文科省調査では全国の小中学校の普通教室へのエアコン設置率は約49%にとどまる

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文科省調査では全国の小中学校の普通教室へのエアコン設置率は約49%にとどまる
今夏の猛暑は"災害級"だ。7月17日には、愛知県豊田市の市立小学校に通う小1男児が熱中症で犠牲になっている。

「その日、公園での30分程度の校外学習を終え、『疲れた』と異常を訴えた男児を担当教諭は教室で休ませましたが、体調が急変して20分後に意識不明に。その教室には扇風機しか設置されておらず、室温は35℃以上に達していました。これでは体調が悪化して当然です」(地元紙記者) 

事故当日の豊田市内の最高気温は37.3度で、高温注意報が発令されていた。だが、この小学校の教室にはエアコンが設置されていなかった。ちなみに、同市内の公立小中学校約100校のうち、生徒が日常的に授業を受ける普通教室にエアコンが設置されている学校はほぼないという。 

こうした実態は、豊田市の一件を受け全国各地の学校で表面化している。では、なぜエアコンを設置できないのか? 各自治体の事情を追ってみた。 

まずは"暑い町"とし有名な岐阜県多治見(たじみ)市。同市では7月23日に40.7度を観測するなど今夏も猛暑日が続いている。だが、市内にある小学校13校、中学校8校の普通教室へのエアコン設置率は0%だ。市内の小学校に通う生徒の母親がこう嘆く。

「子供がふらふらになりながら唇を紫色にして学校から帰宅することもありました。この町でも犠牲者が出てしまうんじゃないかと心配です」

だが、多治見市・教育総務課の担当者は苦しい胸の内をこう打ち明けるのだった。

「保護者の方からエアコン設置の要望は年々強まっています。ただ、財政的に厳しい。全小中学校の普通教室にエアコンを入れた場合の設置費用を試算した結果、総額16億円になることがわかりました。大型施設用の電圧変換機や室外機の設置など大がかりな工事が必要となり、施工費は莫大です。市の年間予算は350億円程度ですから、この財政負担はネックでありまして...」 

名古屋大学大学院の准教授で、『教育という病』(光文社新書)などの著書がある内田良氏は、「学校のエアコン設置を阻む最大の障壁が財政問題」と話す。

「まず、小中学校の教室にエアコンを導入するか否かは、学校の設置者、つまり市町村立なら市町村が決定します。ただ、行政の施策には常に"公平さ"が不可欠なので、市町村としては同一市内にエアコンがある学校とない学校が併存するという不公平な状況をつくるわけにはいかない。

そうなると、必然的に自治体内の学校の全教室に一斉にエアコンを導入することが求められる。すると、一度に数億から数十億単位の莫大な予算が必要になり、さらには毎年多額の電気代負担も生じる。多くの自治体がそこに尻込みするわけです」 

さらに別の問題もある。前出の多治見市の担当者がこう言う。

「小中学校のエアコン設置については文部科学省が設置費の3分の1を負担してくれる交付金制度がありますが、"申請しても採択されない"というのが実情です」 

この点については文部科学省に直接確認した。

「この交付金制度は空調設備の導入だけでなく、校舎の耐震化や和式トイレの洋式化や校内のバリアフリー化なども対象なのですが、交付金の予算自体が非常に厳しい状況にあるなか、優先順位をつけざるをえず、今年度は特に、小中学校へのエアコン設置に関する申請はどうしても後回しになってしまう状況です」 

ちなみに、市町村から上がってきたエアコン設置に関わる交付金申請のうち、文科省が今年度に採択したのは「0件」というから事態は深刻だ。

★『週刊プレイボーイ』33号「全国小中学校"エアコン格差"の県民事情!」より