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「結婚は恋愛の墓場」というが、離婚の地獄に比べれば遥かにマシ。資産を半分失う覚悟があれば別れられると思ったら大間違い、稼ぎのある貴方は今後10年は、収入の半分を吸われ続ける!?

■「稼いでいるほう」に離婚費用はのしかかる

離婚にまつわる費用というと、まず「慰謝料」が頭に浮かぶ。芸能人やスポーツ選手など有名人が離婚すると、週刊誌やワイドショーはこぞって「慰謝料◯千万円」などと話題にするから、多くの国民は間違った情報に洗脳されてしまっている。

だが、実際に離婚を成立させるには、慰謝料など取るに足らぬと思わせるほどの、莫大な費用が発生する。そしてそれはどちらが離婚の原因を作ったかとは関係なく、問答無用に「稼いでいるほう」にのしかかる。

さらにタチの悪いことに、その費用を「受け取るほう」は、離婚をゴネて調停や裁判を長引かせるほどオイシイ思いができるという、(稼いでいるほうにとっては)悪魔のようなシステムなのだ。

このことを知らずにうっかり結婚してしまい、ほぼ全財産を失うことになった人を、私は何人も知っている。ビジネスパーソンのあなたは心して聞いてほしい。婚姻届に判を押すことは、借金の連帯保証人になるよりもはるかに恐ろしい契約なのだということを――。

■財産半分で済むと思ったら大間違い

まずは、離婚費用の項目について正しい知識を備えてほしい。世間には「預貯金とマンションを売っ払って半々にすれば離婚できるんでしょ」と考える人が多いが、認識が甘すぎる。

なお、本稿では夫が妻よりも収入の多い夫婦を想定しているが、妻のほうが夫より稼いでいる場合にはそのまま立場を逆転させて読み進めていただきたい。

■財産分与、結婚前からあった資産は対象外

さて、離婚費用に際して必要となる費用は慰謝料、財産分与、婚姻費用の3本柱だ。慰謝料は文字通り不貞を働くなど離婚の原因をつくったほうが支払う謝罪金だが、一般人ならせいぜい50万円ぐらい。どんなに高くても200万円ぐらいで決着する。

次に財産分与だが、これは婚姻届を出した日から得た財産はすべて半々にするというもの。どれだけ収入格差があろうとも、すべては夫婦が共同作業で作り上げた資産というわけだ。ということは、結婚前からあった資産は対象外。相続済みの資産家の息子やピークを過ぎたスポーツ選手と結婚しても(離婚という観点からは)“玉の輿”とは言えない。

そして、最後が婚姻費用。俗に「コンピ」とも呼ばれるこの費用こそが、あなたを破産に追い込む悪魔のコスト。これは「離婚が成立するまでは夫婦の関係が継続しているものとして、稼いでいるほうは相手側にそれまでと同等の生活レベルを保証する義務がある」というもの。

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離婚費用は慰謝料、財産分与、婚姻費用の3本柱
調停・訴訟が長引くほど婚姻費用が積み上がる!1 慰謝料
 精神的苦痛に対する損害賠償金で、離婚の原因を作ったほうが支払う費用。相場はだいたい決まっていて、浮気なら50万〜200万円。収入や資産の多少は関係ない。金持ちでも貧乏人でも、浮気は浮気なのだ。財産分与や婚姻費用に比べれば、大したことはない。
 週刊誌やワイドショーでは3本柱をひっくるめて「慰謝料」と呼んでいるようだが、誤解のなきよう。
2 財産分与
 結婚してから出来た資産は、すべて夫婦の共同作業によるもの。離婚が決まればきっちり半分ずつに分けなければならない。
 ということは、結婚前からある資産は財産分与の対象にあらず。米FaceBookのCEOマーク・ザッカーバーグは上場翌日に長年の恋人プリシラ・チャンと結婚したが、このエピソード1つとっても彼がどれだけクレバーな男かわかる!?
3 婚姻費用
 俗に「コンピ」とも言われる。正式に離婚が決まるまで、夫婦は互いにそれまでと同等の生活を、保証し合わなければならない。つまり、より多く稼いでいるほうが稼いでいないほうに不足分を払うことになり、収入格差が開いているほどその金額は大きくなる。
 たとえ妻が不貞を働き慰謝料を払うほうだとしても、離婚をゴネられれば簡単に婚姻費用でモトを取られてしまうのだ。

・養育費
 養育費は離婚成立以前は婚姻費用に含む。算出式では子どもの係数も決まっていて成人(夫婦)を100とし、14歳以下の子どもは55、15歳以上の子を90として計算する。離婚が成立すれば養育費だけを払い続けるが、算出式は変わって婚姻費用における養育費より減額となることが多い。

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■本当は怖い「別居」10年で払う費用は数千万

子どもがいない場合は双方の基礎収入(額面の収入から税金や必要経費を引いた金額)を合算して2で割った額が双方の婚姻費用となり、稼いでいるほうが不足分を支払う。妻が専業主婦なら夫の基礎収入の半分は持っていかれることになる。

そしてここがポイントだが、この婚姻費用は正式に離婚が成立するまで払い続けなければならない。妻が不貞を働いて一方的に家を飛び出していったとしても、である。さらに恐ろしいことに、離婚裁判というのは5年から下手をすれば10年くらいは長引かせることができてしまう。あなたはその間、ずっと婚姻費用を払い続けなければならないのだ。

夫がフーテンなら婚姻費用などそもそも発生しないし、してもバックレることができる。だが、きちんとした企業に勤務している正社員であれば、給与は相手方弁護士に簡単に差し押さえられてしまう。

別居が始まった時点で、あなたはもう婚姻費用から逃れられない。

■公式に当てはめて決まる婚姻費用

婚姻費用は別居直前までの生活水準を、双方が維持できるようにするもの。夫婦の収入が同額でない限りは、稼ぎの多いほうから少ないほうへ支払いが発生する(子どもの養育費は、同居する側の婚姻費用に按分される)。

婚姻費用を算出するベースとなる基礎収入は、額面収入から税金や必要経費を引いて残るお金だが、サラリーマンか自営業者かで違ってくる。また、子どもの養育費も14歳以下と15歳以上で係数が変わる。

昔は、実際にかかる額を裁判所が個別に調査して認定していたのだが、当然それに対して争いが起こって審理の長期化を招いていたので、あるときから一律の公式に当てはめて決める方法に改善された。

その結果、今ではネットで各条件を入力すれば、自分が月々いくらの婚姻費用を支払うことになるのかが簡単にわかるようになっている。

▼年収700万円だと離婚成立まで毎月14万円払うことに

婚姻費用がやっかいなのは、離婚が長引けば長引くほど、受け取るほうがオイシイ思いをすることだ。そのために裁判では(妻が間男と浮気をして勝手に出ていったのだとしても)「離婚はしたくない」という主張をして、引き伸ばしにかかる。

慰謝料も何とかしたいから、妻は夫が極悪非道の鬼畜男だった体にして「日常的に暴力を振るわれていた」「毎日罵声を浴びせられた」などと並べ立て「離婚原因はあちら側にある!」と展開する。証明はできないのだが、言ったもん勝ちだ。

そんなひどい夫ならさっさと離婚すればいいのに、婚姻費用を取り続けるために「それでも離婚はしたくない。やり直して夫婦関係を続けたい」と、頓珍漢な主張をするのだ。これは離婚裁判におけるテンプレともいえる基本戦術で、大抵の弁護士なら知っている。もはや“様式美”と言ってもいい。

結局、離婚成立までにどれくらいかかるのか。要は裁判所が裁定を下すか、相手が納得して離婚届に判子を押せばいいわけだ。フルに戦って高裁(2審)まで争えば、ゴネてる側に離婚の原因があったとしても5年、子どもがいれば10年くらいは軽くかかってしまう。

これを早めるには5〜10年分の婚姻費用(+慰謝料・財産分与)を提示して、和解に持ち込むしかない。星の数ほどもある判例から落としどころは見えているので、裁判官も弁護士も双方をそこに誘導しようとする。

多くのサラリーマンは全財産を軽く超える金額になるが、長引かせても奪われる金額は変わらないのだから、払うしかない。

■稼ぎがあるなら、事実婚で不都合なし

ここまででおわかりいただけたと思うが、離婚はどちらがその原因をつくったかに関係なく、稼いでいるほうが圧倒的に損をする理不尽な制度になっている。

事実、私の知人にも付き合っているときはラブラブだったのに結婚した途端に相手の態度が豹変し、離婚裁判を起こさざるをえなくなり、ほとんど身ぐるみを剥がされてしまった高所得者が何人もいる。

それでも男性は好きな彼女に「結婚してくれなきゃ別れる」と言われれば、結婚カードを切らざるをえない場合もあるかもしれない。だが、稼げる女性にとっては、もはや収入の少ない男と結婚する合理性はまるでない。

事実婚でも幸せな夫婦生活は送れるし、子どもを産み共に育てることもできる。遺産相続でも2013年に法律が変わり、婚外子(非嫡出子)でも平等に遺産相続権が認められるようになっている。むしろ、戸籍上は片親であるほうが、保育園の当選確率が上がるなどメリットは多いかもしれない。

キリスト教的価値観で夫婦の縛りが日本以上に厳しい欧州、フランスやイギリスなどでは、離婚が成立した後も元配偶者の生活の面倒を見なければならないほどだ。その反動で若者たちに結婚が敬遠されて、今や事実婚夫婦が過半数を占めるまでになっている。

「日本じゃ事実婚は受け入れられないよ」という人もいるが、そうだろうか? ほんの20年前まではタブー視されていた「できちゃった婚」がいまやすっかりメジャーになって、若い世代では過半数を占めている。事実婚も何かをきっかけに堰が切れれば、あっという間に認知されメジャーになると見ている。

若い人に言いたいのは、稼げているなら(あるいは将来稼げる自信があるなら)、結婚はしないほうがいいということ。どうしても結婚しなければならないのなら、せめてボーナスをもらった後にして財産分与の対象を少しでも減らそう。これくらいでは焼け石に水かもしれないが。

すでに結婚してしまっているなら――なるべく早く間違いを修正するか、離婚しないように努めるかの二択になる。

もし、あなたが後者を選ぶなら、日頃から婚姻費用以上のお金を渡しておくことも1つの手だ。離婚すれば奥さんの自由に使えるお金が減るとなれば、少なくとも相手が離婚騒動を引き起こす経済合理性は潰すことができるだろう。

▼婚姻に経済合理性なし? それでも結婚するなら時期を選ぶ

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藤沢数希(ふじさわ・かずき)
理論物理学研究者
外資系金融機関を経て、作家。メルマガ「金融日記」管理人。著書に『外資系金融の終わり──年収5000万円トレーダーの悩ましき日々』(ダイヤモンド社)ほか多数。近書『損する結婚 儲かる離婚』(新潮社)では世の離婚費用の現実を開陳して話題に。

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(理論物理学研究者 藤沢 数希 写真=PIXTA、iStock.com)