2018年のスーパーGTシリーズも折り返しを迎え、シーズン後半戦に突入した。8月4日、5日に静岡県の富士スピードウェイで行なわれた第5戦「富士500マイルレース」は、中嶋一貴/関口雄飛組のau TOM’S LC500(ナンバー36)が優勝。2位にはナンバー1の KeePer TOM’S LC500(平川亮/ニック・キャシディ)が入り、サーキットのすぐ近くに拠点を置くトムスがホームコースでワンツーフィニッシュを飾った。


レース後に抱き合う関口雄飛(左)と中嶋一貴(右)

 毎年8月上旬に開催される「真夏の富士ラウンド」はこれまで、300kmレースとして開催されていた。だが、今年はシリーズ最長距離となる500マイル(約800km)レースへと変貌。途中のピットストップは最低4回以上が必要となり、これまでとは違った耐久レースという要素も加わった。その新たなレースで優勝候補と言われていたのが36号車の中嶋/関口組だった。

 中嶋は6月にフランスで行なわれたル・マン24時間耐久レースでトヨタのマシンを駆り、初めて日本人が日本車で総合優勝を飾るという偉業を成し遂げた。今、もっとも脂の乗っている33歳だ。

 対して、相方の関口は2013年にGT500クラスにステップアップしてから、物怖じしないアグレッシブなドライビングで評価を高めている30歳。その腕が認められて、今シーズンはレクサス勢の名門チームである「トムス」への加入が決まった。

 そんなふたりのコンビ誕生に、開幕前から「活躍が楽しみ」「いつ勝ってもおかしくない」という目で周囲から見られることが多かった。だが、そんな期待がプレッシャーとなったのか、シーズン序盤は思わぬ苦戦を強いられた。その後は徐々に調子を上げてトップ争いに加わるパフォーマンスを発揮するものの、そこでも不運に見舞われ続けることになる。

 第3戦・鈴鹿では、レース序盤に他車に追突されコースオフしてしまい、一気に最後尾まで後退。普段はクールに振る舞うことの多い中嶋が、珍しく憤りを露わにしていた。

 続く第4戦・タイでは、予選10番手と後方からのスタートとなった。だが、着実に順位を上げて、残り10周を切ったところで2番手に浮上。関口が怒涛の追い上げを見せてトップの小林可夢偉(DENSO KOBELCO SARD LC500/ナンバー39)に迫る。流れは完全に関口のほうにあり、ゴール直前でトップ入れ替えかと思われた。だが、最終ラップに入ったところで、まさかのガス欠。ゴールまで残り半周というところでマシンを止めて終幕となった。

 そして「3度目の正直」で迎えた今回の第5戦・富士。だが、またしても彼らに不測の事態が発生する。予選3番手の36号車は序盤からトップ争いを展開して24周目に2番手となり、トップを走るMOTUL AUTECH GT-R(ナンバー23)に迫っていた。

 1回目のピットストップは、23号車が30周目に入ったのに対して、36号車はタイミングをずらして36周目にピットイン。それまでのペースを考えると、このピットストップで23号車を逆転し、トップに立てる計算だった。

 ところが。タイヤ交換に手間取ってしまい、約15秒のタイムロス。6番手に後退してしまった。

「メカニックも人間なので、ミスすることも絶対にあります。そこで怒っても時間を戻せるわけではないし、そこから精一杯追い上げようと、気持ちを切り替えました」(関口)

 この時点でレースは全体の5分の1が終わったばかり。36号車のふたりは、決して優勝をあきらめなかった。攻めの走りを見せ、116周目にはふたたび2番手まで返り咲いた。

 しかし、トップを走るカルソニックIMPUL GT-R(ナンバー12)との差は25秒。さすがに、この逆転は厳しいかと思われた。だが、ゴールまで34周というところで、なんと12号車にトラブルが発生してスローダウン。36号車がついにトップのポジションを手に入れる。

 ただ、これで36号車の優勝は安泰というわけではなかった。すぐ背後から1号車(ニック・キャシディ)が迫ってきていたからだ。残り10周を迎えるタイミングで、両者の差は2秒を切る大接戦。しかも、富士スピードウェイはブレーキへの負担が大きいコースだ。今回は500マイルの長距離戦なだけに、「最後までブレーキが保つのか」と、懸念の声もあがった。

「(一番ブレーキに負担がかかる)1コーナーでは少し余裕を持ってアクセルを離し、ブレーキの踏み方にも気を遣って、ブレーキの温度が上がりすぎないように心がけました。(ブレーキが)効かなくなったら、2、3周でダメになってしまう。残り10周あったから、早めに労わりながら走りました」(関口)

 本来なら、とことん攻め続けるのが関口の信条だ。だが、今回は確実にレースをモノにするために、冷静なドライブに徹した。そして177周――4時間40分にわたる激戦が終了。36号車は悲願の今季初優勝を飾った。

 第3戦・鈴鹿、そして第4戦・タイと悔しい思いをしている分、表彰台で喜びを爆発させるかと思った。だが、表彰台の中央に上がったふたりは、周囲の期待にやっと応えられたという安堵の表情を浮かべていた。中嶋はレース後、こう語る。

「自分たちとしては、勝たないといけないレースだと思っていました。ここで勝たないと今シーズン(のチャンピオン獲得のチャンスが)終わると言ってきたので、勝ててホッとしています。

 クルマのパフォーマンス的には、12号車と同じか、僕たちのほうがちょっといい感じでした。(GT300クラスとの混走など)クルマを抜いていく展開のなかで、ノーダメージで最後までもってこられた。そのおかげで最後、ちょっとご褒美がもらえたのかな」

 ドライバーズランキングでは、関口が40ポイントを獲得して2位へと浮上。チャンピオン争いに名乗りを挙げるポジションまで上がった。

 シーズン中盤の悪い流れを、36号車はここで断ち切ることができた。残り3戦、このコンビがさらに飛躍する可能性は十分にある。