とは案内しているが、逆に迷わせてしまうといけないので、強くは推していない」(1001人以上、情報・通信)
「自由に選択していいとなると、判断に迷うのではないかと思います」(300人以下、マスコミ・コンサル)


ファッションマナーの基本はTPO。時と場所、場合に応じた、服装を選ぶのがマナーだ。夏のビジネス街は軽装の姿が目立つ。保守的と言われる金融業界でも、近年はノーネクタイのビジネスマンが多くなっている。その中に黒のリクルートスーツに身を包んだ若者が汗を拭きながら歩いている。異様と言わざるを得ない。

大人から奇異の目で見られることは就活生も自覚しており、「6月の暑い中、スーツを着ながらの就職活動は辛く、社会的にも浮くような就活生になってしまう」(理系、その他国公立大)としている。

だから多くの学生はクールビズを歓迎している。また推奨企業に対する好感度も高いようだ。

クールビズを推奨している会社はよい印象を受けた」(文系、上位国公立大)
「スーツはきついので積極的に実施してほしい」(文系、上位私立大)

「服装は自由」と書き、「自主判断」に任せる企業は多いが、そういうあいまいな指示を嫌う学生はとても多い。

クールビズでと書いてくださる企業もあるけれど、上着を着ないのも格好悪いと思い、結局持っていった。クールビズは難しいので、できればやめてほしい」(理系、旧帝大クラス)
「ネクタイ、ジャケットを着ていくように指示するか、クールビズで来るように指示するか、どちらかにしてほしい。『どちらでも構いません』が一番困る」(理系、その他国公立大)

実際面接に行ったら、クールビズは少なかった

「ラフな服装は悪印象を与える可能性がある」と考える学生はとても多いようだ。そしてリクルートスーツで説明会や面接に行くと、クールビズの学生がいないので、「クールビズにしなくてよかった」と判断しているようである。

「ほとんどクールビズをしている学生はいない。むしろ『ジャケット禁止』くらいにしないと、する人はいないと思う」(文系、早慶大クラス)
就活生の中に誰もクールビズで来ている人はいなかった。先方の社員の方だけだった」(文系、早慶大クラス)
「選考にはクールビズでお越しくださいと書いてあっても、何となく結果に影響しそうなので、自分はもちろん他の学生もほとんどがクールビズでなかったため、むしろ書かないでほしい」(理系・旧帝大クラス)

クールビズ」という言葉の意味があいまいと感じる学生も多い。ビジネススーツの要素は、ジャケット(上着)、長袖のワイシャツ、ネクタイ。だからクールビズは、ノージャケット、半袖、ノーネクタイだと思う。暗い色のビジネスファッションではなく、白やクリーム色もオーケーだろう。そういう服装を夏のビジネス街でよく見かける。しかし就活生は、そこまで割り切って判断できない。

「全企業の全選考をクールビズ可にするべき」(理系、旧帝大クラス)
クールビズというより、ビジネスカジュアルを推奨すればよいと思う。スーツの意義がわからない」(理系、上位国公立大)
クールビズと書いてある企業にはクールビズで赴いたが、そのように書いていない企業にはネクタイ・ジャケット着用で行った。また、クールビズという語の定義があいまいで、どこまで崩していいのか迷った」(文系、早慶大クラス)
「表現があいまいなので困る。ジャケット、ネクタイあり、と指定してくれる方がありがたい」(文系・その他国公立大)

クールビズの問題は男女で異なる。男性は勇気を出してクールビズで行くか、無難にリクルートスーツを着るかの選択の問題だ。ところが、女性の場合は、選択肢がない。クールビズにしたくても、確立した服装がないのだ。

「女性はどうクールビズをしたらいいのかわからない。これは面接官の女性の方もおっしゃっていた」(文系、上位私立大)
「男性はネクタイを外していいと声かけがあるが、女性の第一ボタンは言及がなくてとまどうし、ジャケットを脱いでいいと言われたとしても女性はジャケットを脱ぐのに抵抗がある」(文系、早慶大クラス)
「女性のクールビズの定義が知りたい」(理系、旧帝大クラス)
クールビズを許可されたものの、女性のクールビズがよくわからないので、結局、いつもと変わらない格好で向かった」(文系、その他国公立大)
「女性のクールビズは男性と違ってはっきりしないし、レディースーツはジャケットを着ないと格好がつかないので、クールビズより私服にして欲しかった」(文系、上位国公立大)

「当日、1社がクールビズ、残りが通常なら・・・」

このように就活生の声を見ていくと、服装に言及するなら、もっと厳密に、具体的に、詳しく指示すべきだと思う。「服装は自由」という相手任せの表現も学生を迷わせる。


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クールビズでも結構です」もあいまいで、企業の判断基準が見えない。「クールビズ姿でお越しください。私たちもノージャケット、ノーネクタイ、半袖姿で、みなさんと話したいと思っています」などと書けば、企業側の意思は伝わる。服装の指示に限らず、採用PRでは学生に伝わる言葉を選んで欲しい。

ただし学生は、1日に1社だけを訪問するわけではない。1社がクールビズを推奨していても、残りの会社が推奨していなければ、結局はリクルートスーツ姿で1日を過ごすしかない。

今年のような猛暑の中での就活においては、クールビズ推奨を各企業の判断に任せるのではなく、全社共通のルールにするしか実効性はないだろう。経団連は、「6月(5月)〜9月はクールビズ期間とする」と、指針の手引きで、もっとハッキリ明文化してみたらどうだろうか。