「独り言」はヘンじゃない!? セルフ・コントロールに有効?

写真拡大


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ

「独り言」

とは、相手がいないのに何かをしゃべっている、ブツブツとコトバを呟いていること。

周囲からは「変な人」と見られるかもしれません。

電車の中のような公共の場であれば、なおさらその感は強くなるでしょう。

そうした反面「独り言」は心理的に意味のある行動だという考え方もあります。

独話(モノローグ)と対話(ダイアローグ)

発声を伴う「話しことば」は、一般に聞き手に向かって発せられるものです。

友人と談話をする、インタビューをするなど、声(ことば)によってコミュニケーションを図ることを

「対話」

と呼びます。

これに対し、相手がいないのに声を伴うコトバを発する行為が

「独り言(独話)」

です。

独言・独白・呟きなども類語で、私語や捨て台詞も含まれるという見解もあります。

心理学では、ことばが声となり伝達ツールとして使われるときは

「外言(がいげん)」

と呼びます。

これに対して、音声を伴わない思考、いわゆる頭の中で展開されるときは

「内言(ないげん)」

と呼びます。

この区分からすると、内言が声となって発せられるのが「モノローグ」とも言えるでしょう。

また、演劇や舞台などではモノローグも一つの表現方法になっています。

危ない「独り言」とは?

しかし、なかには「危ない独り言」も存在します。

たとえば、日常生活で話し相手がいなくて仕方なく独りでブツブツしゃべっている場合。

あるいは、ストレスが昂じて気がつかないうちに心に溜まった不満ややるせなさをコトバにして呟いていた場合など、孤独やストレスが独り言を呟かせるのです。

また、ある種の精神疾患の症状として「独り言」が出ることもあります。

たとえば、統合失調症の幻覚や妄想によって、本人がリアクションとしてコトバを発している場合です。

また、自閉症スペクトラム障害も比較的独り言が多いと専門医は指摘します。

このように、疾病の症状としての独り言も、前述の孤独やストレスの場合と同様、精神的な危機や緊張、興奮によって「独り言」を発しているという観点から「危ない独り言」と捉えられます。

特に周囲との和を尊ぶ日本の文化では、人中で独り言をしゃべっていると「変な人」と思われやすいでしょう。

総じて独り言は、好ましくないネガティブな状態、と判断される傾向にあるようです。

アスリートの独り言:エクスターナル・セルフトーク

先ごろ韓国の平昌で開催された冬季オリンピックでは、日本選手の活躍が連日話題になりました。

その際もよく見られた光景ですが、アスリートが出番直前、自分を励ましたり勇気づけたりするために、独り言を発することがありますね。

これは

「自己対話:エクスターナル・セルフトーク」

と呼ばれます。

アスリート以外にも、本番直前の歌手やプレゼン直前の発表者などが、こうした独り言を発することがあります。

頑張ろうという様子が伝わってきて、好感と共感をもって支持される行為と言えるでしょう。

このケースでの独り言はポジティブなイメージで捉えられています。

セルフトークの役割

周囲の目に配慮する伝統的な日本文化よりも、自分が何をやりたいかという自己実現を尊重する欧米型の文化において、自己対話はよりポジティブなものと評されているようです。

たとえば、アメリカ合衆国では精神科医や臨床心理士たちによって、セルフトークのメリットとして次のような点が挙げられています。

独り言で集中力が高まる


⇒作業中に声を出すことで雑念を追い払って考えがまとまり、集中力も高まる。

目標の達成を促す


⇒声に出して目標を表明すると、実際に最後までやり遂げる可能性が高まる。
 いわば自分を鼓舞する(奮い立たせる、励ます)ことにあたる。

心の準備をする


⇒面接やプレゼンに向けて、声に出して予行演習をしていることが周囲には独り言に見える。
 もちろん、本人にとっては準備・シミュレーションの役割を果たす。

パニックモードを防ぐ


⇒セルフトークによりストレスレベルが下がることが臨床心理士によって指摘されている。

ガス抜きやストレス解消


⇒いわゆる内に溜めておかないでコトバにすることでストレスを解消し、不満や怒りなどのガス抜きをする・・・その手段としての独り言
 (どこかの大統領のツイッターはこれなのか?それとも、もっと深い意図があるのか?=筆者の独り言)

心の支え


⇒葛藤や喪失や病気など、落ち込んでいたり心が痛んでいたりするとき、自分を自分で慰めることで癒される方法として用いる

独り言の内容に耳を傾けると…

自己主張型の欧米文化と違い、周囲との調和をまず重んじる日本文化では、アスリートの自己対話など特殊な場合を除いて、独り言はあまり歓迎されないように思われます。

しかし、現代の日本社会は、孤独病、無縁社会などの言葉に象徴されるように、孤独な生活や人生を余儀なくされる人が増えてきています。

「独り言」が持つポジティブな面を評価して、少しでも豊かなこころで生きるために活用しようと考えてもよいのではないでしょうか。

ひとつ言えるのは、「独り言」には世間や他人への悪口、不満といったネガティブな独り言と、自分を励ますことや楽しいイメージを表現するためのポジティブな独り言がありますが、周囲がそれを「変なもの」として見るか、「共感的」に受け止めるかは、その内容によるということでしょう。


<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供