ビックカメラ有楽町店楽器コーナー 主任 吉橋由里さん

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接客のうまい人は、どんな「話し方」をしているのか。今回、業界を代表する5社から5人の達人を推薦してもらい、それぞれのトーク術について聞いた。第1回はビックカメラ 有楽町店楽器コーナー 主任の吉橋由里さんだ――。(第1回、全5回)

■ビックカメラ接客優勝者「これ買います」と言わせる術

アマゾンに押されるリアル店舗が勝つには、どのようにすればいいのか。

ビックカメラが全国約1万人のグループ社員を対象に毎年開催する接客コンテストで、2017年度優勝に輝いた吉橋由里さんはこう話す。

「私が主に販売する電子ピアノは、お客様のニーズやご家庭の事情を詳しく聞き出さなければ売れない商品です。どなたが使うのか、お子様なら何歳で男の子か女の子か、初めての習い事なのか買い替えなのか、お部屋に置けるサイズはどれくらいか、どのレベルの音質をお望みか、予算はどれくらいか。『電子ピアノを買うのは初めてで、そもそも違いがよくわからない』というお客様には、私が弾き比べてみせたり、実際に鍵盤に触っていただきながら、その方が求めるものを把握していきます」

電子ピアノは売れ筋が10万円から30万円と決して安い商品ではなく、比較検討する要素も多いため、1度の来店で購入を即決する人は少ない。だからこそ、いかにクロージングに持ち込むかが販売員の腕の見せ所となる。

「お子様のための購入なら、まずはお母様が平日に売り場に来られて、私が説明したことをいったん家に持ち帰り、お父様やお子様本人も交えて家族会議をしたうえで、週末に家族全員で来店して最終的に購入を決定する。これが一番多いケースです。ですから、1度接客したお客様には私の名刺を必ずお渡しして、『どんな些細なことでも結構ですから、わからないことがあればぜひお電話ください』とお伝えします」

■「最初にお客様が口にしたことが、一番の購入目的」

こうした丁寧なフォローで再来店を促し、2度目に家族で来店したときは、購入の意思決定をさりげなくサポートする。そのキラーフレーズとなるのが、初回接客時に相手から聞いた言葉だ。

「最初にお客様が口にしたことが、結局は一番の購入目的なのだと思います。ですから『子どもの上達のために購入を考えている』とおっしゃった方なら、その言葉をそのまま使って、『この電子ピアノなら、お子様も上達されますよ』とお伝えする。するとお客様も納得して購入を決められます」

このやりとりでわかるように、吉橋さんは「私のお勧めはこれです」という自分を主語にしたトークはしない。「最終の意思決定をするのは、あくまでお客様本人であることが大事」と考えているからだ。時には、母親は「黒がいい」、子どもは「白がいい」などと意見が分かれてなかなか話がまとまらないこともあるが、その場合も吉橋さんが結論を押し付けることはない。

「私はお客様にたくさん悩んでいただきたいんです。時間をかけて悩むほど、お客様もご自分が選んだ商品に心から納得できるはずですから」

▼日本一のポイント:はじめの一言を覚えておく

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吉橋由里(よしはし・ゆり)
ビックカメラ有楽町店楽器コーナー 主任
音楽短期大学卒業後、2011年ビックカメラ入社。以来、有楽町店楽器コーナーを担当。17年度ビックカメラグループ(ビックカメラ・コジマ・ソフマップ)の接客コンテストでグランプリに。

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(塚田 有香 撮影=市来朋久)