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●「働きがいのある会社」ランキングに参加した企業を分析

先日「働き方改革関連法案」が成立したが、企業にとって「働き方改革」は優先度が高い課題だ。ただ、「働き方改革」が話題になる中、制度の改正ばかり注目を集め、企業において従業員の「やりがい」は二の次になっているような気がする。従業員の「働きやすさ」さえ解決すれば、業績は向上するのだろうか。

このほど、「働きがいのある会社」ランキングを毎年発表している働きがいのある会社研究所が、「働きがいのある会社」と「業績」の関連性に関する調査結果を公表した。同調査結果をもとに、企業の業績、従業員の働きがい、働きやすさの関連性を整理してみたい。

○「働きがいのある会社」とはどんな会社か?

同研究所は、Great Place to Work(GPTW) Institute Japanの運営を行っている。その活動の1つが、GPTWの基準に基づく「働きがいのある会社」に関する調査だ。調査は世界で行われ、すべての国において同じモデルが用いられている。

「働きがいのある会社」ランキングは毎年発表されており、小誌でもお伝えしたが、2018年は2月に日本版「働きがいのある会社ランキング」が発表された。

働きがいのある会社研究所の代表を務める岡元利奈子氏は、従業員から見た場合と企業から見た場合に分けて、GPTWにおる「働きがいのある会社」の定義を説明した。

従業員から見た「働きがいのある会社」とは、「従業員が会社や経営者・###管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感を持てる会社」となる。

企業から見た「働きがいのある会社」は、「『信頼』に満ちた環境で、ひとつのチームや家族のように働きながら、個人の能力を最大に発揮して、組織目標を達成できる職場」となる。

いずれの定義にも「信頼」という言葉が含まれているが、岡元氏は「働きがいのある会社においては、信頼を高めることが大事」と語った。

こうした定義から、岡元氏は従業員から見た「働きがいのある会社」のモデルの要素として、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」を挙げた。これらのうち、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」が「信頼」の要素となる。

会社から見た「働きがいのある会社」においては、「触発する」「語りかける」「傾聴する」ことによる「組織目標の達成」、「感謝する」「育成する」「配慮する」ことによる「個人の能力の発揮」、「採用する」「祝う」「分かち合う」ことによる「一つのチームや家族のように働く」ことを実行することで、働きがいを高めていくことが可能になる。

○「働きがい」と「売上高」の関係は?

岡元氏は、こうした「働きがいのある会社」調査を行う中で、「『働きがい』は本当に業績向上に寄与するのか」「『働き方改革』は企業に利益をもたらしているのか」といった疑問が湧いてきたそうだ。

そこで同研究所では、「働きがいのある会社」ランキングに参加した企業について、ランクインした企業92社(同ランキングでは「ベストカンパニー」と呼んでいる)とランクインしなかった企業106社(「ノンベストカンパニー」)における業績の分析を行った。

業績の比較は、回答の「2016年度売上高」と「2017年度売上高」の数値を用いて、「売上の対前年伸び率」を算出した。その結果、売上の対前年伸び率は「ベストカンパニー」が平均33.9%だったのに対し、ノンベストカンパニーは平均12.0%となったという。

この結果より、同研究所では、「働きがい」の高さと業績向上には関係があると見なしている。

●「働きやすさ」「やりがい」のある職場の売上の対前年伸び率は43%

○「働きやすさ」と「やりがい」の軸で職場を4つに分類

次に、同研究所では、「働きがい」を「働きやすさ」と「やりがい」という2つの軸から、職場を4つのタイプに分けて、業績との関係を分析した。ちなみに、「働きやすさ」とは、快適に働き続けるための就労条件や報酬条件などを指す。一方、「やりがい」とは、仕事に対するやる気やモチベーションなど、仕事そのものや仕事を通じた変化に起因するものとなる。

岡元氏は、「現在、日本の企業が取り組んでいる『働き方改革』の多くの施策は、働きやすさを改善することに主眼が置かれている。働きやすさの改善はもたらされるメリットも多いが、やりがいが見落とされているケースが多い」と、日本の働き方改革の問題点を指摘した。

同研究所が行った分析では、「働きがいのある会社」ランキングに参加した企業の調査のうち、「従業員へのアンケート」を分析し、「働きやすさ」の因子として抽出された設問の平均値を用いて「働きやすさ」得点とし、それ以外の設問の平均値を「やりがい」得点とした。

こうした分析の結果、「いきいき職場(働きやすく、やりがいもある)」「ばりばり職場(働きやすさはないが、やりがいがある)」「ぬるま湯職場(働きやすいが、やりがいがない)」「しょんぼり職場(働きやすくもなく、やりがいもない)」の4つの職場タイプが抽出された。

この4つの職場タイプごとに「売上の対前年伸び率」を算出したところ、「いきいき職場」が43.6%、「ばりばり職場」が22.0%、「ぬるま湯職場」が6.0%、「しょんぼり職場」が6.5%という結果が出た。

「やりがい」が低い「ぬるま湯職場」と「しょんぼり職場」よりも、やりがいが高い「いきいき職場」と「ばりばり職場」のほうが、「売上の対前年伸び率」が高かったことから、同研究所では、業績を向上させる上で「やりがい」は重要な要素と位置付けている。

○「働きやすさ」と「やりがい」がある職場を目指そう

岡元氏は「いきいき職場」から学ぶべき、業績向上につながる「働き方改革」のポイントとして、「『やりがい』にも目を向ける」「経営トップが本気でコミットする」「現場の実態に寄り添い、現場を巻き込む」「仕事を意味づけ、棚卸しをする」の4点を挙げた。

「『働き方改革』だけを目的にすると、働きやすさだけの改善にとどまってしまう。自社のビジョンやミッションとのつながりを踏まえ、最終的なゴールに目を向けることが大切。また、仕事の意味づけと価値づけも重要。目的を意識させることで、捨てる仕事を見つけることが可能になり、業務の効率化にもつながる」と岡元氏。

「やりがい」どころか、「働きやすさ」さえも整備されていない企業もあるだろう。ただ、先に挙げた調査では、働きやすいが、やりがいがない「ぬるま湯職場」と働きやすくもなく、やりがいもない「しょんぼり職場」では、「売上の対前年伸び率」がほぼ同じという結果が出ている。一概には言えないが、働きやすさを改善しただけでは、業績向上につながらない可能性があるわけだ。

働き方改革」が注目を集めている背景には、日本の労働人口の減少と生産性の低さがある。働く人が働きやすい環境を構築しつつ、国全体の生産性も挙げていく必要があると言える。

働き方改革法案」が可決した今こそ、「働き方改革」に本腰を入れる前に、自分の会社にとって、どんな「働き方改革」が必要なのかを考えてみる必要があるのではないだろうか。