東京への人口集中は、さらなる未婚化を招くおそれがあります(写真:ロストコーナー / PIXTA)

生涯未婚率(50歳時点での未婚率)と年収との間には強い相関があります。しかし、男性と女性とではその相関は正反対です。「女性が直面する『稼ぐほど結婚できない』現実」という記事でも書きましたが、男性は年収が低いほど生涯未婚率が高くなるのに対して、女性は、年収が高くなるほど生涯未婚率が上がります。

今回は、最新の2017年就業構造基本調査の結果を基に、5年前の同調査との比較によってどういう変化があったのかをご紹介したいと思います。

生涯未婚率は推計通り上昇中


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まず、年収別の男女生涯未婚率について見てみましょう。男女とも5年前と比べて、全体的に生涯未婚率は上昇しています。

国立社会保障・人口問題研究所の「将来人口推計」にもあるとおり、2035年までは男女とも生涯未婚率が上昇すると予想されており、そのとおりに推移していると言えます。


注目すべきは、低年収男性と高年収女性の生涯未婚率だけが大きく伸長している部分です。男性の場合、既婚も含めた全体平均年収レベルである400万円未満の年収では生涯未婚率はすべて5%以上あがっていますし、逆に女性では400万円以上の年収での生涯未婚率が大きく上昇しています。

年収400万円台の女性では生涯未婚率28%、800万円台の女性でも29%と、3人に1人が生涯未婚の女性ということになります。絶対数は少ないですが、1250万〜1500万円未満の女性に至っては、36%が生涯未婚です。女性全体の生涯未婚率は2015年の国勢調査では14%ですから、稼ぐ女性たちは全国平均の倍以上未婚であるということです。

生涯未婚率は、45〜54歳のいわゆるアラフィフ平均未婚率ですが、では、その下の年代であるアラサー、アラフォーの未婚率はどうなっているでしょうか?

統計上では未婚率は減少しているが…

こちらも同様に5年前と比較してみると、驚く結果が出ました。アラサー、アラフォー年代ともに、女性の未婚率は特に700万〜1000万円未満のゾーンにおいて激減していることがわかります。つまり、45歳以上の高年収女性の未婚率は上がっているのに対して、44歳以下の高年収女性の未婚率は下がっているのです。


これはいったいどういうことでしょうか?

この5年間の間に突然、アラサー、アラフォーの高年収女性の婚姻率が上昇したということでしょうか?

残念ながらそうではありません。高年収男性のアラサー、アラフォーでも比較しましたが、ここまでの劇的な変化はありません。そもそもこの年代における婚姻数そのものも増えてはいないのです。確かに、数字の上での未婚率は激減してはいますが、そこにはカラクリがあります。この場合の未婚率とは、有業かつ当該年収の女性総数に対する未婚女性の比率です。母数となる総数が増えることで未婚率が下がったにすぎないのです。

たとえば、アラサー年代での総女性数と未婚女性の実数を見てみると、年収700万〜900万円の総女性の数が、1万6000人からほぼ倍増の2万8000人に増加したのに対して、未婚女性の数は、1万2000人から9700人へと、若干減少してはいるもののほとんど変わってはいません。

つまり、もともと結婚していた女性の収入が増えたということです。これは女性のM字カーブ解消現象とも相通じますが、以前のようにアラサー年代で結婚や出産を契機に退職する女性が減り、そのまま就業を継続する人が増え、その結果として高年収女性の絶対数増が実現したのでしょう。

低収入ソロ男と高収入ソロ女がマッチングされない件については、この連載でもたびたび話題にしてきました。そもそも、高年収女性の未婚率が高い要因のひとつは、女性の上方婚志向があります。自分より年収の高いハイスペックな男性を求めがちです。しかし、そうそう高年収男性がたくさんいるわけではありません。結局、高年収女性ほど対象者が減り、結果未婚化に陥るという話です。「高収入のソロ女が専業主夫として低収入ソロ男を養えばいい」というコメントをいただいたことも多々あります。

しかし、現実はそう簡単にマッチングされません。自ら稼いで、経済的に自立しているソロ女の特徴として、考え方が男性的規範に縛られてしまいがちです(「『結婚しない女』の行動は限りなく男性的だ」)。だから、「男性とはこうあるべし」という思考に陥り、「男性は強くあるべし。デートではもちろん必ず女性におごるという気概を見せるべき」という声が多いというお話もかつてしました(「デートで『おごられたい』女性は実は少数派だ)。

そうした彼女たち自身の価値観だけが要因ではありません。そうした「男が養うべき」規範に支配されているのは、むしろ男性のほうが多く、彼ら自身が自分より稼ぐ女性を拒否しがちだからでもあります。

居住エリア別に見ると…

さらには、居住エリアごとの偏りもすさまじいものがあります。年収別の男女未婚者数の構成比を見てみると、圧倒的に東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉の一都三県)に集中していることがわかります。特に、年収700万円以上の未婚者は、男女とも50%以上が一都三県の居住者です。

注目すべきは女性のほうです。全国総数の有業者人口構成比と比較すると、男女とも高年収者は一都三県に集中していますし、男性の場合、総数と未婚者で差分が変わるのは900万円以上と限定されています。しかし、女性の場合は、200万円以上のほぼ全区分で未婚者が上回り、特に、1000万〜1500万円の高年収未婚女性に至っては8割が一都三県在住の女性で占められます。つまり、高年収の生涯未婚女性というのはそのほとんどが東京圏で働く女性だと結論付けても問題ないでしょう。一方で、生涯未婚率の高い多くの低年収男性は、都市に偏ることなく、全国的に分散し生息していると言えます。


くしくもこれは、江戸時代と酷似しています。当時、働き場を求めて、江戸には農村からたくさんの未婚男性が流入しました。そのため、江戸は一時女性の2倍も男性が多く住む「男余りの町」でした(「独身が5割超、江戸男子に学ぶシングルライフ」)。必然的に、性比のアンバランスにより有配偶率が減少、それとともに全体の出生率も低下し、結果都市の人口減少を起こしています。

周辺農村からの人口を引き付け、生涯未婚のまま死んでいく人たちが多かった状態を、歴史人口学者の速水融氏は「都市の蟻地獄」と名付けています。江戸時代、その蟻地獄にはまったのは男性のみでしたが、現代では、それが女性にも波及しています。

最後に、都道府県別300万円未満の低年収と500万円以上の高年収の男女の生涯未婚率を散布図にプロットしました。恐ろしいほどきれいに分かれています。文字どおり、「稼ぐ女と稼げない男」が結婚できていない現状が可視化されています。そして、高年収女性の未婚率が東京に集中しているのは前述のとおりですが、低年収男性の東京も負けずに高い位置を占めています。

東京圏への過度な人口流入と集中は、それ自体でも問題視されていますが、東京に流入する人口のほとんどが若年層であることを考えると、今後も進む東京一極集中化は、さらなる未婚率の上昇を招くおそれもあります。少なくとも、こと未婚の低年収男性と高年収女性の双方にとって、東京は「結婚できない蟻(アリ)地獄」のようなものと化しているのかもしれません。