自分の評判をしっかりマネジメントしていますか(写真:undefined undefined/iStock)

ある大手メーカーで行われた、中堅クラス向けリーダー研修にオブザーバーとして参加したときのこと。3日間、グループワークや講義を通じて、将来のリーダーとしての自覚を醸成するのが目的の合宿形式です。

最終日に行われた、受講者による決意表明に立ち会うことになりました。1人ずつ「●●なリーダーを目指します」と職場に戻ってから目指すべき像を明確にするのが目的のようです。それぞれの決意を感じて、お互いに刺激を得る機会になったと感じましたが、全員が終了したあとに、担当役員が最後に言った一言が印象的でした。


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「みなさん、人事評価ばかりでなく、“評判”も大事にしてくださいね」

評判とは不思議な言葉です。日本企業では会社の評判をマネジメントする取り組みの重要性が高まっていますが、一人ひとりの社員も自分の評判をマネジメントするべき時代になったということなのでしょうか? みなさんと考えてみたいと思います。

評判が人事評価に大きな影響をもたらす

評判とは周囲が批評して、是非を判定すること。さらに言えば周囲で(よくも悪くも)うわさになる知名度があるということでもあります。

評判は主観の集合体で、長期間かけて築かれ、いったん落ちると再び高めるには相応の時間を要します。これはなかなかやっかいです。しかし、いったん高めることに成功し、落ちることがないようにしっかり管理=マネジメントできれば、至るところで強力な後押しをしてくれます。「あなたなら大丈夫。お願いします」といい仕事が舞い込むことになります。

当然、逆に管理が十分できないと、あなたの足を引っ張ることになりかねません。そんな評判が人事評価そのものに大きな影響をもたらすこともあります。

その典型が「ハロー効果」と呼ばれ、これまでのポジティブorネガティブな評判で正しい人事評価ができなくなること。ハローとは絵画で聖人やイエス・キリストの頭上や後ろに描かれる後輪のこと。つまり、その人そのものではなく後ろから輝いて見せている光、つまりほかの目立つ特徴によって、全体項目を評価して評価が歪められる(認知バイアス)現象です。

心理学者エドワード・ソーンダイクが初めて用いた言葉で、人事評価において頻繁に起きる偏り現象として有名です。本来の人事評価は各自が与えられた目標や役割に関して、評価期間内の成果や行動から評価されなければなりません。ところが気配り・態度など、周囲による評判の良しあしで人事評価が決まることがあります。

評判に影響されたバイアス

たとえば、評価期間における業績は悪いにもかかわらず、これまでの熱心な仕事ぶりで培われた「いい評判」により人事評価が甘めに査定されてしまうようなこと。逆に「悪い評判」が積み重なっているといい業績にもかかわらず、相応の人事評価が得られないことが起きるということ。評判は評価の不公平を生み出すことがあります。本来あってはならないと思いますが、職場では頻繁に起きているのではないでしょうか。

ちなみにアデコが行った人事評価制度に関するアンケート調査によると、6割以上の人が勤務先の人事評価制度に不満をもち、その理由の最上位は評価基準が不明確とのこと。

こうした不満の要因の1つに、評判に影響されたバイアス=偏りが起きていることがあるのではないかと筆者は考えます。なので、「評判を意識しておきなさい」と前述の役員は研修の最後に一言切り出したのかもしれません。

筆者はこの一言に同意すると同時に、時代が変わり、自分の評判をしっかりマネジメントすることが次世代リーダーの重要な仕事だと、そのくらい強くメッセージを発信してもいいくらいではないかと思います。

少々脱線しますが、ネットやSNSの普及により、コメント1つで炎上→取り返しがつかないほどに評判を落としてしまう有名人がたくさん出てくる時代になりました。例をあげればキリがありませんが、何げない正義感や優越感から出てしまった本音をSNS等に書き込んだものの……内容が周囲からは不評。長年積み上げてきた「いい評判」がすっかり消えてしまった人はたくさんいます。

さらに書き込まれたものは消すことが困難。ゆえに評判を落とすリスクがある発言や行動は慎むべきと考えなければなりません。

評判を落とすリスクがあるのは有名人だけではありません。普通の会社員にも起きるリスクがあります。取材した不動産会社に勤務しているDさんは勤勉で、誠実な人物として評判の高い人物でした。ところが匿名のつもりで書き込んだ会社の評判を書き込むサイトで、

《適当にさぼっていても評価は大きく変わりませんよ》

とコメントしたのが「これDさんだよね」とわかってしまい、本当は怠惰な性格なのだと悪い評判が社内に広がることになりました。Dさんはこの悪い評判を払拭する自信がなかったので退職することになりました。いい評判を得るには時間がかかりますが、悪い評判を得てしまうのは短時間で起きること。そのようにはなりたくありませんがどうしたらいいのでしょうか?

アメリカでは自分の評判をコントロールする手法として、レピュテーション・マネジメントという言葉がよく用いられます。いい評判=レピュテーションの獲得・維持、傷ついたレピュテーションの回復などを目的とした活動のことです。

よく注目されるのは、悪いレピュテーションを初期の段階で食い止めること。もともと、悪いレピュテーションのほうが良いレピュテーションよりも広がりやすいものですが、前述したように、近年、この傾向は強まっているからです。こうした手法は企業のリスクマネジメントでは当たり前になりつつありますが、各自が自分を守るために活用が徐々に広がっています。ちなみにレピュテーション・マネジメントで重要なのは、

・悪い評判を生み出さない

・いい評判を積み上げる

ためのコミュニケーションです。職場を含むビジネス上のコミュニケーションはすべて自分の評判にかかわります。ゆえに悪い評判につながるNGワード、たとえば、周囲に対する批判や怠惰な姿勢を示す言葉を使わないこと。そして、いい評判を積み上げるということ。いい評判を積み上げると言うと、まるで周囲に媚びるようで抵抗を感じる人がいるかもしれませんが、自分らしさを伝えるためと置き換えてみてはどうでしょうか。自分の仕事に対する信条や想いを周囲に的確な言葉で伝えること。その伝えた言葉に基づいた行動を徹底すること。それが自分のいい評判を積み上げることになるはずです。こうした取り組みをすることで仕事をしやすい環境が得られる可能性は相当に高まります。

筆者もビジネスパーソンとして成功してきた人物を数多くみてきましたが、そうした人の大半はレピュテーション・マネジメントを意識してコミュニケーションにこだわっていました。ちなみにマスコミに登場して大いに毒舌を吐いているようにみえる経営者も悪い評判にまではつながらないように、巧みにマネジメントしているように感じました。

取り組むなら中堅クラスのうちに…

さて、後日談になりますが、冒頭の役員の一言には背景がありました。周囲の評判を気にしないことで、リーダーとしての役割を任されないでいる過去の研修受講者が何人もいたからのようなのです。本人にすればよかれと思って同僚にはっきりものを言っているだけで、傷つける発言をしても気にしないといったことかもしれませんが、それが評判がよくないと指摘すると、

「間違ったことは言っていません」

と切り返されるだけ。確かに人事評価は高いのですが職場での評判は最悪。そんな人は(報酬は上がるものの)リーダーの役職にはつけないようです。

また、人事評価で自分よりも低いと思っていた同僚に肩書的にはおいていかれる状況になったケースをいくつも見てきたようです。やがて、評判の悪いことを反省することになりますが、時すでに遅し。そうした経緯から、評判の重要性に気づき、レピュテーション・マネジメントに取り組むなら中堅クラスのうちに……との思いがあるようです。何げないようで含蓄がある一言であったのですね。