ビジネススーツならいいけれど、それ以外の服は…?(撮影:梅谷秀司)

つい先日、採寸用ボディスーツ・ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)でオーダーしたTシャツとジーンズが届いた。注文してからきっかり3週間。正直なところ、あまり期待していなかった。というより、批判する気満々で待っていた。

ところがジーンズを履いてみると、予想外に体にフィットする。これが社長の前澤友作氏が発表会で言っていた「驚くほどの快適さ」の正体だったのか。

7月3日、筆者はスタートトゥデイが開いた「新生ZOZOビジョン」の発表会に参加し、前澤氏のプレゼンを聞いていた。イベント終わりに、出口でゲスト枠で呼ばれた知人女性たちと一緒になり、この発表会について、“熱い立ち話”が始まった。

ファッション系女子と起業家女子との視点の違い

ファッション系メディア女子が言う。

「私は、ファッション好きな方には必要ないかなって思いました。ビジネススーツのオーダーに慣れている方とか、就活用のスーツとかだったら、オーダーもいいのかもしれませんが、それ以外の服は……」

ファッション女子的には、このZOZOSUITのオーダーで服を作ることにあまり乗り気じゃない。どうも「サイズがぴったり合うこと=ファッションじゃない」というのがその理由のようだ。でも一方で、起業家女子は違った。

「『人が服に合わせる時代から、服が人に合わせる時代』ってすごいですよね。画期的!って思った。だってジーンズを探しに行ったら、すごく時間がかかる。自分のサイズを見つけるために試着室に行って何本も試すなんて苦痛。これって、最短時間で最適な答えに導いてくれる方法なんですね」

ファッション系女子と起業家女子とで、意見が分かれたのは面白かった。

多くの女性にとってファッションはある意味、ファンタジーである。「この服を着たらモテるかも」とか、「新しい服を買ったら、なんだか気分が上がった」とか。服は気分を作る道具でもある。たとえば3歳の子どもがディズニーランドに行くとき、『アナ雪』のエルサのドレスを着るだけでお姫様気分になれる。情緒とファッションは密接な関係を持っている。

それにしても、起業家女子の「これって最短、最適な服じゃないですか?」という話が引っかかった。

彼女に聞くと「そもそも似合う服ってなんだろう?と思うんです。スティーブ・ジョブズじゃないけど、黒のタートルネックと決めていれば、服を探したりする時間が短縮できる。私の周りでも服を選ぶことに疲れている女子っているんですよ」という。これはファッションの合理性でもある。そういうミレニアルズが出ているのか、と驚いた。

友人のデザイナーはZOZOSUITが出てきたときにこう話した。

「デザインでいちばん大切なのは、体のサイズからどれだけ余裕をとるか、腕や足の可動域をどうするか。そこにブランドのスタイルがある。そもそも最近はむしろビッグサイズがトレンドになっている。そうやって服のスタイルが作られるのに、ジャストサイズだけがファッションじゃない」

つまり、デザインこそがファッションであると。

ファッションはイコールサイズだけではない。時代によって肩をいからせたり、柔らかく添わせたり、ウエストを締め上げたり、または緩めたり、ミニにしたり、ロングにしたりとさまざまだ。

背景にはやはり時代が絡んでくる。女性を最初にコルセットから解放したココ・シャネルのように、シルエットが持つデザイン性は女性解放まで意味を含んでいた。デザインは女性の生き方まで変えてきたのだ。

それだけに無限に広がるデザインのバリエーションは、そのまま生き方のバリエーションとも思える。女性は服で何者にでもなれる。かつて女性たちにとって、新しさこそがファッションであり、それは流行=MODEと呼ばれた。

男性にとっては「サイズ」こそが重要

一方で多くの男性にとって、ファッションの原点は制服=CODEだ。スタイルが決まっているので、個体差は体型となり、サイズが着こなしの大きな要素となる。

友人の社会学者・古市憲寿は「ファッションって、結局スタイルがいいイケメンが着たらみんなかっこよくなるんじゃないですか?」と言っていた。

相変わらず炎上上等というような口振りだが、ある部分、これも真実だ。シャツ、ジャケット、パンツ。女性に比べてアイテムのバリエーションが少ない男性にとって、良い体型、つまりぜい肉の少ない引き締まったバランスのいい体格でサイズが合った服を着ることは服を着こなすために大切なファクターのひとつだ。

前澤氏は発表会のプレゼンの中で「自分自身、背が小さいことでファッションにコンプレックスがあった」と話したが、そうやって男性の服を考えていくと話がつながってくる。

彼は自分に合ったサイズがないことで「世間に認められていない」という気持ちを持ったという。パンツを履けば、裾を切らなくてはならない。シルエットが変わってしまう。そうなると試着が億劫(おっくう)になり、店に行きたくなくなった。でも服が好きだ。もっと一人ひとりに合った服ができないかと思った。サイズという課題を解決する、これがZOZOSUITを作る原動力になったという。

自分のリアルサイズを知ることはメンズファッションにとって重要なことだ。ある男子は ZOZOSUITの結果を、日ごろ鍛えている自分のボディラインをチェックするのに活用しているという。トライアスロンまでする彼にとって、自分の体型をアプリでビジュアル化して見ることはある種エクスタシーだ。ボディラインに自信のある彼に限らず、多くの男子にとって、自分の体を詳らかに見せられることはストレスにならないようだ。

一方、女性にとって、サイズは“最高機密”事項だ。

多くの日本女性がうなずくと思うが、女性には「9号信仰」「Mサイズ信仰」がある。自分のサイズは「標準である」という思い込みと希望だ。

よっぽどの人でないかぎり自分のスリーサイズを正確に把握していない。みんななんとなく「Mかな?」で済ませている。ルミネあたりにあるブランドの服もほとんどが「フリーサイズ」と呼ばれるワンサイズだったりする。たくさんのサイズを用意することはメーカー側の負担にもなるので、日本ブランドのサイズ展開はせいぜい「SML」の3サイズ止まりで、それも大半は「M」ということになっている。

世界では異色、日本女性の「Mサイズ信仰」

海外ではそんなことはない。身長172cmの私も日本では「でかいひと」であるが、海外に出れば「普通体型」と言われる。だから買える服が増えてうれしくなる。

アメリカでのデパートでは普通でも0から16までは優にそろえている。それが当たり前なのだ。ワンサイズしかない、なんて言ったら「差別だ!」となるからだ。

人種、性別と同様に海外ではサイズも“ダイバーシティ”(多様性)の時代だ。NYコレクションで「プラスサイズモデル」として有名なアシュリー・グラハムは身長176.5cm。スリーサイズは上から96・75・114cm。洋服のサイズは、日本でいうところの19号(5L)に相当する。その彼女が人気ブランド「マイケルコース」のショーでランウェーを歩く。有名グラビア雑誌の表紙に登場し、「世界でいちばんセクシーな体」と言われる。

日本の渡辺直美も自身で「PUNYUS」というビッグサイズブランドを発表。インスタグラムのフォロワーが800万人いる彼女は、『TIME』誌で「世界で最も影響力ある25人」に選ばれるほど、世界的にダイバーシティな存在として注目されている。


新生ZOZOのロゴマーク(撮影:梅谷秀司)

こうした「多様性」を、スタートトゥデイも意識している。今回のZOZO発表会の目玉のひとつでもあったのが、新しい社名とロゴ、そしてイメージムービーだった。

新生ZOZOのロゴには秘密がある。丸、三角、四角で構成されたそのロゴは、それぞれ色も形も違うが、その面積は一緒。つまり人種も肌の色も性別も体型も違っても、みんな一緒の人間なんだ、というメッセージだ。

前澤氏の言う「人が笑顔になる服」「人と人をつなぎ合わせるきっかけを作る」「笑顔から世界平和を目指す」という言葉。これは同社の「Be unique. Be equal.」という社是につながっている。

このZOZOSUITだが、今回「#ZOZO100k」と題して、世界72カ国に10万枚配布するという。この発表会も実は72カ国で同時配信されていた。途中、前澤氏は習い始めたばかりという英語でプレゼンをした。

会場には海外配信をする記者も来ていて、発表後「BOF」オンラインや「Racked」などの海外メディアが記事を配信していた。

ところが、いまいち海外からの反応はあまり見えてこない。おそらくこれから各国のインフルエンサーなどを仕込んだり、プロモーションにも力を入れることになると思うが、海外での可能性は今のところ未知数だ。

周囲の海外の友人に聞くと、あの水玉スーツには「面白い!」と反応がくるが、それでわざわざあの細かな作業をしてサイズを取ろうとは思わない、という。

なぜなら、先ほども書いたが海外ではサイズ展開が豊富であり、多くの人はサイズに困っていない。一方、本当にファッションが大好きなユーザーたちは、ブランドが出す限られたサイズを着こなせる体型になろうと努力する(たとえば、『プラダを着た悪魔』に登場するアシスタントのエミリーはアメリカのサンプルサイズ4が入らなくなったら人生終わりだ、と野菜しか食べない。こういう女性たちは多数、実在する)。

はたしてZOZOSUITは海外で成功するのか。

海外で先行する日本のアパレルといえば、ユニクロがいる。「LIFE WEAR」を掲げて、海外でも支持が広がっている。

昨今は、ユニクロUにデザイナー、クリストフ・ルメールを起用したり、今季は先日ボッテガ・ヴェネタを退任したトーマス・マイヤーとコラボしたり、もともとの機能に「ファッション」を持ち込もうとしている。今年、クリエーティブディレクターに元『POPEYE』編集長、木下孝浩氏を起用したのもその一環だ。

ファッションにITを持ち込み「サイズを最適化」「工業化」するゾゾ。かたや、大量生産の工業製品にファッションを持ち込もうとするユニクロ。まったく違うアプローチをする両者だが、数年後に大成功を収めているのははたしてどちらだろうか。

理論的には、無店舗で世界進出できるが…

すでに一定の成功を収めるユニクロに対し、ゾゾは大きく遅れているように見えるかもしれない。だが、ゾゾが進めるグローバル化のベースは、「スマホから工場直結」。店舗を出さずとも、海外進出が可能な形だ。

理論的には各国に支店も店舗もスタッフも置かずにグローバル化ができる。だからあの「72カ国で無料配布」というメッセージムービーが効いてくる。これもIoTが進んだ2010年代だからできる新しいグローバル企業の形だろう。

そして、今週ZOZOはPBに靴とブラジャーの開発を始める、と発表した。女性にとって一番サイズストレスの大きな2アイテムだ。
靴はD2Cで先行しているブランドもあるが、ブラジャーは女性性の繊細な部分でもある。その微妙な部分をテクノロジーでどう解決していくのか、そこもZOZO の力量が問われるだろう。

オーダーで作ったデニムはまだまだ改良の余地があると感じた。だが、自分用にカスタマイズされた最適な一本を、店舗を経由せずに買えるということの価値。これはもはやファッションという既存の軸で斬れるものではないのだろう。私たちは、日本発アパレルによるかつてない挑戦を、これから見ることになるのかもしれない。