鳩山由紀夫氏にも厳しい評価が下された(時事通信フォト)

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 9月の自民党総裁選は、総理・総裁の資質、政権運営の是非を問う重要な機会になる──はずだったが、党内は早くも安倍首相の3選確実のムードで、そうした議論はまるで盛り上がっていない。しかし、ついに在任期間歴代最長の総理となる安倍晋三首相の評価は先人たちと比べてどうなのか──本誌は政治記者・評論家・学者52人に実名アンケートで「戦後歴代最低の総理大臣」を調査。“失格総理”の顔ぶれと評価基準からは、「宰相に求められる資質」が浮かび上がってきた。

 アンケートはワースト3位まで選んでもらい、1位3ポイント、2位2ポイント、3位1ポイントとして集計した。その結果、「日本をダメにした10人の総理大臣」は以下の順となった。

1位:菅直人、2位:安倍晋三、3位:鳩山由紀夫、4位:宇野宗佑、5位:森喜朗、6位:麻生太郎、7位:小泉純一郎、8位:野田佳彦、9位:村山富市、10位:羽田孜。

◆「歴代最低総理」の理由

 総理大臣は在任期間が長いからといって「名宰相」とはいえない。総裁選に3選すれば歴代最長の総理10年が視野に入る安倍首相は、「歴代最低」の菅直人氏に僅差のワースト2位にランクインした。

 安倍首相のどこが「日本をダメにした」と評価されたのか。元文部官僚の寺脇研・京都造形芸術大学教授の指摘だ。

「三権分立を壊すという、とんでもない政治を行なっている。国会軽視、官僚は萎縮、そして政権に対するチェック機能を潰してきた。あげく、司法にも人事で介入する始末。第4の権力とも称されるマスコミにも、圧力を加えてナアナアの関係を築いた。つまり、戦後の立憲主義を破壊した」

 断わっておくが、本誌(2017年1月13・20日号)が実施した現役・OB政治家による「歴代最高の宰相」調査では、安倍首相は吉田茂、中曽根康弘、田中角栄という名だたる宰相に次ぐ4位に食い込んでおり、その評価は功罪相半ばしているといえる。

 それでも多くの識者が「最低の総理」と見る理由に挙げたのは、政策ではなく政治手法だった。安倍政権が人事権を濫用して民主政治家としての“禁じ手”を使っていることだ。元NHK経営委員長代行の上村達男・早稲田大学法学学術院教授が語る。

「私の専門である組織論の観点から指摘すれば、安倍政権は内閣法制局長官、NHK会長などへの人事に介入し、自民党がこれまで恣意的な人事権行使を自制することで保たれていた権力のチェック機能を壊した。安倍政権をチェックするシステムをなきものにすることで批判をできなくしたのは民主主義を破壊する行為といっていい」

 もうひとつは、森友・加計問題にみる行政ガバナンスの崩壊と政治の行き詰まりを招いたことだ。ノンフィクション作家の森功氏がいう。

「お友達・側近政治で官僚組織のモラルを崩壊させた。モリカケ問題で官僚の公文書改竄や虚偽答弁を招き、いまや与野党の国会議員も首相を忖度して異なる政策を打ち出せない。その結果、政界には次世代を担う政治家が育たず、日本の将来が見えなくなってしまった」

 政治家と官僚が国民ではなく上ばかり見るようになったら国の将来は暗い。

◆「総理に推したのは間違い」

 では、宰相にはどんな資質が求められるのだろうか。それを探るために、反面教師として他のワースト首相の顔ぶれを見ていこう。

 堂々の(?)ワースト1位は前述の通り、菅直人氏。問われているのは国民の命を守る「危機管理対応能力」だった。東日本大震災の際、菅首相は「俺は原子力の専門家だ」としゃしゃり出て指揮系統を混乱させ、あまつさえ事故直後の福島第一原発に飛び、国の最高責任者が官邸を留守にするという危機を自らつくりだした。

「ウルトラ警備隊の隊長気取りで、危機の中、自己満足の行動に終始した」(政治ジャーナリスト・安積明子氏)

 やることなすこと朝令暮改だった鳩山由紀夫氏の3位も予想通りである。

「政権交代に対する国民の期待を短期間で無残に打ち砕いた。この時の民主党政権へのトラウマが国民にはまだあるから、安倍政権や自民党がどんなバカをやっても支持率が下がらない」(岸博幸・慶応義塾大学大学院教授)

 政権交代可能な2大政党政治をぶち壊し、国民から政権の選択肢を奪ったことが最大の政治的責任だろう。

 自民党では、ワースト5位に森喜朗氏が登場する。

「小渕首相の急死によって密室の談合で選ばれた」(後房雄・名古屋大学大学院教授)と今も首相選出過程を疑問視され、その時の談合メンバーの1人、村上正邦・元労相も「総理に推したのは大間違いだった。神の国発言など空気が読めないし、辞めた後も恥知らずに大きな顔で五輪組織委員会会長をやっている」と突き放す。

 森氏に続く“失言王”麻生太郎氏(6位)は、「反知性主義が目に余る」(精神科医・香山リカ氏)と総理の品格が問題視され、7位の小泉純一郎氏は「聖域なき構造改革で格差社会を創り、貧富の格差を拡大させた」(上脇博之・神戸学院大学教授)と政策の結果責任を問われている。

◆「三角大福中」はなぜランク外か

 危機管理能力も品格も、総理には必要な資質だろう。しかし、「総理に不可欠の条件」はもっと他にある。最低総理に森氏、宇野宗佑氏、鈴木善幸氏を挙げた後教授の指摘だ。

「共通するのは、偶発的な緊急事態で本来は総理になるべきではなかった人が突然、総理に選ばれてしまったこと。それゆえ、資質も準備もなく、政権は大失敗になった。総理にならなかった方が政治家としての評価は保てたかもしれません」

 総理は1日にしては生まれない。かつての自民党では、総理になる前に十分な訓練を積んだ。

 ワースト10の多くは平成に入ってからの総理で、岸信介氏や佐藤栄作氏、田中氏はじめ「三角大福中」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の各氏)といわれた派閥政治全盛時代の総理はランク入りしていない。欠点がなかったわけではない。スキャンダルや国民の批判は今よりむしろ大きかった。

 岸氏は安保闘争のデモ隊に国会を十重二重に取り囲まれて退陣し、田中氏は刑事被告人となって金権政治を批判された。中曽根氏、竹下登氏、宮沢喜一氏らも数々の政治資金スキャンダルにまみれた。

“政界の暴れん坊”と呼ばれたハマコーこと故・浜田幸一氏は著書『日本をダメにした九人の政治家』の中で、中曽根、竹下、宮沢の3氏を名指しで批判している。

 だが、いずれの政治家も、毀誉褒貶はあっても、総理になるために研鑽を積み、権力の使い方を学びながら総理になる準備と覚悟をしたうえで就任した。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が語る。

「昔の自民党では、総理総裁候補と呼ばれる政治家は権力の怖さ、正しい使い方を身につけていた。それは総理大臣の権力は国民のためにあるもので、抑制的に使わなければならないということ。権力を私物化するような政治家は総理候補にしない良識があった」

 ランキング上位の顔ぶれを見ると、民主党の3人を含めて、総理になる準備、権力の正しい使い方を身につけていたとは思えない政治家が目立つ。安倍首相に決定的に足りない総理の資質もそこだ。東京新聞の望月衣塑子記者が語る。

「モリカケ疑惑では行政の不正は明らかなのに、安倍首相は何も調査しようとしない。つまり、国民に向き合おうとしないのです」

 自民党総裁選で問われているのは、「総理大臣の権力の使い方」であり、国民は自民党議員たちが総理の権力をチェックすることができるかを注目している。

※週刊ポスト2018年8月17・24日号