ショッキングな出来事がきっかけで、ある日突然、眠りから目覚めない子どもたちがスウェーデンで多数みられています。「Resignation Syndrome(あきらめ症候群、生存放棄症候群)」と名付けられたこの症状の回復には、移民政策が大きく影響を与えるとの指摘があります。

Resignation syndrome: Sweden's mystery illness - BBC News

https://www.bbc.com/news/magazine-41748485

スウェーデンでは過去20年間に、あきらめ症候群の子どもたちが多数現れてきました。あきらめ症候群の特徴は、歩いたり話したりするのをやめてしまい、場合によっては目を開けることさえやめるとのこと。そして、この症状は「亡命を望む家族の子どもにだけ発生する」という特徴があることがわかっています。

スウェーデン中部に配置された難民向けの居住施設で保護されている少女「ソフィー(仮名)」をBBCが取材しました。あきらめ症候群にかかったソフィーはベッドで眠り続けたままで、何も食べることができずチューブで鼻から栄養補給しています。



ソフィーの一家は旧ソ連出身の亡命希望者で、2015年12月にスウェーデンにやってきました。ソフィーの父は2015年9月に出身地で自動車を運転しているところを警官の制服を着た男に制止されました。そして男はソフィーの父と母を車外に引きずり出し殴ったとのこと。この様子を車内のソフィーは見ていました。

男はソフィーの母を解放したため母はソフィーを抱きかかえて現場から逃げ去りましたが、父はその場に留め置かれたとのこと。ソフィーの父はその直後からの記憶を失っており、何が起こったのかはわからないそうです。

知人の家に逃げ込んだ母とソフィーでしたが、ソフィーはひどく動揺しつつ「パパを探しに行って」と叫び、壁を蹴っていたとのこと。3日後に父と連絡が取れたそうで、ソフィー一家は知人の家に身を隠して、3か月後にスウェーデンにたどり着いたそうです。

スウェーデンに到着後、警察に拘束された直後からソフィーの状態が悪化し、ソフィーは姉と遊ぶのをやめました。すぐに家族が「スウェーデンに滞在できない」という報告を国境沿いで聞いたソフィーは、この時点からソフィーは会話や食事をやめたそうです。



Doctors of the Worldのエリザベス・ハルクランツ医師によると、ソフィーの血圧は正常だとのこと。BBCが訪問した時は脈拍が少し高かったことから、ソフィーは来客に反応しているのかもしれないと述べています。ソフィーは口を開けることがないため、栄養補給チューブにトラブルが生じた場合、窒息死してしまう危険性をハルクランツ医師は心配しています。



あきらめ症候群の子どもを見てきた多くの医療従事者は、子どもたちが眠りにつくことで外界との交信を止めてしまった原因が、ショッキングな出来事にあることに同意しているとのこと。両親に対する激しい暴力を見たり、家族が深刻で不安定な環境から逃れてきたりした経験を持つ子どもがあきらめ症候群に陥っているそうです。

あきらめ症候群のメカニズムははっきりわかってはいませんが、不安定な環境から脱することで症状から回復することも確認されています。「最も説得力のある説明は、この病気が発症するためには、社会的文化的な要因があるということです」とストックホルムにあるアストリッド・リンドグレン小児病院のカール・サリン博士は話しています。

BBCによると、かつてナチスのホロコーストでもあきらめ症候群と同様の病気が確認されていたとのこと。しかし、サリン博士の知る限り、近年、スウェーデン以外ではあきらめ症候群が発生した例はないそうで、なぜスウェーデンでのみ発生しているのかは明らかにはなっていません。

スウェーデンの全国保険委員会の調査によると、過去10年間にあきらめ症候群の子どもの数は減っており、2015年から2016年には169件が残っているとのこと。また、1998年に初めてあきらめ症候群が発見されると、その報告後に同じ地域にあきらめ症候群の子どもが増えたことが観察されているため、あきらめ症候群は「感染」するという見解もあるそうです。

あきらめ症候群から回復するカギは「安心感」であり、そのプロセスを加速させるのは「永住権」だとソフィーを担当するラース・ダグソン医師は考えています。「子どもには何らかの形で希望があり、生きることを感じられなければなりません。それこそが、これまで私が見てきたすべての症例で、状況を変えた理由を説明する唯一の方法です」とダグソン医師は述べています。

これまで、スウェーデンではあきらめ症候群の子どもを持つ家族はスウェーデン国内に滞在することが認められていました。しかし、ここ3年間に約30万人もの移住者がスウェーデン国内に流入したことで、国民の移民に対する感情に変化が起こったとのこと。2017年に暫定的な法律が施行され、亡命希望者への永住権の付与が制限され、3年から13カ月のビザの付与に変更されたとのこと。そして、ソフィー一家に与えられた一時的なビザは2019年3月で失効するそうです。ダグソン医師は13カ月以内にソフィーが回復できるかどうか疑問に感じています。



あらゆる子どもの困難な状況を支援するグリーニング・ヘルスのソーシャルワーカーのアニカ・カリシャマー氏は、「この病気は亡命の事実ではなく以前のトラウマに関係している」と考えています。



カリシャマー氏によると、あきらめ症候群にり患している子どもの回復の第一歩は「家族と分離する」こと。家族には常に状況は説明しますが、まずは子どもがスタッフを頼る状況を作ることが大切だそうです。子どもたちは遊ぶことや甘いものを食べることなどで、忘れていた感覚を取り戻す訓練をします。なお、子どもの前での「移民プロセス」に関する会話は厳禁だとのこと。

電話で会話ができるようになるまでは親との接触を絶ち、完全な回復を手助けするというグリーニング・ヘルスでは、これまであきらめ症候群から回復するのに要した最も長い時間は6カ月だとのこと。グリーニング・ヘルスの回復プログラムであれば、時間制限内にソフィーを回復させられるかもしれません。