「若手に活躍の場を。今度は自分が後輩を引き立てる番」――市川猿之助が慕われる理由

人気漫画『ONE PIECE』と歌舞伎のコラボレーション、スーパー歌舞伎II『ワンピース』。歌舞伎の伝統芸に加えて、CGやプロジェクションマッピングを効果的に使った斬新な演出を、次から次へと繰り出すスピーディーな展開と、見る者を圧倒する“エンターテインメント”な空間――その評判は瞬く間に口コミで広がり、原作ファンや歌舞伎ファンのみならず幅広い世代から支持を集めた。

そして、主人公は海賊から忍者へ。ライブドアニュースでは、この夏に上演される、新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』を特集。400年の伝統を受け継ぎながら、常に新しいものを生み出そうと奮闘する歌舞伎俳優たちにインタビューをおこなった。

第3回は、主人公うずまきナルトの敵役・うちはマダラ役の市川猿之助。スーパー歌舞伎II『ワンピース』では座頭をつとめ、漫画の歌舞伎化に挑戦した先駆者だ。常に歌舞伎界に新風を吹き込んできた彼が、今度は自分よりも若い俳優たちの挑戦を見守る立場になる。

撮影/熊谷仁男 取材・文/高橋彩子 制作/アンファン

「新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』」特集一覧

年の差を気にせず、誰もが自由な意見を言える場を作る

新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』の実現は、スーパー歌舞伎II『ワンピース』の成功なくしてはあり得なかったでしょう。改めて、成功の理由は何だったとお考えですか?
まず、関わっていた人みんなが同じ方向を向き、良いもの・面白いものを作ろうと意見を一致させていたこと。共演者はもちろん、良いスタッフが集結していたこと。そしてゆずが主題歌を書いてくれたことが、大きかったですね。
同じ方向で一致団結できたのはなぜでしょう?
みんなが『ワンピース』の世界を愛していたからではないでしょうか。
猿之助さんは座頭としてみんなをまとめていたわけですよね。
仮に僕という存在のもとでみんながまとまってくれたとしたら、それは僕が陣頭に立ってワンマンでごちゃごちゃ言わなかったからだと思います。脚本・演出の横内(謙介)さんとふたりで演出を名乗らせてはもらっていたけれど、すべてにおいて、あまり自分の考えを押しつけなかった。みんなからの意見に対して、その取捨選択をするのが僕の役割。なんでもかんでも自分でやらなくて良いと考えたんです。
2次元の漫画を3次元の舞台にするにあたって、どんな苦労がありましたか?
僕の苦労よりも、まずは脚本の横内さんが一番大変だったんじゃないでしょうか。演出は脚本を面白くしていくだけですが、脚本は何もないところから作らなければならない。僕はできてきたものを、盆栽のように剪定をした程度ですから。だから、今回の『NARUTO -ナルト-』では脚本もお書きになられた演出のG2さんが大変だと思いますよ。G2さんとは、以前に一度、『助太刀屋助六』という舞台でご一緒しているので、信頼しています。
漫画のビジュアルに近い部分も求められたかと思いますが、どこまでどうするという基準はどうなさったのでしょう?
僕らはコスプレ大会じゃないからね。たとえば、目が3つあるキャラクターは2つだとダメ、といった、この役は最低こうしなきゃいけないというお約束は守りましたが、それよりもどこを創意工夫するか、ですよね。
原作のファンが多い作品を歌舞伎化することのプレッシャーはなかったですか?
それは、舞台化にしろ映画化にしろ、原作があるものの宿命なので。気にはしつつもどこかで視野の外に置かないと、ものごとは前に進みませんから。
当初、原作は読まないとおっしゃっていましたね。
最初はね。これは僕の作り方ですが、はじめから読んでいたら、オタクっぽく細部に行ってしまう。観客全員が原作を読んでくる人ではないですからね。なのに細部を凝り出したら、原作を読んでいない人にはわからない
『ワンピース』の場合はほかのみんなが読んでいて、まったく原作を読んだことのない立場でも誰かがものを言わなくちゃいけないので、あえてそういう人を置こう、と。それが自分だった。読まないことで非難も受けましたけど、勝ちましたからね、勝てば官軍です(笑)
ただ、演出は原作をまったく知らないままではできないので、稽古中に読みましたよ。でも、『ワンピース』に詳しいみっくん(坂東巳之助)や(中村)隼人くん、(尾上)右近くんたちの意見を最大限に取り入れました。
『ワンピース』も今回の『NARUTO -ナルト-』も、巳之助さんや隼人さんはまさに「世代」なんですよね。
彼らの時代のものですからね。“博士”の意見を時代考証的に聞いてました。「この場面でこの言葉遣いはどう?」「ルフィとしてこういうことをやったらおかしい?」と聞くと、「のちのち、こうなりますからこれはおかしいです」「この場面はあまりふさわしくないと思います」と教えてくれる。
お年を召した先輩の俳優たちが若い俳優に聞くといった場面も生まれていました。だから良い空気になったんでしょうね。自由に意見が言える場でした
猿之助さんは、普段の歌舞伎でも、誰もが自由な意見が言える場作りを意識なさっているのでしょうか?
そうですね。互いに意見を言いづらくない雰囲気を作るようにはしています。楽屋に入りづらいような厳しさがある人もいますし、それは普段の、それぞれの役者としての居方ですよね。僕はあえて楽屋から出て交流するというようなことはしませんけれども、彼らはもっと深い意味でのとっつきやすさを感じてくれているんだと思います。何か言われたからって根に持たない、仕返ししない、パワハラしないので(笑)。

賛成意見もあれば反対意見も出る。それが世の中の道理

『ワンピース』初演の際、初日を迎えるまでのあいだに、どの段階で、成功しそうだと感じましたか?
成功を感じたのは、再演が決まったあたりではないでしょうか。やはり幕が開いてお客様の反応を見ないとわかりません。
歌舞伎界では、漫画やアニメを歌舞伎にするということに対しては、どんなリアクションがありましたか?
僕は一切そういうことは気にしません。無視(笑)。ものごとには絶対、プラスとマイナスの意見が出てくるもの。世の仕組みがそうなっているんです。たとえば、政治でも与党が何か言えば絶対、野党が反対する。それが世の中の道理だから。否定的な意見にウジウジしていても仕方ない。逆に、反対意見が出てこないほうが危ない。
歌舞伎には、変わらない部分が必要な一方で、変わっていかないといけない部分もあると、考えていらっしゃる?
そう思います。でも変わるのには勇気がいりますからね。誰かが矢面に立って傷だらけにならないと
猿之助さんは、矢面に立って傷だらけになる覚悟はありますか?
好んでなりたくはないけど、ならざるを得ないでしょうね。歌舞伎には古典も新作も両方必要ですから。どちらに特化していくかは、俳優の家の分担みたいなもので、澤瀉屋(おもだかや)は、企画開発担当(笑)。役者の基礎カリキュラムなので古典もやるけれど、スーパー歌舞伎もやる。古典をやると、自分の引き出し、武器が増えます。
『ワンピース』で言えば、僕には右近くんの若さがないぶん、若さを出す芝居の仕方や居方を、彼らより少し知っていました。巳之助くん、隼人くんも、これから古典をどんどんやっていくことで、さらに膨らんでいくでしょう。

若手には、自分にはできなかったことをやってほしい

『ワンピース』では、通常の公演のほか、若手俳優中心で演じる「麦わらの挑戦」バージョンを設定されました。若手に対して、引き立てていこうという気持ちがお強いのかなと感じるのですが、いかがでしょうか。
歌舞伎は60〜70歳でようやく一人前と言いますが、年を取れば良いというのでは、老いのヒガミのようにも聞こえます。若いときにだって良いところはある。でも、あいにくと活躍の場が少ない。どんなに良い素材でも、活かす場がなければはじまりません。それは惜しいことだから、少しでもそういう場を作れたらと考えています。
猿之助さんご自身も若い頃、引き立ててもらったご経験が?
今となっては、すべてがそうですね。大先輩の相手役をさせていただいたこともそうだし、蜷川(幸雄)さんの芝居に出させていただいたこともそうだし。ずいぶんと引き立ててもらった。だから今度は自分がより引き立てて、自分にはできなかったことをやってほしいとも思うんです。
今回の巳之助さん隼人さんもそうだと思いますが、やはり大きい舞台があると、それだけ成長しますよね。
ただ、成長もするけれど阻害になる場合もあります。ものごとには良い面も悪い面もある。客が入ったら、天狗になるに決まっています。人間には慢心というものがありますから。それは戒めていかないといけません。でも彼らももう、そんなことはわかっているでしょう。
猿之助さんからご覧になった、巳之助さん、隼人さんの魅力とは?
ふたりとも、良い作品を作ることに、良い意味で妥協しない。まっすぐだし、若さも輝きも情熱もあるし、日々、良くしていこうという考えもある。だからこそ、ふたりで主役ができるわけですよね。会社は慈善事業で興行を打つわけではないから、彼らが主役をやって客が入ると“見込まれた”ということ。彼らはそれに応えないといけません。
それぞれの、猿之助さんがお感じになる特質を教えてください。
似ているようで似ていないのですが、共通点がありますね。形は違うけれど、ふたりとも熱い。みっくんは瞬間湯沸器のよう。頭にポーンと来る人。隼人くんは繊細な部分もあるけど大胆な部分もある。細やかさにしても、言葉に出さない細やかさがみっくんだとしたら、言葉に出す、口に出してちゃんという細やかさが隼人にはあります。
彼らのような20代の俳優との世代間ギャップはいかがですか?
普段はついていけません(笑)。僕らの10年と彼らの10年では、時代のスピードも情報量も違う。昔の役者に比べて、個人の宣伝もうまいですよね。僕らの頃は新聞、雑誌しかなかったけれど、今は個人でお金をかけずにSNSだ何だって宣伝できるようになりました。そういうのを使いこなすのが上手です。これからは恐らく、そういうことができないと生きていけないでしょう。情報が死活問題で、取り残されたら終わりですから
そのあたり、猿之助さんご自身は、今後どうなさるのでしょう?
若い人に教えてもらっていますよ。このあいだも隼人くんにInstagramを設定してもらい、投稿の仕方を教わって開設しました(笑)。

ラスボスとして、ちゃんと“先輩ヅラ”できるように

ところで、昨年秋の『ワンピース』公演のカーテンコールでは、大きなケガをなさいました。ご自分のことでいっぱいいっぱいでもおかしくない状況の中で出されたコメントは、周囲への配慮に満ちたものでした。
やっぱり、主役をつとめる立場は、全体を考えないといけませんから。でもそれは、命にかかわるものではなかったからだと思いますよ。一歩間違えば命を失いそうなところでしたが、たとえば内臓の病気のような目に見えないものと違い、ケガは目に見えるもの。治り具合もわかるし、あとは治っていくだけ。あまりグジグジしないのは、僕の性格でしょうね。折れたものは治るだろう、という
その千穐楽のカーテンコールには、ケガをされた場所であるスッポン(※)から登場して話題になりました。
【編集部注】
※スッポン…歌舞伎の舞台機構。花道にある小さなセリ(昇降する床)。ここから登場するのは主に人間以外の役(妖怪・幽霊・動物の精など)という約束事がある。
そうすればお客さまも喜ぶでしょう。演出家は自分のマイナスも客受けの道具にしないといけないからね(笑)
途切れた場所から再び登場したことで、「ストーリーが完遂した」というふうに映りました。
僕は勘を大事にしているだけで、そこまで深く考えていません。作品とは別に、お客さまがそれぞれご自由にストーリーをお作りになるものなんだと思います。
ケガで休養されているあいだは、いろいろなことをじっくり考える時間があったのではないでしょうか。
当初は、僕が指示を出して、司令塔のようなことをやっていましたので、何かをじっくりと考えている余裕はありませんでしたね。
でも、すぐにみんながちゃんとやってくれていたので、よかったと思います。
今回は、巳之助さん、隼人さんの敵役、“うちはマダラ”となります。先ほどおっしゃったストーリーということで言うと、観客には、若い彼らに先輩が立ちはだかる、という物語にも見えるでしょう。
そういうふうに、みなさん重ねて見るからね。みっくん、隼人くんからは、うちはマダラはラスボスだと聞きました。とにかく強い、と。でも悪役は一番楽しいです。善人の役ほど面白くないものはないですからね。ちゃんと“先輩ヅラ”できるように頑張ります。
市川猿之助(いちかわ・えんのすけ)
東京都出身。O型。屋号:澤瀉屋。父は四代目市川段四郎。伯父は三代目市川猿之助(現・猿翁)、九代目市川中車(香川照之)は従兄弟。1983年歌舞伎座『御目見得太功記』で、二代目市川亀治郎を名乗り初舞台。2012年四代目市川猿之助を襲名。先代猿之助が築きあげたスーパー歌舞伎を新展開し、2014年、スーパー歌舞伎II『空ヲ刻ム者』上演、2015年〜2016年には、スーパー歌舞伎II『ワンピース』を上演し大成功。2017年〜2018年に再演も果たした。歌舞伎だけでなく映像分野や多ジャンルの舞台にも精力的に出演し、最近ではドラマ『ブラックペアン』(TBS系)に出演。

「新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』」特集一覧

出演作品

新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』
8月4日(土)〜27日(月)@新橋演舞場
原作:岸本斉史『NARUTO -ナルト-』 (集英社ジャンプコミックス刊)
脚本・演出:G2
出演:坂東巳之助(うずまきナルト)、中村隼人(うちはサスケ)、市川笑也(綱手)、市川笑三郎(大蛇丸)、中村梅丸(春野サクラ)、市瀬秀和(うちはイタチ)、嘉島典俊(はたけカカシ)、市川猿弥(自来也)/市川猿之助・片岡愛之助(うちはマダラ・交互出演)
【公式Twitter】@narutokabuki
©岸本斉史 スコット/集英社・『NARUTO-ナルト-』歌舞伎パートナーズ

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、市川猿之助さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年8月1日(水)18:00〜8月7日(火)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月8日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月8日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月11日(土・祝)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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