あの聖心女子初等科が"学童"を開いたワケ

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私立・国立小学校に子供を通わせるには、専業主婦でなければ難しい――。そう考えているとすれば、時代遅れだ。共働き家庭の増加にあわせて、名門校でも「学童保育」を設置するところが増えている。2016年には聖心女子学院初等科(東京・港区)が学童保育を導入した。その内容はどんなものなのか。特別リポートをお届けしよう――。

※本稿は、プレジデントFamily2018ムック「小学校受験大百科 2019完全保存版」の掲載記事を再編集したものです。

■なぜ、聖心女子学院初等部は「学童」を作ったのか?

「夏は受験の天王山」。そう言われるほど、夏休みは受験生にとって重要な時期だ。それは、大学や高校、中学だけでなく、私立・国立の「小学校受験」でも同じことだ。

受験予定の親子は、この時期、都内では10月から始まる願書提出(東京以外では9月提出の学校も多い)、11月からスタートする考査に向けて、夏期講習や模擬試験など最後の仕上げに取り組む。また、この時期は志望校を最終調整する最後のチャンス。なぜ、地元の公立小学校ではなく、あえて私立・国立小学校を選ぶのか。教育方針や環境、合格実績などに応じて、志望校を絞り込んでいく。

学校選びの基準として、最近、特に注目を集めているのが「学童保育」の有無だ。私立・国立小学校は平日の行事が多く、かつては「専業主婦でなければ難しい」という声もあった。また、学校側にも専業主婦家庭を前提とする姿勢がみられた。

だが、ここ数年は、共働き家庭の増加につれて、学童保育を備える学校も増えている。東京・恵比寿で小学校受験カウンセリングを行っている完全個別指導塾エルク代表の奥野孝子氏はこう話す。

「以前は、面接や願書で母親が働いていることを隠している家庭もありました。でも、今は、お母様が役職についているようなキャリアウーマンのご家庭でも、問題なく合格されるケースが増えています。『共働き家庭では小学校受験は難しいですか?』という質問を受けることもありますが、『ほとんどの小学校で問題ない』とお答えしています」

■「あのお嬢様学校が、なぜ」と驚く声

2016年には聖心女子学院初等科(東京・港区)が学童保育を導入したことがニュースとなった。美智子皇后の出身校として知られる名門校であり、「あのお嬢様学校が、なぜ」と驚く人もいた。

なぜ学童保育を設置することになったのか。またその内容とはどんなものなのか。大山江理子校長は次のように語る。

「社会の中で女子が求められる役割は、どんどん変化していますが、今の時代は仕事を持つのも、ひとつの生き方です。もともと本校の教育理念は“社会貢献をする女子を育てる”です。聖心の卒業生を見ていても、仕事を持ち、家庭を持ち、子育てもしてという方が多いので、そういった卒業生からすれば、母校に娘を送れないのはつまらないですよね。そういう意味で学童保育は必要と思っておりました」

■「子どもたちの放課後を救え!」のNPOが運営

きっかけとなったのは、「放課後NPOアフタースクール」との出会いだという。同スクールは「子どもたちの放課後を救え!」というミッションのもと、地域の人(「市民先生」と呼ばれている)が子供たちの活動をサポートする仕組みを提供している。

放課後の小学校を舞台にたくさんの“市民先生”と子どもたちが出会い、「社会全体で子どもを育てる」のが狙い。設立は2009年で、常勤と非常勤をあわせて220人のスタッフがいる。聖心の学童保育もこのNPOに運営委託をしている。

「私たちがサポートするのは、よりよい親子の関わりです。お稽古ごとはご家庭の力でなさるほうが、お子様のためにもより良いと考え、お稽古ごとはなるべく週末に、と申し上げております。やはり学童保育では、お友達との豊かな放課後を過ごすことを考えてあげたい。そういった理念がアフタースクールさんと一致しました。具体的な運営に関しては、学校の方針に合わせてやってくださっているので、安心してお願いできています」(大山校長)

■「ただいま」と帰ってくる聖心の子どもたち

聖心の学童保育「ジョアニークラブ」の利用時間は、午後6時半まで(土日祝日は閉室)。利用者は、働きながら子育てする家庭だけでなく、家族の介護をする家庭も想定しているという。

活動場所は、初等科のすぐそばにある元聖心女子専門学校の2部屋。授業を終えた子どもたちは、このうちの1部屋に「ただいま」と帰ってくる。ランドセルや衣服を片付けたら、宿題を持ってもうひとつの部屋へ。漢字や日記などの宿題を終えたら、荷物を置いた部屋に戻り、工作をしたり、パズルやおはじきを使ってゲームをしたり、友達同士で自由に過ごす。

任意参加の活動プログラムは月2回程度。子どもの興味や関心に合わせて、ジョア二―クラブのスタッフがプランを立てている。ふだんは、工作や手芸などが中心で、夏休みなど時間に余裕のある長期休暇は、遠足や料理など少し時間をかけた体験活動もある。

担当するスタッフには、卒業生や大学生など学校になんらかの関わりのある人が含まれている。そんなスタッフから学校側への細かい報告も、安心感を与えている。ジョアニークラブ責任者の石井眞由子さんは「学校というより家に近い感覚があります」と話す。

都会にありながら緑豊かで静かな聖心のキャンパスは、まさに聖心の創立者が子ども時代を過ごしたフランスの田舎町「ジョアニー」そのもの。

「ジョアニーはブドウ畑の広がる自然豊かな静かで穏やかな田舎。その町の名前にちなみ、ジョアニークラブと名づけました。ここは安心して遊べる場所がたくさんありますから、子どもたちも楽しいでしょうね」(大山校長)

■他の私立小学校の学童では、速読やバイオリンも

私立・国立小学校には、遠く離れた自宅から電車で通学する子も多い。帰宅後に習い事をするのは、時間的にも体力的にも負担が大きい。そこで学童保育で習い事ができる小学校も出てきている。

埼玉県・さいたま市のさとえ学園小学校の学童保育には、18種類の「講座」がある。人気なのは水泳、英語、速読、そろばん、書道。受講率は低学年ほど高く、小学1年生は、ほぼ100%。一人当たり平均2.1コマとっているという。

バイオリンや絵画、バレエなどなどの情操教育系を含め、講座のほとんどを教員が受け持っているのも特徴的だ。英才教育的な講座を受けた後、同校にはさらに「預かり保育」をする制度もあり(講座プログラムと預かり保育の2段構え)、忙しい共働き家庭には大変好評だという。

■50mプール、芝のサッカーグラウンドも使い放題

東京都・町田の玉川学園小学部は、学童保育を「延長教育プログラム=Extended School」と名づけ、レゴスクール、そろばん、英語、ゴルフといった講座と、「SH=Study Hall」と呼ばれる学習支援を行っている。

講師の大半は同校の卒業生や現役大学院生。英語やそろばんだけでなく、水泳、サッカー、ゴルフなどの運動系も人気だ。なんといっても魅力的なのは、幼稚園から大学まである広大なキャンパスすべてを使えることだ。水泳なら50mの屋内プール、ゴルフなら打ちっぱなしの練習場、サッカーも芝のグラウンドが使えるのは、玉川学園ならではの環境だろう。

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(フリーライター 池田 純子)