私がどん底で見た「読解力がない」という地獄

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読解力を上げるにはどうしたらいいのでしょうか(写真:つむぎ/PIXTA)

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中2の息子がいます。うちの子は、前から国語が苦手で、読書も小さい頃からしないほうです。読書は国語力を引き上げるという話を聞いたことがありますが、強制するのもよくないと思いここまできました。しかし、だからといって、どうすれば国語ができるようになるかはいまだわからず。多分、読めていないんだと思いますが、読解力を上げていくために、どのような対策をしたらよいのでしょうか。何かアドバイスをお願いします。
(仮名:山口さん)

国語ができない1番の原因は

「国語ができない、読解力がない、本を読まない、どうしたらいいでしょうか?」この質問はかなりたくさん受けます。小学生の頃は、中学受験するケースを除き、ほどほどにごまかすことができるのですが、中学校に入ると、ほぼ全員が高校受験するため、国語にスポットが当たってきます。


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でもよくよく考えてみてください。国語の勉強の仕方を教えてもらったこと、ありますか? 国語ができる人も、小さい時から本を読んでいたからできたというような感覚があるだけで、「読書量=国語力」で片付けられてしまっていることが少なくありません。

もちろん、読書はするに越したことはありませんが、全体として長文の書籍を読まないという意味での活字離れは進む一方ですし、読書だけが国語ができるようになる方法とも思えません。嫌いな読書をさせることでさらに「嫌い」が加速することもあります。

そこで今回は、山口さんにお話することは、「国語ができない1番の原因」についてです。もちろん読書の問題ではありません。読書していても国語ができない子はごまんといますから。

子どもが文章を読んでいる姿を見たことはありますよね。家でプリントをやっていたり、メールを読んでいたり、テレビのテロップの字を読むことも、その1つになります。

しかし、その時の子どもの頭の中がどのようになっているかを見ることはできるでしょうか。もちろん、わかりませんよね。ここに大きな問題があるのです。

実は、文章を読んでいるときに、2種類の読み方があるのです。

文章を読むときは2種類の読み方がある

1つは、意味を理解しながら読んでいる読み方です。この場合、書いてあることがひとつひとつ頭と心に入ってきていて、うまくいくと、文章と自分が一体になっていたりもするでしょう。

ではもう1つの読み方は何でしょうか。それは、字ヅラだけを追っている読み方です。活字の羅列に対して目を移動させているだけということです。本当にそんな読み方をしている子がいるのか、と思われるかもしれませんね。率直にいって、たくさんいます。かなりたくさんいます。実は、筆者も高校時代までそうでした。この読み方をしている子は100%国語ができませんし、さらに他教科も伸び悩むものです。

この2つの読み方のうち、どちらの読み方をしているかははたから見て、わかりません。周囲には、ただ読んでいるという姿しか見えないからです。ここに大きな落とし穴があります。周囲からは、本当の原因が見えないから、対策の打ちようがなかったのです。

なぜそれがわかったのかと言うと、筆者の実体験があるからです。筆者は成績を上げるために熱心に勉強するタイプでしたが、国語についてはまったくダメな人間でした。小学校の頃からです。さらに中高時代の国語の授業は、睡眠時間か息抜きの時間でした。はたからは勉強しているように見えたかもしれませんが、授業はつまらないし、書いてある内容も同様で、興味は一切湧きません。もちろん当時の筆者の精神年齢の低さが、文章の内容に追いついていなかったということもあるでしょう。

では、文章を読むときに何をしていたか? それが、「ただ字ヅラだけを追っていた」ということなのです。国語の問題の答えを考えるときは、ただ文字を眺めて、「宝探し」をしているようなものでした。当然ながら、そんなやり方で答えがそう簡単に見つかるはずはありません。

そんな状態ですから、意味を理解するなどありえず、国語ができるようになるなど夢のまた夢だったのです。意味を理解する力がないから、英語も頭打ち。数学もパターンを刷り込んでいるだけで、問われていることの意味など理解していません。ですからパターンから外れるとできなくなり、また新たな“パターン”としてひたすら覚えなくてはならないのです。

しかし、そんな筆者にも転機がやってきます。大学受験に2度失敗して「万事休す」となったところから、国語の偏差値が半年で40→70台後半へ急激に上がったのです。なぜだと思いますか? それは「考える力」を手に入れたからです。つまり「意味を理解する力」を手に入れたのです。

この考える力、読解力を手にすると、確実に点数が上がります。過去多くの子どもたちを指導してきたなかで、これは誰でも可能なことだと考えていますが、多くの子は「考えること」を教えてもらったことがないため、できない子はずっとできないままなのです。

私の場合はたまたま、人生のどん底に陥って、考えざるをえない状況に追い込まれて手に入れたのですが、通常、そのようなどん底は経験しないでしょうから、手に入れないまま、ほどほどで終わるのですね。

塾で子どもたちを指導していくと、筆者と同様の“症状”にある子が非常に多いことに気づきました。意味を理解しない子どもたちということが最近話題になっており、統計データでも、それは示されているようですが、筆者がこれまで3千人以上を直接指導してきた経験から照らし合わせても、間違いなく、意味を理解しない子どもの方が圧倒的に多いと断言できます。

では、ここで、先ほどの2つの読み方について具体的に説明しましょう。1つは「字ヅラを追っている読み方」で、もう1つは「意味を理解している読み方」でした。この2つはどう違うのでしょうか。

意味を理解している子の頭の中はこうなっている

? 国語の問題で「主人公はなぜ、○○のようなことをしたのでしょうか?」という設問があったとき、

→字ヅラを追っている子は、ただ単純に「文章の中からその答え」を探そう(抜き出そう)とする

→意味を理解する子は、答えは答えとして考えつつ、「普通、○○のようなことしないだろ」とつっこんだり、意味まで考えながら読んでいる

? 英語の問題集で「I don’t like Ken, because he is always late for school.」を訳しなさいという問題があったとき

→字ズラを追っている子は「私はケンが好きではありません。なぜなら彼はいつも学校に遅刻するからです」と訳して、さっさと次の問題へ進む

→意味を理解する子は「遅刻するぐらいで、なんで人を嫌いになる必要があるんだ」と考えたりもしている

いかがでしょうか?

一例ではありますが、これが「字ヅラを追っている子」と、「意味を理解する子」の違いなのです。言い換えれば、読解力がない子とある子の違いともいえます。

意味を理解する力は、あらゆる場面で発揮されます。つまり、どのような科目でも、分野でも、さらに言えば、仕事でも、日常生活におけるさまざまな出来事でも発揮されます。これを「一事が万事」といいます。

「意味を理解する子」になるには

では「字ヅラを追っている子」はどうすれば「意味を理解する子」になるでしょうか。「意味を理解する子」に転換する方法やスキルはいくつかあるのですが、その中でも家庭で手軽に実践できる方法を1つ書いておきましょう。それを突破口にしてみてください。

子どもが中学生の場合、勉強に関して親が介入すると失敗することが多いため、次のようにするといいでしょう。


「勉強以外の話題で、子どもと話をする際に、『これって何のためなんだろうね〜』『なぜそうなんだろうね〜』『これって○○(子どもが知っている知識や経験)と似てない?』と言ってみる」

意味を理解する子は、「疑問を持つ」「自分に置き換える」「目的を考える」傾向にあります。

それをあえて、日常の話題の中で「問い」という形で言葉にしてみるのです。“問われる”と人は、そこに意識がフォーカスします。すると、内容の世界に入っていくため意味を深く考え、理解するようになっていきます。

このように、言葉の力を使って、意味を理解できる人になるように、サポートしていってあげるといいでしょう。一朝一夕といかず、地道さが求められるやり方です。しかしやがて、勉強の世界でも同様に意味を考える習慣ができ、勉強はもちろん、さまざまな分野に効果が波及することになるでしょう。