伊勢丹新宿本店では猛暑の影響もあり日傘やサングラスの売れ行きが好調だった。抽選会なども実施して、夏のセールを盛り上げた(撮影:今井康一)

百貨店業界の定番イベントとして定着するのか――。

百貨店の大手各社は今年、夏のセールを初めて2回に分けて実施した。1回目は6月末から10日間程度開催。春や初夏の衣料品をセール対象として販売した。2回目は主に7月27日前後から8月中旬まで展開。各社ともに、盛夏や晩夏の衣料品在庫を一掃した。

これまで夏のセールは7月初旬スタートの1回実施が慣例化。ただ、「段階的に値下げしていって、なだらかに売り上げが落ちていく」(アパレル業界関係者)ことで、ダラダラと値引き販売が続いていた。そこで、例年売り上げが落ちる7月中旬以降の衣料品販売をテコ入れするための策として、セールの2回実施が打ち出された。

衣料品の売り上げが2ケタ増の店舗も

今回の初の試みに対して、百貨店関係者はおおむね「一定の成果はあった」と評価する。日本百貨店協会が8月21日に発表した7月の全国百貨店売上高は5132億円と、前年同月比で6.1%減少。台風の上陸や西日本を襲った豪雨などの天候不順が響き、客足が鈍った。

そんな中、同協会は7月27日前後からのセールについて「台風の影響を受けた日を除く月末業績で、前年を上回る効果があった」と強調。特に東京地区については、「(台風の影響を受けた日を除き)衣料品の伸びが2ケタを超える店舗も多く見られた」という。

業界最大手の三越伊勢丹ホールディングスは、2012年の夏からセールの開始時期を他社よりも遅くしていた。値引きに頼らずに販売することで、収益改善につなげる狙いなどがあった。ただ、2018年の冬のセールは1月4日から開始し、競合他社と歩調を合わせていた。

今回の夏のセールも他社と同様に、6月29日から7月10日まで1回目、7月27日から8月7日まで2回目を開催した(※店舗によっては終了時期が異なる)。「猛暑の影響で日傘やサングラスが売れており、その押し上げ効果もあるが、1つのイベントとしては効果があったのではないか」と、三越伊勢丹は説明する。特に、7月27日から7月31日の旗艦店売上高は、2ケタの伸びを示した。

同社はセール期間中、伊勢丹新宿本店や三越銀座店で商品券などが当たる抽選会を催すなど、独自のイベントを同時に展開することでムードを盛り上げた。


高島屋も台風の影響はあったものの、セール期間中の売り上げはまずまずだった(編集部撮影)

高島屋も6月29日から7月10日までと、7月27日から31日までの2回に分けて実施。「6月と7月の全店売上高は、トータルで見ると前年同月比でプラスだった。台風の影響があった割には健闘した」(同社)。銀座に本店を構える老舗百貨店の松屋も、7月27日から31日までの売上高は前年同期比6.4%増だった。セールで衣料品の販売に勢いが出たという。

冬も2回セールの機運高まる

東京だけでなく、関西に店舗を構える百貨店でもセールが効果を発揮した。「旗艦店である阪急うめだ本店の7月売上高は、前年同月比0.3%増だった。セール2回実施による活性化の効果はあった」(阪急阪神百貨店)。「6月29日から7月中旬までの売上高は年同期比3%増。7月18日から7月31日までは同4%増だった」(近鉄百貨店)。

こうした結果を受け、日本百貨店協会の赤松憲会長は「冬のセールも2回に分けて実施したい」と公言。協会事務局は、2019年1月の冬セールを今夏と同様に2回実施とする方向で検討を始めた。百貨店業界には早くも、「暦からすると、1回目を1月2日から、2回目を1月25日から実施することになるのではないか」と予測する関係者もいる。

セール2回実施を評価する関係者が多い中、「効果は限定的だった」とする百貨店大手もある。

大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ. フロント リテイリングは6月27日から7月中旬まで、そして7月27日から8月8日までの2回に分けてセールを展開。ただ、「紳士服はまあまあの売り上げだったが、婦人服はそれほどでもなかった」(J. フロント)。セールの具体的な数値については公表していないが、大丸松坂屋を中心とする百貨店事業は7月の売上高が前年同月比5.7%減で、セールは不振だったようだ。


大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ. フロント リテイリングでは、夏セールの効果が薄かったようだ(撮影:尾形文繁)

「話題性を高めるうえでは冬も2回にするのもよいが、需要喚起のための本質的な解決策にはならないのでは。顧客の購買パターンは変わってきており、特価だけで呼び込むのは難しい」と、同社関係者は語る。

J. フロントは「脱・百貨店」経営を掲げ、小売りの枠を超えた不動産事業やサービス分野の展開を強化している。大量販売を前提とした従来の手法の延長であるセールだけに頼るのは、同社の改革路線とは相いれない面があるのだろう。

単なるセールは通用しない

ほかにも、冬のセール2回実施について慎重視する向きはある。顧客は夏服についてはある程度の量を必要とし、衣料品の単価も安いので、セールの効果がある。UV(紫外線)カットや汗吸収の商品など夏ならではの衣料品も、比較的長い期間需要がある。

一方、冬は最も寒い1月に需要が集中する。衣料品の単価も高いため、シーズン中に長い間着ることができる商品を早めに購入する顧客が多い。あるアパレル関係者は「冬のセールは、そんなに長い期間を必要としない。2回実施したとして、夏と同じような効果を得ることができるかどうかはわからない」と語る。

百貨店業界はここ数年、ネット販売の台頭などを背景に衣料品の販売が低迷している。アウトレットも定着しており、いつでも安い商品を買える安心感が顧客にはある。他方、顧客は価格を下げただけでは飛びつかず、本当に欲しいものだけを見極めて買う傾向にある。

冬のセールを2回実施するとしても単に特売に頼るのではなく、魅力のある文化催事を開催したり、期間中の会員ポイント制度を手厚くしたりするなど、独自の工夫と対策が百貨店各社にはいっそう求められる。