平仮名で書いた「無料食堂」の子ども向けポスター(まるかつ公式ツイッターより)

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「おうちでごはんがたべられないこは、ここでたべられるよ」

 今年5月、生活困窮者などを対象にした「無料食堂」のポスターが話題となった奈良市のとんかつ店の店頭に、8月、新たなポスターが登場しました。従来のポスターの下にあり、平仮名でメッセージを書いたもので、SNS上では「涙が出そうになりました」「一人でも多くの子どもが救われることを願っています」といった声が上がっています。新たな試みについて、店長に聞きました。

子どもが読みやすい高さに

 ポスターを張り出したのは、奈良市神殿(こどの)町にあるとんかつ店「まるかつ」です。今年5月4日から「まるかつ無料食堂」というポスターを店頭に掲出しています。

 5月のポスターには、「もしどうしても、お腹がすいても、お家にお金がないときや、お子さんにおいしいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいのに、ご事情があってむずかしいときなどは、コソっと店長に相談してください」「店長のおごりで、コソッと無料でお腹いっぱい食べてもらいます」「お代は出世払いでもいいですし、忘れてもらってもいいです」などと記載。この3カ月で、実際に利用者もいたそうです。

 一方、新ポスターは、ご飯やお菓子を食べる子どものイラスト付きで、「おうちでごはんがたべられないこは、ここでたべられるよ」とシンプルなメッセージを打ち出しています。この子ども向けポスターは8月10日、より長文の内容で張り出しましたが、店の公式ツイッターで意見を募ると「文字数が多い」「もっとシンプルに」などさまざまなアドバイスがあり、14日に現在の内容に変更したそうです。

 金子友則店長(42)に話を聞きました。

Q.無料食堂の利用状況は。

金子店長「8月10日時点で延べ20組以上の利用があり、感謝の声を頂いています。大人も子どもも利用してもらっています」

Q.なぜ、平仮名のポスターを作ったのですか。

金子店長「無料食堂開始後、頂いたご意見の中に、『子どもが読めるように平仮名で書いてあげて』というものがありました。ご飯が十分に食べられない子どもがいるのに、親が何もできない、あるいはしない家庭があるかもしれないので、『子どもだけでも無料食堂を利用してよい』ことを伝えようとポスターを作り、無料食堂のポスターの下に張りました。

ちょうど子どもが読める高さだと思います。助けを本当に必要としている子どもを救える確率は低いかもしれませんが、とにかく自分なりに何かをやってみようと思いました」

Q.夏休みにポスターを張ったのは、給食がない期間ということもあったのでしょうか。

金子店長「夏休みに入り、店の前の道路を一人で通っていく子どもも増えました。全国の子ども食堂や虐待などについて私なりに勉強したところ、給食以外にはまともな食事を取っていない子どもがいることを知りました。夏休みはどうしても大人から子どもへの手助けが手薄になると思います。夏休み期間だけでなく、何か手助けになればと思っています。

今年も子どもを巡って不幸な事件がありました。もしかしたら、私たち大人が救えたかもしれませんが、結局何もできなかったということだってあります。そういうことが起こる確率を少しでも減らすきっかけになればと思います。

同時代に起きているのですから、親を含めて特定の誰かを批判するだけでなく、結果として救えなかった私たち全員で何かをしていくべきかもしれないと思います」

Q.実際に子どもだけでの来店があったら、食事の際、どのように対応するのですか。

金子店長「年齢によって対応は分かれますし、ケース・バイ・ケースです。たとえば、アレルギーなどで食べられるものに制限がないかなどは慎重に対応します。あくまでも私たちは素人だという認識を持って公共機関を頼る。そのきっかけになることを重視しています」

Q.店のホームページには、子どもだけでの利用があった際、「児童相談所に相談する」とありますが、トラブルなどの恐れはありませんか。

金子店長「クレームやトラブルを恐れていては、おせっかいはできないと思います。どなたかを救える可能性があるなら、怒られる覚悟でやることにしています」

Q.ポスターにはお菓子も載っていますが、HPのメニューには見当たりません。無料食堂用に用意しているのですか。

金子店長「お菓子やジュースなど10種類ほどを購入し、ストックしています。賞味期限が来たら、従業員に配ったり、近所のお子様にプレゼントしたりしようと思っています」

Q.子どもが被害者になる犯罪も目立ちます。誤解されないよう配慮している点はありますか。

金子店長「個人宅などに子どもを招き入れることは難しいと思いますが、お店という看板やオープンスペースなので、できると思います。また、男性の私よりも、女性の従業員の方が親しみやすいと思いますので、女性スタッフ中心に複数の者で対応しようと思っています」

Q.新ポスターについての告知に、「無料食堂の取り組みを始めようと考えている飲食店に、自分たちの経験から伝えられる部分を伝えたい」と書かれています。

金子店長「無料食堂が増えたら、喜んでくださる人がもっといらっしゃると思いますので、個人的には飲食店が無料食堂を行う動きが全国的に広がってもいいと思います」

 平仮名のメッセージを残して亡くなった子どもがいました。平仮名のポスターで救われる子どもがいるかもしれません。