サメといえば映画『ジョーズ』に出てくる「人喰いザメ」の印象が強烈。でも、実際のサメはどんな魚なのでしょう?(撮影:尾形文繁)

ごぶさたしております。好評連載「基礎から知りたい!」が久しぶりに復活しました。今回は夏休みということで、最近子どもたちにも人気という「サメ」です。講師は、世界で唯一のシャークジャーナリストを名乗る沼口麻子さん。まずは、サメってどんな魚なの?という生物的な疑問からわかりやすく解説してもらいました。本日から4日連続でお届けします。

イルカよりもサメが、ハードル低い?

木本:夏休みなので、子どもたちにもわかりやすくサメのことを解説してください。お話を聞くにあたって、テレビ収録の合間に『ほぼ命がけサメ図鑑』をスタッフの前で読んでいたら、「いま話題の本ですよね」と言われました。そもそも沼口さんはなぜ、サメの世界に飛び込んだんでしょう。


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沼口:小さい頃から生き物全般、魚類も哺乳類も好きでした。生物に携わる仕事がしたいと思っていたら、たまたま水産系の大学に受かりました。4年生になるとどこかの研究室に入って卒論を書かなければいけないのですが、面白そうなのがクジラ、サメ、イカ、マグロでした。イルカに引かれましたが競合する人も多く、哺乳類なので、サンプリングできないのがネックでした。簡単に殺して研究対象にできませんし、調査捕鯨船に乗って研究するのも女性にはハードル高かったんです。そこで大きくてかっこよくて生態も面白いのはサメだなと。大学1年の時に読んだ『サメ・ウォッチング』という翻訳本に、サメは怖い存在ではなく、研究も進んでおらず、「求む研究者」とあったのも魅力でした。

木本:僕も一緒です。「即戦力求む」という松竹芸能の広告を見て応募したんですよ。

沼口:で、サメの研究室に進みました。私が知っている範囲で言えば、教授が研究しているテーマを学生がやらされることが多いようですが、私の先生は放任主義でした。「好きにテーマを選んでいいよ。でも、責任持って卒論を書きなさい」というスタンスで。私は言われてやるのが好きじゃないのでピッタリでした。

木本:能動的に決めたいタイプだったんですね。

沼口:南の島に住んでみたいという願望もあって、小笠原の父島に行ったらアオザメを獲っている漁師さんに偶然お会いしたんです。


沼口麻子(ぬまぐち あさこ)/1980年、東京都生まれ。東海大学海洋学部卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。IT企業のプログラマーとして8年間の会社員生活を送ったのち、世界で唯一のサメジャーナリストとして独立。静岡県焼津市をベースに、サメの情報を発信し続けている。専門学校の講師、雑誌連載、ブログなどで「隠れサメ好き」の発掘に余念がない。2018年5月『ほぼ命がけサメ図鑑』を上梓(撮影:尾形文繁)

小笠原のサメに限定すると、関連研究論文もあまりなくて、ある意味、何をテーマに論文を書いてもオッケーな状態でした。先生からも「小笠原周辺にどんなサメがいるかは誰も知らないから調べてみれば」とアドバイスを受けました。移住して、毎日漁港でサメをもらいに行きました。

漁師にとってはマグロなどの食用として売れる魚だけが価値があって、サメは漁獲されたとしても、船に揚げるまでに暴れるなどして、漁具を壊したり、ケガしたりという嫌われ者。ほとんどの人は針にかかっても水揚げせずに海にリリースをしていましたが、たまたま協力してくれる漁師さんと出会ったおかげで、サメの新たなサンプリング場所として開拓できました。

木本:いい出会いもあったと。

沼口:毎日水揚げされたサメを取りに行ってサンプリングしていくうちに、ますますハマっていったんです。

木本:世の中の研究者は、特殊な能力がもともとあったと思ってしまうんですが、沼口さんはそうじゃないですね。サメにどんどんハマっていくほど研究対象についての無限の可能性を知ることができ、大学で論文を書くことができた。著書でいちばん印象に残ったのが「人食いザメは、存在しません。」というキャッチでした。

サメは世界に500種類以上

沼口:サメといえば、映画『ジョーズ』の印象が強烈ですが、毎年、夏になると「海水浴場にサメが現れて遊泳禁止」のニュースがつきものです。皆、サメを怖がっていて、「サメ=人を食べる」と思っています。

でもサメは500種類以上いて、ホホジロザメのような、映画『ジョーズ』のモデルになったのもいれば、手の平サイズのツラナガコビトザメまで多様です。哺乳類でいえばライオンもいれば、ハツカネズミもいるようなものなんですけど……。

木本:手の平サイズで飼ってみたくなるサメもいれば、「うわあサメだ」という大物もいる。大きさで最大はどんなサメですか。

沼口:ジンベエザメが17mくらいになります。


木本武宏(きもと たけひろ)/タレント。1971年大阪府生まれ。1990年木下隆行とお笑いコンビTKOを結成しツッコミを担当。2006年、東京へ本格的進出。S-1バトル優勝、キングオブコント総合3位などの受賞歴がある。現在は、ドラマやバラエティなどピンでも活躍中(撮影:尾形文繁)

木本:クジラみたいにジャンプするサメもいるんですってね。

沼口:何種類かいます。

木本:「サメ=絶対怖くない」というのは、僕自身も経験しました。相模湾の海釣りのロケで、表層で休んでいる魚が見えました。カジキマグロかなと思ってルアーを投げました。そしたら船長が「あれはシュモクザメだ」と。かかったらどうしようと焦りました。ルアーが魚体近くにドロップしたので、食いつくなっと思ったら、一目散に逃げてしまった。「なんだ、サメって臆病なんだ」と思いました。危険察知能力が高いのかなと。

沼口:けっこう臆病ですね。サメからダイバーに近づいてくることは少なくて、人影を見たら遠くに逃げていくことがほとんどです。

木本:「ダイビング中にサメと遭遇したら死ぬ」と思っていましたが、ぜんぜん違うんですね。

それでもサメが人間を襲うワケは

沼口:ダイバーが襲われることはなくて、表層での素潜りや、パドリングでサーフィンしているときには、たまにアタックされることがあります。

木本:怒って襲ってくるんでしょうか?

沼口:バシャバシャという振動音に敏感なんです。サメも効率的に餌を捕食したいので、弱った魚を狙います。バシャバシャ音がその音に似ているのではないかと言われています。あるいは、サーフボードでパドリングしているシルエットが大好物のカメに見えてアタックしているかもしれません。

木本:だったら普通にダイビングしていれば、サメからはエサには見えないから……。

沼口:タンクの泡が怖いみたいで、けっこう逃げます。得体の知れないものが来たから逃げようというサメが多いと思うんです。

フィジーでレモンザメに襲われる恐怖体験?

木本:でも一度だけ、怖い思いをしたそうですね。

沼口:テレビ番組の撮影でフィジーまで行った時です。そこでマグロの魚肉や血を流して、サメを集めているところに入っていったんです。彼らがアグレッシブになっているところを水中レポートしました。

木本:ケージ(檻)もなしですよね。いうたら裸で群れの中に飛び込んだ。

沼口:本来はサメの集まったところを離れたところから見せるショーなんですが、「撮影だから沼口さん入っていいですよ」とディレクターさんに言われて。

木本:そのディレクターとは仕事したくないと思いました(笑)。その代わり貴重な体験をされたんですよね。2mくらいのレモンザメに甘がみされたとか。

沼口:まあ、腕をコツンと小突かれたという感じですが。

木本:口を開けて向かってくるサメを見て「死ぬ!」と思わなかったんですか。

沼口:集まってきていた7種のサメの中で、近づいてきたのはレモンザメだけだったので、「イタズラ好きの性格」の子で面白いなと。カメラマンさんが背後から狙われているのを見ると、怖いなと思いましたけど。

木本:背中に目があったらいいけど、普通は気づきませんからね。

沼口:レモンザメもそんなに口が大きくないから、ひと飲みされて即死ではないので、大丈夫かなと思ったんです。

木本:ダイビングする人を食べに来ることはほぼないと。切り身を持ったり、採貝漁をしていたり……。

沼口:いいにおいに引かれてかむことはあるでしょうね。

木本:人の側に襲われる理由があってサメも来るということですよね。威嚇したとか。

沼口:そうですね。ダイバーは一般的にサメを恐れません。むしろサメを見たくてお金をかけて海外に行く人もいるくらいです。サメを呼べるガイドがパプアニューギニアにいて、「私にも呼んでください」とお願いしたら、「い・ろ・は・す」のボトルをパリパリさせたんです。そしたらサメが寄ってきました。

木本:「い・ろ・は・す」の薄いボトルが、「いたこ」のように引き寄せると。

沼口:サメ以外にも、ロウニンアジも来ましたね。

木本:GT(ジャイアントトレバリー)ですね。あこがれの魚です。

サメだけに存在する“第六感”

沼口:実はサメには第六感があります。特にシュモクザメは頭の面積が大きいですよね。それには理由があって、頭にロレンチーニ器官という、生物の微弱な電流を感知するものがあります。シュモクザメは海底すれすれに、頭をまるで地雷探知機のようにして泳ぐんですが、砂の中にいるエイやカニ、ヒラメを感じて捕食することができます。

木本:そのセンサーのためなんですね。

沼口:シュモクザメの頭がなぜあのような形になっているかにはいくつか説があるのですが、彼らを観察しているとこの仮説が腹落ちするような気がします。

木本:そういえば、相模湾の浜辺でシュモクザメが大量にいるから遊泳禁止というニュースが流れましたが、その判断は正しいのですか?


沼口:シュモクザメに関しては被害例がほとんどありません。1982年に熊本でサメによる死亡事故が報告され、シュモクザメの可能性があると報道されましたが、科学的にそれがシュモクザメであったという証拠は出ていないようです。シュモクザメは夏に伊豆や相模湾、駿河湾辺りを回遊しているので、たまたまその浜辺を通ったのではないでしょうか。

木本:でも映画のジョーズみたいで、ちょっと怖かった。海面からスーと現れたら、人間はどうしたらいいんですか。泳いでいたら、挑発しないよう、動きは止めたほうがいいんですか。

沼口:挑発はしないほうがいいですが、普通に通り過ぎると思いますよ。

木本:そこを聞いておかないと、パニック起こしてしまう! おぼれなくて済むのにおぼれてしまう。もし、触ろうとしたら怒りますか。

沼口:触ろうとして噛まれたという例があります。刺激は与えないほうがいいですね。5〜6mになるシュモクザメがいますが、相模湾に現れるのは1.5m程度で口も小さいので、万が一かまれても死ぬことはないと思いますよ。

木本:「人食いザメ」というイメージは払拭したほうがいいんですね。

沼口:はい。でも、大きなサメが現れたならば、安全ですとは専門家として言えません。ただちに海から上がるなど、相手は野生動物ですので、危険を避ける行動は必要でしょう。でも実際に死亡事故はほとんどないので、そこまで恐れなくてもいいと思います。

(構成:高杉公秀)