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企業の採用現場で「体育会系」の学生への逆風が吹きはじめた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は、「原因は日大アメフト部の悪質タックル問題だけではない。人事担当者は『体育会系の新人は、体力はあるが、メンタルが弱く、何の予兆もなく会社に来なくなるケースが多い』と口をそろえていて、評価が急落している」という。なぜ、体育会系は打たれ弱くなったのか――。

■企業の採用現場で「体育会系」の学生への逆風が吹きはじめた

今年5月、日本大学アメリカンフットボール部の選手が関西学院大学との定期戦で悪質タックルをした問題が明らかになって以降、監督・コーチの独裁的かつ横暴な姿勢に世間の非難が集中している。

その矛先は、上位の者に逆らうことが許されない絶対服従の体質を持つ「体育会系運動部のあり方」にまで向けられている。

これまで企業は体育会系の人材を高く評価してきた。その理由は、まさに「絶対服従」という部分にあった。体育会に入ると、上級生の命令は絶対的なものになる。たとえ間違っていても耐えながら従うしかない。そうした世界を生き抜いてきた学生は不条理だらけのビジネスパーソンとしての耐性を備えている、というのが企業の評価基準だった。

IT企業の人事部長は日大のアメフト部に対する世間の見方に違和感を抱いている。

「(関学戦での)日大選手のタックルはやり過ぎの面はありますが、ときにはプレーに乗じて相手を張り倒すようなことはよくある話。アメフト経験者なら大概はそういうことをやっているのが現実です。ただ今回の日大の場合は、やり方が下手くそだった。問題はそこだけを取り上げて服従や上意下達の体質が悪だからやめようということになってしまうと、結局、ヒエラルキー構造から誰もが平等のフラット型組織になってしまう。それではサークルと変わらないし、体育会系学生の魅力は何もありません」

試合時の暴力を肯定しているとも受け取られかねない発言だ。しかし、この人事部長は暴力を肯定しているわけではない。企業が体育会系の学生に期待するのは、打たれ強いという耐性を備え、上から理不尽なことを言われてもぐっとこらえて仕事を遂行できるねばり強さにあるということだろう。体育会はそれを培ってくれると期待している、というわけだ。

ストレス耐性の弱い体育会系の学生が増加

ところが、昨今はそんな体育会系出身でも、ストレス耐性の弱い学生が増えているという。サービス業の人事部長はこう語る。

「私自身、体育会系の学生というのは、礼儀正しく、根性と体力があって、すぐにチームに溶け込んで仕事ができるというイメージを人事の先輩たちから刷り込まれてきました。社会人としての基礎力があり、どこに配属しても務まるという鉄板的な人材という位置づけでした。でも、数年前からそうではない人が増えている。配属後に現場の責任者から『なんだ、あいつは全然使えないじゃないか、この前、大声で叱ったら、あれから出て来ないぞ』と言われて驚きました」

■「体力はあるが、心も頭も弱い」「すぐ出社拒否する」

大手住宅建設メーカーは体育会系出身の採用者が比較的多い。ここでも同じような現象が発生している。人事課長はこう語る。

「(偏差値)上位校の大学で、しかも体育会の部長をやったという学生を採用しました。ストレス耐性や協調性に加えてリーダーシップという付加価値もあるわけです。営業本部長に『体育会系でもリーダーの経験があるいい学生を採りました』と言うと、期待しているよという言葉をもらいましたが、数カ月後、営業本部長から怒りの電話があったのです。『彼は君が言った性格と全然違うじゃないか。クライアントにちょっと無理難題を言われただけで、それ以来しょげかえって出社拒否をしているけど、いったいどうなっているんだ』と。その後、彼に会って話を聞いたら、体育会の部長といっても誰もやりたくないから彼が推挙されたということでした」

「ストレス耐性」は体育会系出身者の強みのはずだった。どういうことだろうか。前出のIT企業の人事部長はこう語る。

「(他社の)人事担当者との集まりで共通に出る意見が、昔ながらの体育会系の価値は残っているが、メンタリティが基本的に弱くなっているということです。組織に入っても文句を言わずにがまんして働くが、メンタリティが弱いのでいきなり折れてしまうと。僕は“体育会メンタル”には気をつけろと部下にも言っています。体力はあるが、メンタルが弱いために何の予兆もなく、ポキッと折れて突然会社に来なくなる現象が発生します」

人事担当者の間では、体育会系の学生は一般学生と比べて相対的に基礎学力が低いとみられている。それでも、従順で打たれ強ければ、現場で鍛えれば一人前になると信じられてきた。しかし、耐性もなければ基礎学力も低いとなれば、採用するメリットはほとんどないことになる。

■採用していい体育会系、採用してはいけない体育会系

メンタルが弱い体育会系学生を見極めるにはどうすればよいのか。住宅建設メーカーの人事課長はこう指摘する。

「体育会系学生には2通りの学生がいます。ひとつは柔道部や相撲部のように大学の合宿所に入って4年間生活する。親元から離れて共同生活をしながら、自分のことは自分でやり、先輩がいろんなことを教わりながら協調性などを学んでいくのです。もうひとつのタイプは自宅から普通に通って朝練の後、授業を受けて、その後に練習し、休日に合宿所で練習する。このタイプは自宅では親が何でもやってくれるし、どちらかといえば自立心に乏しく、体育会系らしさが欠けるところがあります」

部外者から見ると、後者のほうが勉強時間や他の一般学生との交流もあり、文武両道でよいのではと思うが、そうではないらしい。前出のサービス業の人事部長は最近の体育会系学生は「イケメンが多く、おとなしく冷めた学生が多い」と言う。

■企業が喜んで迎える“体育会神話”は徐々に崩れつつある

「かつての体育会系の学生はどこか武骨で決してイケメンではないが、その代わり、情熱があり、バイタリティにあふれていました。一方最近は、男子はイケメン、女子はかわいらしい人が多く、外見がスマートになった印象があります。話を聞くと、育ちもいい。父親は一流企業の会社員で母親も大学を出ている。両親が決して飛び抜けて運動神経がよいわけではなくごく普通なのですが、子どもが3歳頃からスポーツの英才教育でアスリートに育てられる。高校や大学は推薦で上位校に入る。スポーツ成績は全国レベルではなくても、努力すればある程度の活躍はできる。採用面接ではイケメンのナイスガイ、体育会出身かつ上位校出身となればどこの企業もクリアできる。でも、10月1日の内定式に会うと、おとなしく冷めているので、あれっ、どうしたのかなと思う。結果的に入社後に早期に辞めてしまう人が少なくありません」(前出・サービス業の人事部長)

確かにかつてのアスリートには、マンガ『巨人の星』のように父親がガテン系、子どもがハングリー精神旺盛でガッツのあるタイプというイメージがあるが、今ではそうでもないらしい。

体育会系出身なら企業が喜んで迎えてくれる“体育会神話”は徐々に崩れつつあるのかもしれない。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)