ダイニチ工業が初の新製品発表会、なぜこのタイミングで?

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 石油ファンヒーターで11年連続、加湿器で5年連続、国内販売台数シェアでトップを堅持しているダイニチ工業が、8月21日に同社初の新製品発表会を開催した。一般的に、石油ファンヒーターは成長性があると認識されていないカテゴリだが、なぜこのタイミングで大々的に情報発信する場を設けたのか。

 「成長性がない」と認識されがちではあるものの、実は石油ファンヒーターと加湿器は決して右肩下がりの市場ではない。近年では、石油ファンヒーターをエアコンの暖房と併用されるケースが多い。日本ガス石油機器工業会の調べによると、直近5年の年間出荷台数は200万〜230万台で横ばいに推移している。加湿器に関しては、ウイルス対策や湿度管理の重要性が理解されてきたことで出荷台数が微増傾向。いずれも大きな伸びしろはないものの、安定推移している。

 「売れているのに、売れていないと思われている」。ダイニチ工業が発表会を開催した背景には、こうした世間の誤解を解きたいという思いもあるが、吉井久夫社長が気にするのは、むしろ誤解が真実になりかねない現状だ。

 「市場はたしかに安定しているが、業界トップであるわれわれが積極的に情報発信していかないことには、本当に衰退の道をたどりかねない」。かつて十数社あった石油ファンヒーターの開発メーカーは、いまや片手で数えられるほどに減った。画期的な製品も、なかなか生み出すことができていない。

 今回、発表した石油ファンヒーターは稼働羽と固定羽の5枚羽を採用した独自設計の「SGXタイプ」と、業務用ストーブレベルの暖房力を家庭用で実現した「FZタイプ」の2機種。従来機種の問題点の解決に真正面から取り組んだ意欲的な製品だ。石油ファンヒーターの購入者は、9割がリピーターということで、改善型の機能は受けがよさそうだ。

 一方、新規ユーザーの獲得には「なぜエアコンとの併用がおすすめなのか」「どんなライフスタイルに適しているのか」という根本の訴求から始める必要があるかもしれない。リピーターだけを相手にするならば無用の戦略だが、人口減や住宅減が進む日本では、新規獲得なくして市場の安定を維持するのは難しい。避けては通れない課題といえる。

 発表会後、吉井社長に「スマホ連携などのIoT機能は搭載しないのか」と質問したところ、「鋭意開発中で時期は決まっていないが、いずれお披露目できると思う」と回答した。IoT機能によってすぐさま石油ファンヒーターが脚光を浴びるわけではないだろうが、最近は不動産業者がホームネットワーク連携を前提に家電製品をセレクトして住居に標準実装するケースも増えており、馴染みのないユーザーを取り込むフックになったり、toBチャネルの拡大につながったりする可能性もある。

 総合家電を扱う大手メーカーでも、白物家電のコンセプトや事業体を刷新し、現在のライフスタイルに見合うように脱皮を図る動きが見受けられるが、ニッチトップを追求するダイニチ工業もその例外ではない。吉井社長は、「市場は成熟しているが、製品はまだ成熟し切ってはいない」とコメントしている。初の新製品発表会は変化の狼煙であり、これから第二弾・第三弾と回を重ねていくことで、脱皮後の姿を明らかにしていくのかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)