先日のMAG2 NEWSでも取り上げた、菅官房長官の「携帯は4割値下げの余地あり」発言。改めてクローズアップされる形となった「日本のケータイ料金は割高なのか」という声に対して、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』の中で、菅官房長官が論拠としたデータはかなり無理があると論ずるとともに、菅官房長官サイドと総務省とでは「4割値下げ」に対する温度感の差がかなりあることを明かしています。

菅官房長官「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」発言の真意は?

「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」という菅官房長官の発言を受けて、様々なメディアの人から「やっぱり、日本の携帯電話料金は高いのですか」という質問を受ける。

一般紙などは、思いっきり「日本の携帯電話料金は割高だ」と書いているのだが、実際、彼らはちゃんと調査しているのか疑問が残る。

先週のメルマガでも書いたが、国内外における携帯電話料金の比較で、最も信頼できるのは総務省が調査、発表している「電気通信サービスに係る内外価格差調査」だろう。平成28年度調査の結果が平成29年7月に発表されている。日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国の6カ国で比較されているものだ。

それを見ると、確かに20GBではドイツに次いで日本は2番めだが、2GB、5GBでは中位に位置づけられている。菅官房長官は20GBのデータを引き合いに出し「日本は高い」と言い切っているようだが、かなり無理があるのではないか。

しかも、この調査は昨年3月に実施されたものだ。総務省の調査データ、20GBプランは当時のNTTドコモ、ウルトラデータLパックが使われている。

2017年といえば、夏以降、iPhoneの発売にかけて、各社で新料金プランが発表されている。

例えば、auは従量制プランを投入し、さらに定額制プランも料金改定を行っている。総務省の調査データを、auの「フラットプラン」で適用してみると、日本の通信料金は下がり、世界で3番目となってしまう。6カ国中3番目ということで、「高すぎる」という指摘は当たらないのだ。

菅官房長官は総務省のデータでは説得力がないと判断したのか、その後、OECDのデータを持ち出し始めた。しかし、それも他国はプリペイドプランだったり、そもそも引用しているデータ容量がバラバラだったりと、比較に値しないものとなっている。

一部報道では「菅官房長官が提示したデータは内閣府が用意した」と書かれていたが、ひょっとすると内閣府の人たちは、海外の携帯電話プランを全く理解できていないのではないか。

ちなみに、総務省の電気通信サービスに係る内外価格差調査は、例年、6月もしくは7月に発表されているのだが、なぜか今年はいまだに発表されていない。

発表してしまうと、なにかまずいことでもあったりするのか。ひょっとして、「日本は世界と比べても割高ではない」ということが改めて証明されてしまったりするのか。

数字は嘘をつかないだけに、総務省には一刻も早く調査データを公開してもらいたいものだ。

菅官房長官と野田総務相、4割値下げに「温度差」━━内閣府と総務省はどこまで連携できているのか

菅官房長官の「携帯料金は4割値下げできる余地がある」発言について、総務省と一心同体なのかといえば、正直言ってかなり微妙な雰囲気が漂っている。

31日付日経電子版では「(菅官房長官による講演の)内容は事前に総務省側と擦り合わせ、料金の国際比較などのデータも内閣府がつくった」とある。

先日、総合通信基盤局長に就任した谷脇康彦氏は、2008年頃に担当課長としてモバイルビジネス研究会を仕切った経験を持つ。当時の総務相は菅氏だった。この二人がタッグを組んで、「4割値下げできる」発言につながったのは容易に想像がつく。

ただ、総務省に近い関係者は「野田総務相と菅官房長官はかなり温度差があるようだ」とささやく。

28日に行われた野田総務相会見を取材したが、発言の節々に、菅官房長官との距離感が伝わってきた。

例えば、記者から「料金だけでなく、ネットワーク整備も含めて検討せよと、菅官房長官から指示があったのか」と聞かれた野田総務相はこう答えている。

「私の方には特段そういうお話は来ていない。これからも利用者、国民にとって通信料金が他国に比べて高いという中で、少しでも安くできるような努力をしてほしいという、大きなエールをいただいたのかなというふうに理解しています」

「私の方には特段そういうお話は来ていない」「大きなエールいただいたのかなというふうに理解しています」この2つの発言から連想するに、菅官房長官と野田総務相は直接、話をできてないように思える。

また、野田総務相は「官房長官がそうやっておっしゃったからといって動くのではなくて、常日頃から総務省はそれ(競争促進)について取り組んできた」とも語っている。

つまり、野田総務省の言い方は、総務省としては自分たちで競争施策に取り組んできたにも関わらず、菅官房長官の発言によって、料金値下げに着手しなくてはいけない課題が降って湧いてきてしまったような、「余計な口出しやがって」的なニュアンスに取れてしまったのだ。

野田総務相は「4割値下げできる」とは一言も言っておらず、あくまで「菅官房長官が、国内の通信費は海外に比べて高いと言っているようだ」というスタンスを崩していない。

野田総務相は、総務省の内外価格調査データの中身を知っていて、あえて「高いと言っているのは菅官房長官だけ」という言い逃れをしようとしているのではないか。

菅官房長官と野田総務相、さらに官僚と現場では、それぞれ「4割値下げ」に対する温度感はかなり違うとみて間違いないだろう。このあたりの話は引き続き、取材していきたい。

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