『フェイクの時代に隠されていること』より イラスト:小田嶋隆

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本人も家族も、そして社会も、誰もが「なんとかしなくては」と思いながら、後回しになっているのがひきこもり問題。内閣府は今年秋に、中高年のひきこもりの初の実態調査を行う予定だが、このまま彼らを放っておくと、どんな事態が生じるのか? 政界きっての論客である立憲民主党幹事長・福山哲郎と精神科医の斎藤環が、7月13日に『フェイクの時代に隠されていること』を上梓。ひきこもり問題に積極的に取り組む斎藤は、福山との対談でこう語っている。

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斎藤:全世界的に、社会的排除を被った若者の居場所は、路上か家しかないんですけど、日本と韓国では家になることが多いですね。日本も韓国も圧倒的に家族主義じゃないですか。中国にもそういうところがありますけど、儒教文化圏っておおむね家族主義なんですよね。儒教の最上位のプリンシパルが「孝」、つまり親孝行ですから。

孝行のためには同居が前提で、『四世同堂』みたいな複数世代の同居が最高の幸せ。こういう文化圏では、若者の挫折形態が必然的に自宅でのひきこもりになるわけです。まあ孝行は無理でも、介護ぐらいはしてくれるかもしれませんけど。

一方、アメリカやイギリスみたいに個人主義的な考え方が浸透していると、シングル・マザーが多いせいもありますけど、成人したら家から出るのが自明の前提になるので、とりあえず出る。それで仕事が見つからなければ、そのままホームレスになっちゃいます。だから、若年ホームレスの人口は日本よりも2桁ぐらい多いんじゃないですかね。数十万人って規模です。日本は1万人いないという統計ですから。

福山:でも潜在的には家にひきこもっている人がいるってことですね。

斎藤:私の仮説では、ホームレスとひきこもりって居場所の違いだけなんです。社会に参加できなかった排除された若者が、家にいればひきこもりだし、路上にいればホームレス。人口比からみても、ほぼそう考えていいと思うんです。もっとも最近は世界的に「日本化」が進んで、ニート、ひきこもりが増えつつあるという説もありますが。

話を戻して、身も蓋もないことを言いますけど、ホームレスって寿命が短いんですよ。長生きできないんです。平均寿命が56歳という統計があります。冬を越せずに亡くなる人が多いので。ひきこもりはみんな、長生きするんですよ。もうすでにアラ還ニートが珍しくない。還暦近いニート。

福山:アラ還ニート! そういえば40代以上のひきこもりが25%という数字が新聞に出てきましたね。

斎藤:25%という数字はすごく控えめだと思います。どの統計でも平均年齢が35〜36歳なので、そんなに少ないはずがない。

福山:ひきこもりは39歳までで54万人っていう数字も出ていますよね。

斎藤:すごく控えめな統計ですけど、いちおう年齢をそこで切ってもそれだけいたということは、本当に驚くべきことです。内閣府は「前の調査より少し減った」とか言って喜んでいるんですけど、こんなのは明らかに誤差範囲ですよ。家にアンケート調査票をばらまいて後で回収するという、一番控えめな数字にしかならないような調査方法をとっていますから。

福山:それで54万人いるんですか。

斎藤:それでいるってことは、絶対に100万人はいるし、年齢制限を取っ払ったら、200万人は確実にいると思っています。

福山:これは年齢制限を39歳で切っていますもんね。

斎藤:これは政府の若者の定義が39歳までだからですよ(笑)。なんで39歳が若者なんだって話です。私は「若者の高齢化」と呼んでいますが、こんな現象は日本だけです。ただ、これはおそらく実用に即した変更だと思います。若者向けの就労支援の間口を広げるため、ということもあるでしょう。普通にハローワークだけでは就労できない人がいっぱい出てきたんで、「若者」の枠を広げざるを得なかった。あの意味のない「成人年齢の引き下げ」よりはずっとリアリズムです。

私は勤務先や家族会でひきこもりの平均年齢の統計をとっていますけれど、どんどん上がっています。2010年の調査で32歳。2015年の統計では34歳です。2歳上昇してますね。なぜかというと、単純な理由で、「卒業」しないからです。一旦、何年かひきこもっちゃった人は、もう自力では抜けられないんです。

これは間違いなくこのまま行きます。日本の特異性は、ひきこもった子を恥と思って外に出さないで、かくまっちゃう。面倒を見ちゃう。親御さんが80歳でお子さんが50歳なんていう家庭が、もう普通になってきた。ひきこもっているお子さんがですよ。普通は親孝行で介護とかしなければならない年齢ですが、老老介護の逆ですね。年老いた親が年老いた子の面倒を見るという構図があって、こういう家庭がだんだん増えていく。そして今、ひきこもりの最年長は60歳に行ってる。ボリュームゾーンの第一世代が50歳ぐらいです。

福山:50歳ぐらいがすでに第一世代!

斎藤:この世代のほとんどが、このまま高齢化していきます。私は何年も前からずっと警鐘を鳴らしているんですけど、あんまり関心を持っていただけないんです。私は年金制度に対する一番のインパクトは、2030年頃にやってくる「ひきこもり高齢化社会」、これが財源に対して破滅的な影響を及ぼす可能性がある。今ひきこもっている40〜50代は、どんなに少なく見積もっても10万人はいます。この層が65歳になったら年金受給できるんですよね。

福山:えっ、でも年金を受給するには保険料を……。

斎藤:親が払っているんですよ。自分の年金から。

福山:ええっ〜!

斎藤:皆さん、そこら辺は見落としがちなんです。働いてないから払わないでしょと思いきや、実は親が保険料を払っているんですよね。だからもし彼らがみんな正当な権利として年金を受給したいと言い出したら、大変なことになる。私の予測ではたぶん権利のある人の2〜3割ぐらいしか請求してこないと思うので、残りは生活保護か孤独死しかない。年金の請求をしないだろうというのは、彼らはまず役場が怖い。今まで働いていないから、役場に行って年金なんか請求したら叱られると思っている。だから怖くて行けないんです。

福山:そういうメンタリティなんですか、40歳で?

斎藤:そういうメンタリティなんですよ。実際に経験した事例ですけど、本人が30代で親が70代なんですけど、親が身体を壊しちゃって危篤だというのに、救急車を呼べないんですよ、怖くて。うちは健康保険に入っていないから呼んだら叱られると思って呼べなかったりするんです。結局、見るに見かねて自分の手で殺しちゃって、自殺しようとして死にきれず、自首して刑務所に入るというパターン、2例ほど経験しました。

福山:ふたつですか。

斎藤:はい。これは先駆的な事例で、これから増えると思います。

福山:その方はひきこもりの30代の方ですか。

斎藤:そうです。中学でひきこもって、社会経験がないまま35、6歳になっちゃったっていう人ですね。必然的に社会的スキルは落ちますし、心の成長も起こりにくくなるので、心はほぼ中学生のままなんですよね。だからもうとても社会の荒波に耐えられない。

福山:そういう方が、斎藤さんの見積もりでは200万人くらいいるということですね。

斎藤:目に見えないので、なかなか信じてもらえないんですが。そのくらいは確実に存在すると思います。

福山:欧米で若者のホームレスがいる数の比率ぐらいはいるということですかね、比率的には。それがなかにこもっているからわからない。

斎藤:そうです。イギリスでは26歳以下のホームレスが25万人という統計が10年前に出ているし、アメリカでは100万人以上という推定があります。人口比でいったら日本も100万人ぐらいはいてもおかしくない。しかし彼らが言っているヤング・ホームレスって、やっぱり20代以下なんです。ひきこもりは定義上、年齢に上限がないので、アラ還ニートまで含めたら、すごい数になる。

それがある時点から一気に可視化されてくるわけですよ。年金受給人口として。だから今から手を打って、なんとか就労支援をもっと手厚くしないと大変なことになると言い続けてきたんですが、なかなか。政策上、票に結びつきにくいと思われているのか、ひきこもり対策は常に後回しなんですよね。実際には彼らも投票だけは行く人が多いんですが。

福山:その方々が、たとえば病気になっても大変ですよね。

斎藤:大変ですよ、もちろん。

福山:まして医療保険料を払っていないわけですからね。

斎藤:親が払っていますから(笑)。

福山:ああ……。

斎藤:親のやったことのツケがあとでくる。彼らは保険料は払っていますよ。だけど所得税は払っていないので、年金の財源の半分は寄与していませんよね。実質上フリーライダーに見えてしまう。そうなると必然的にバッシングは起こるだろうし、もちろん年金の財源を直撃するような巨大なダメージになるでしょうね。

福山:それは団塊の世代の人たちが、自分たちのひきこもりの子どもをかくまい、自分たちが経済成長のなかで蓄えた資産があるから、それが可能なわけですよね。

斎藤:金を持っているから。それが持たなくなるのが2030年頃ではないかと思うんです。本当に、この人たちを就労移行支援事業で早く軌道に乗っける努力を、もう少し力を入れてやっていただかないと。

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ひきこもりというと、個人や家庭の問題と思われがちだが、近い将来、高い確率で社会に大きな影響を与えることになりそうだ。与野党間の政策論争の題材になりにくいテーマではあるが、まずは国民に情報を与えることで、問題意識を高めたいところ。何しろ2030年までは、もう12年しかない。

なお同書ではこのほか、忖度がなぜ暴走したのか、真実よりもフェイクが氾濫する理由、最悪の法改正案、続く貧困と差別など、「政治の現場」と「精神科医療の現場」の視点から、この時代の裏で起こっていた事を解説している。