以前掲載の「なぜ、ファミリーマートは異業種の『ドンキ』の手を借りたのか?」でもお伝えしたとおり、ドン・キホーテのノウハウを取り入れ、リニューアルするや途端に売上が1.5倍となったファミマの2店舗。ドンキは他にも不振にあえいでいた総合スーパーのユニーの再生を果たすなど、その勢いは同業他社を圧倒しています。もちろん本業「激安の殿堂」も絶好調、その秘訣は一体どこにあるのでしょうか? 今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、同社が次々と繰り出す「新たな手」を紹介しつつ、ドンキ好調の理由を探っています。

ドンキがファミマとユニーを再生できた理由

「馬鹿の一つ覚えみたいに、チェーンストアとは真逆の非合理的でアナログの極致とも言える『魔境』作りに大真面目に組織を挙げて取り組んでいる」──。

2018年6月期の決算説明会でドンキホーテホールディングス(HD)の大原孝治社長は、アマゾンなどネット通販業者にはないドン・キホーテの強みとして「熱帯雨林やジャングルのような売り場」を挙げ、それを「魔境」と表現しました。「ここにこそネットでは決して味わえないドンキの実店舗としての強さと魅力の本質が凝縮されている」(大原孝治社長)といいます。

場所を問わず所狭しと商品を大量に陳列する「圧縮陳列」で無秩序な空間を形成するドンキ流の売り場づくりは顧客にワクワク感を与えています。そのことが顧客を引きつける原動力となってきました。

「魔境」の名にふさわしい、ジャングルのような店内(ドン・キホーテFacebookより)

店舗は今もなお増え続けています。「ドン・キホーテ」「MEGAドン・キホーテ」「New MEGAドン・キホーテ」の2018年6月末時点の店舗数は計332店で、1年前から22店増えています。なお、ドンキホーテHDは小型店「ピカソ」や総合スーパー「長崎屋」なども展開しており、グループの総店舗数は50店増の418店となっています。

ドンキホーテHDの業績は好調です。8月10日発表の18年6月期連結決算は、売上高が前年比13.6%増の9415億円、本業のもうけを示す営業利益は同11.7%増の515億円でした。29期連続の増収営業増益を達成しています。最終的なもうけを示す純利益は同10.0%増の364億円でした。

小売事業では日用雑貨品が大きく伸張し、前年比18.4%増の2,172億円となりました。食品が同13.5%増の3,115億円、家電製品が同11.3%増の766億円となっています。訪日客の消費が好調で、免税売上高は同56.1%増の568億円となりました。化粧品や医薬品などがけん引したといいます。

他の業態店でも通用するドンキの売場作り

言うまでもなく、ディスカウントストアのドン・キホーテが同社の稼ぎ頭で18年6月期の業績に大きく貢献し、満足のいく結果を得ることができたわけですが、それに加え、ドンキの売り場づくりの手法が他の業態店でも通用したことが同社にとって大きな収穫となりました。

2月から3月にかけて、ユニーの総合スーパー「アピタ」や「ピアゴ」の一部を「MEGAドン・キホーテUNY」に転換して共同運営を始めました。6店舗を転換しましたが、転換店では商品を大量に陳列するなどドンキのノウハウを取り入れています。

転換した6店舗の業績は好調で、転換前に比べて売上高が90%増、客数が70%増、粗利高が60%増になったといいます。運営するユニー・ファミリーマートホールディングスによると、転換により客層が変化し、それまで取り込めていなかった学生を中心とした若い層と、30〜40代のニューファミリー層が大きく伸びたといいます。

ドンキはファミリーマートのプロデュースも手掛けています。6月1日に東京都立川市と同目黒区のファミマ店舗を、29日には同世田谷区の店舗を、それぞれドンキのノウハウを取り入れてリニューアルオープンしました。ドンキからも商品を仕入れ、商品を天井近くまで山積みしたり、天井から商品を吊り下げるなど、従来のコンビニエンスストアとは異なる売り場を構築しています。

ドンキのノウハウが功を奏し、6月1日にオープンした2店舗は1カ月で売上高が従来の約1.5倍になったといいます。

ドンキの売り場づくりの手法が他の業態店でも通用したことは興味深く、閉塞感が漂う小売業に一石を投じたといえるでしょう。多くの小売業者がアマゾンなどネット通販業者の脅威に脅かされているなか、“店舗ならでは”の価値を提供することが今まで以上に求められていることが、このことからもわかります。従来の発想にとらわれない売り場づくりが必要といえるでしょう。

ドンキホーテHDは5月に公式ネット通販サイトを終えています。退路を断ち、実店舗での販売に注力することでアマゾンなどネット通販業者に対抗する考えです。一方で、遅れていたデジタル化を推し進め、ネットの世界と実店舗を融合していく方針を示しています。

スマホのアプリと売り場を連携します。自宅などからチャット形式で在庫を確認したり、SNSで情報を共有できるようにするほか、目当ての商品がある位置を確認できたり、POPなどに付いているQRコードを読み込むことで商品の使用方法がわかる動画や詳細情報を確認できるようにします。店内を歩いた分だけポイントが付与されるようにもする考えです。

現状に満足せず新たな手を打ち続ける

ドンキホーテHDは複合ビルの開発にも乗り出します。東京・渋谷に地下1階、地上28階建ての複合ビルを開発すると8月13日に発表しました。旧「ドン・キホーテ渋谷店」の跡地を含む約5,700平方メートルの敷地に建設します。

建設工事は19年1月に着手し、22年4月に竣工予定です。延べ床面積は4万950平方メートルを見込みます。1〜3階に店舗、4〜10階に事務所、11〜28階にホテルが入る予定です。低層部の店舗が「ドン・キホーテ」になるかは未定です。

文化村通りに面した立地で、渋谷で暮らす人や働く人、来街者などに多様なサービスを提供する考えです。東急百貨店本店やH&M渋谷店と通りを挟んで隣接する立地でもあり、周辺地域に新たな賑わいが生まれそうです。

渋谷駅周辺では東京急行電鉄を中心に再開発工事が相次いでおり、ドンキホーテHDは渋谷の街の潜在的な力は高いとみています。

現状に満足せず新たな手を打ち続けるドンキホーテHD。今期は売上高1兆円(前年比6.2%増)を見込んでいます。営業利益は530億円(同2.8%増)としています。30期連続の増収営業増益を達成できるのかに注目が集まります。

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