夏の甲子園100回大会の出場56校がすべて出揃った。大阪桐蔭や智弁和歌山など、おおむね”本命”に近い強豪校が居並んだように見えるが、およそ1カ月にわたる地方大会で、思わず「うわっ!」と声を上げてしまったことは、一度や二度ではない。「この選手を甲子園で見たかった」「全国のファンにこの選手だけは見てほしかった」という”逸材”たちの地方大会敗退を知ってしまった瞬間である。

 7月の高校野球は、実にむごい。連日、何十、何百というゲームが行なわれ、その試合の数だけチームが消えていく。3年生部員にとっては、それぞれの高校野球の幕引きをしなければならない。ルールとはいえ、高校球児たちがどうすることもできない”理不尽さ”を味わう季節なのかもしれない。


岡山大会準決勝で姿を消した倉敷商の引地秀一郎

 この春のセンバツや昨年の春夏など、一度でも甲子園の土を踏んだ選手たちは、まだ幸せ者だと思う。その一方で、磨き上げたスキルを全国のファンの前で一度も披露することなく、高校野球に別れを告げた球児たちの無念さはいかばかりか。

 惜しくも地方大会で敗れ、一度も甲子園にたどり着けなかった逸材たちを紹介したい。

 個人的な話で申し訳ないが、学生時代に捕手をやっていたこともあり、夏の甲子園の大きな楽しみが、「魅力的なキャッチャー」との出会いだ。

 昨年は、広陵の中村奨成(現・広島)を筆頭に、大阪桐蔭には福井章吾(現・慶応大)がいて、日大山形には舟生大地(ふにゅう・だいち/現・日本大)、神戸国際大付には猪田和希(現・JFE東日本)など、将来性のあるキャッチャーが揃っていたが、今年の出場校を見渡すと、昨年ほどではないように思える。

 そんな中、あと一歩のところで甲子園出場を果たせなかったのが、千葉・成田の田宮裕涼(ゆあ/175センチ72キロ/右投左打)だ。

 守れて、走れるという意味では、”中村奨成タイプ”といえる。サイズは中村よりもひと回りコンパクトだが、ホップするように見える二塁送球は強いだけでなく、ベース上にきっちり決められる精度の高さを持つ。50m6秒ちょっとの快足を持ち、正面のゴロでもあわや”内野安打”と、相手にとっては脅威だ。

 遊撃手では、高校ナンバーワンの呼び声が高い報徳学園の小園海斗が無事に甲子園出場を決めたが、「あのショートが出ていれば……」と思ったのが、横浜隼人の横瀬辰樹(180センチ、74キロ/右投右打)。

 全国的に知名度は高くないかもしれないが、思わず唸ってしまう打球への反応の速さと、捕球から送球までの美しい身のこなし。バッティングも、咄嗟(とっさ)のバットコントロールを効かせた実戦力の高さは、超高校級と言っても過言ではないだろう。

 もうひとり遊撃手で「これは!」と思った逸材が、市岐阜商の中神拓都(なかがみ・たくと/175センチ、83キロ/右投右打)。投手としても最速146キロを誇る剛腕で、低めに伸びるストレートは高校生には攻略困難。

 とはいえ、中神の最大の魅力は、圧倒的なスイングスピードから放たれる豪快なバッティング。あっという間にフェンスを越えていく打球は、「本当に高校生か」と思うほど、強烈である。

 長打力だけでなく、50mを5秒台で走る走力も兼ね備え、投手としても一級品。大阪桐蔭のドラフト上位候補、根尾昂(あきら)との”二刀流対決”が甲子園で実現していれば……と思うのは、私だけではないはずだ。

 左打者なら、水戸商の外野手・小林俊輔(175センチ80キロ/右投左打)を挙げたい。

 ギリギリまでボールを呼び込んでおいて、強引なまでにボールを持ち上げ、雄大な放物線を描きながらスタンドに放り込む、正真正銘のアーチスト。

 中神と小林のふたりに共通するのは、フルスイングが決して”無茶振り”ではないことだ。タイミングの始動を早めに取り、長くボールを見てから全身の連動で強く振り抜く、まさにお手本のようなスイング。

 ともに高校通算50本近くの本塁打を放っており、この先も強打者として育っていくに違いない。

 投手は挙げたい選手は何人もいるが、グッとこらえて3人に絞った。

 まずは、習志野の右腕・古谷拓郎(182センチ、78キロ/右投右打)。なんといってもフォームが美しい。「右のオーバーハンドなら、こんな風に投げてほしい」という無理のない投げ方で、球速は140キロ前後と驚くような数字が出るわけではないが、多くの打者が差し込まれる。おそらくストレートの質が高く、ベース付近で加速するイメージなのだろう。

 変化球も、スライダー、カーブはきちんとした球筋を持ち、フォーク、チェンジアップと抜いたボールも投げられる器用さも光る。バランスのよさは、間違いなく高校生トップクラスの右腕だ。

 古谷とは対照的に、”剛腕”なら倉敷商の引地秀一郎(187センチ、84キロ/右投右打)だ。

 昨年のいま頃、すでに150キロ近いストレートを投げていたが、当時はまだ投げてみないとわからないほど、調子に波があった。それがこの春から夏にかけて、コンスタントに実力を発揮するようになった。

 右腕がボールと一緒に飛んでくるのではないか、と思わせる猛烈な腕の振り。そこから放たれる剛球はもちろん、プロ顔負けのフォークも全国のファンに見てほしかった。

 最後は、西東京大会決勝まで勝ち進んだが、日大三の4番・大塚晃平にサヨナラ2ランを浴びた日大鶴ヶ丘のエース・勝又温史(あつし/180センチ、77キロ/右投左打)。

 一見、アーム式のように見えるが、豪快な腕の振りから、この夏150キロ台を連発。立ち上がりに不安はあるが、ここぞという場面でギアが入ったときのピッチングは別格だ。ストレートが来るとわかっていても、前に飛ばさせないスピードと球質は秀逸。

 それ以上に素晴らしいのが、捕手のサインに遠慮なく首を振り、自分でピッチングを組み立て、打者に向かっていこうとする姿勢だ。エースの矜持がほとばしる”面構え”も立派で、大舞台になればさらに力を発揮するタイプに見えた。だからこそ、甲子園のマウンドに立ったときにどんなピッチングを見せてくれたのか……残念でならない。

 甲子園出場の夢は果たせなかったが、3年間鍛え上げたスキルとフィジカルはこの次のステージで生きるに違いない。どこかの球場での再会を祈りたい。

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