酷暑の中、温かい麺が売れたのはなぜか(写真:セブンーイレブン)

体温以上に暑い夏日が続いたと思ったら、豪雨に台風、そしてまた猛暑……今年の夏は予測不能な天候に振り回された。
天気しだいで売り上げが変わる小売りの現場は、暑さで萎えた消費意欲をもり立てようと、あの手この手を展開。何がどう売れたのか? 「変化対応業」のコンビニ各社の事例から、酷暑時に表れた新たな消費パターンを解説する。

通常なら旧盆時期になると、おでんや中華まんといったコンビニ秋冬商品の新作情報がずらっと出そろう。だが、今年は違う。

「暑さがすごかったですからね、秋冬商品の一部の発売は後ろ倒しの傾向にあります」と、大手コンビニ関係者はいう。

いつもとは少し違ったモノが売れた

熱中症搬送者が同月過去最多の5万人(総務省消防庁発表より)に迫った7月のありえない暑さを思い起こせば、季節を一歩先取りするのが真骨頂のコンビニが、新商品の切り替え時期を変更するのもうなずける。

「記録的な猛暑で想定外の売れ方をした、とまでは言い切れませんが、売り上げの伸びは昨年以上でした。現場から、いつもとは少し違ったモノが売れたとの声もあるようです」と話すのは、セブン&アイ・ホールディングス(以下セブン)広報センターの北澤晴奈さん。

コンビニ業界は新年度がスタートする3月に、その年の春夏商品政策を発表するのが通例だ。筆者もセブンだけでなく各社の新商品政策をひと通り取材したが、3月時点では「酷暑向け」の新商品はなかったと記憶している。

だから、「天気予報士から『危険な気温のため外出は控えましょう』なんて言われちゃ、この夏は商売あがったりだよね」と、内心思っていた。それが、「よく売れた」というのだ。汗だく・バテバテの消費者に、コンビニ商品の何がささったのだろう?

北澤さんを通じて、商品本部に聞き取りを行ってもらうと、売り場で跳ねたのは、「鉄板商品」と「新たなニーズ商品」、2パターンあったようだ。

まず、鉄板商品と表現したのは、「毎年、夏に絶対売れる」とマーチャンダイザー(商品開発者)が1年かがりで開発する定番のことで、具体的には「冷した麺」や「アイス・氷菓」といった冷たいモノのカテゴリー。ひやっとさっぱりした味が涼を呼ぶ。

セブンでは冷し中華カテゴリーが約1割増し、冷したうどんが約3割増の好調だったという。

もちろん他社もよく売れた。梅雨明け後、ローソンは「冷し中華」「ミニ冷し中華」「盛岡風冷麺」を“30℃超え時販売急上昇商品”と指定し、冷し麺全体に対する構成比を約5割にまで引き上げる集中発注を推奨したという。

ヒットの裏には、商機を逃さないきめ細かな品ぞろえ戦略があった。消費者は「選んで買った」というより、売り場で推されて「買わされた」のかもしれない。

アイスクリームの売れ方にも、興味深い傾向がある

次に、夏の売れ筋・アイスクリームの売れ方にも、興味深い傾向があった。

「真夏はクリーム系より、すっきりとした氷菓がよく売れることは知られていますが、今年はセブンプレミアムの“冷凍果実”がいつも以上に売れました。氷菓代わりに支持されたのではと、手応えを感じています」(北澤さん)

知らない人がいるかもしれないので説明すると、セブン社員が「冷凍果実」と呼ぶのは「セブンプレミアム アップルマンゴー」や「セブンプレミアム ブルーベリー」(各200円)

といった「フレッシュな果物をそのまま冷凍した」商品。冷凍庫に並ぶ。


200円の「冷凍果実」は、封を開けても保存が利くので経済的(写真:セブンーイレブン)

砂糖などが一切入ってないうえ、果物そのままの栄養が取れるとあってリピーターの多い商品だが、暑くて毎日アイスを食べるなら、確かにこっちを選んだほうがずっとヘルシー。口当たりがさわやかなので、果物も「氷菓としてアリ」と受け入れられたのかもしれない。

氷菓つながりで忘れてはならない夏ヒット商品を挙げておこう。ファミリーマート(以下ファミマ)の「フラッペ」。特に暑さが厳しかった7月半ばには前年売上比約2倍をマークしたという。


少し涼しくなると、ちょっとリッチな「生チョコ仕立ての濃厚ショコラフラッペ」が売れ出す(写真:ファミリーマート)

この「フラッペ」、冷凍庫にある氷カップにコーヒーメーカーから温かいミルクを注いで氷を溶かして食べる(飲む)商品なのだが、正直いうと「自分でカップにミルクを注がねばならない点」が、うだる暑さの中、面倒くさいのではと思っていた。

だが、フタを開ければ逆だった。

「フラッペは、ものすごくいい天気の土日によく売れました。観光地でついソフトクリームを買ってしまうように、暑い中外出すると開放感が欲しくなるのかもしれません」(ファミマ商品担当者)

面白い心理だと思う。同じコーヒーマシンの前に立つなら普通のアイスコーヒーやアイスラテを選べば早く涼むことができるものを、いちいち氷をストローでシャカシャカ溶かさねば飲めないフラッペに引かれるのは、炎天下、ちょっとしたアクションを楽しみたい“遊び心”が増幅したからではないだろうか。この夏、フラッペデビューした人の気持ちはわかる。

コンビニ3社にとって予想外に「売れたもの」

次は、珍しい売れ方をしたモノをチェックしよう。前出の北澤さんに聞いて、おもしろいなと感じたのは「蒙古タンメン中本 辛旨味噌」が2割増しの売れ行きで、夏のカップ麺カテゴリーを牽引しました」という話だ。

「蒙古タンメン中本」といえば、ラーメン好きなら誰もが知っている有名店。そのカップ麺(セブンのオリジナル商品)なのだから、すでにファンがついている定番だ。

だが、35〜40℃という酷暑の中、温かい麺をすすりたくなるだろうか。しかもご存じのとおり辛くて刺激的な味だ。「暑いときにカレーを食べるとうまい」という発想と同じなのだろうか。

現場の話をよく聞くと、売れた理由は、2つ考えられる。ひとつは「夏のカレー論」同様、汗をかくために食べたくなるから。

もうひとつは、今年ならではの理由だ。あまりの暑さでどこへ行っても冷房が効きすぎており、むしろ「寒い」と感じる“冷房クライシス”な職場が増えたためではないかという。20代社員が暑いと言っていても、40代オーバーのミドルエイジ社員がひざ掛けを使っている光景をよく目にしたし、電車やバス内が寒すぎて、筆者もよくストールを羽織ったものだ。冷房で冷えたカラダを温めたい、そんなニーズからホットなカップ麺が売れたと見る。


「噛むのが面倒」な夏バテ民にウケたパウチ栄養ゼリー商品(写真:セブンーイレブン)

その他、新ニーズで売れたのが「ワンハンドで水分や栄養補給できるパウチタイプのゼリーやボディ用制汗シート」と北澤さんはいう。

ゼリーと言っても、森永製菓の「inゼリー エネルギー」や明治の「即攻元気ゼリー」、ハウスウェルネスフーズの「1日分のビタミンゼリー」が売れ筋だというから、食が細くなった分を補う“夏バテ防止策”としてヒットしたに違いない。

制汗シートのほかには帽子やタオルが売れた

制汗シートは、ふだん「フェイス用」が売れ筋だが「ボディ用」の売れ行きが上回ったのは、汗だくビジネスマンから支持を集めたのだろう。

「制汗シートがわかりやすい事例でしたが、ほかにも帽子やタオルが売れたりと『駆け込み需要』があったように思います」(北澤さん)


ローソンの「おいなりさん 金ごま2個」は冷し麺と合わせて買う人が多かった(写真:ローソン)

確かに、直射日光を避けるようにコンビニに入り、「つい帽子を買ってしまった」という女性もいる。コンビニで帽子を買ったのは初めてらしいが、「手ごろな価格なのに意外と使えた」という。

その他、細かな“猛暑買い”の事例を探すと、「梅のおにぎりが大人気」「ビールよりもすっきりとした缶チューハイが売れた」(ファミマ)、「さっぱりしたいなり寿司が好調」(ローソン)など、コンビニ取材歴17年目の筆者も初めて聞いたケースも多く、興味深かった。

猛暑は少し収まったものの、疲れがどっとくるのはこれからだ。今後は“夏疲れ商戦”に注目したい。