日本が世界に誇る各界の“知のフロントランナー”を講師に迎え、未来の日本人たちに向けてアカデミックな授業をお届けするTOKYO FMの番組「未来授業」。東京慈恵会医科大学教授の嘉糠洋陸さんが番組に登場し、「蚊の針に隠された秘密」をテーマに、蚊が血を吸うときの驚きの仕組みについて教えていただきました。

嘉糠さんの専門は衛生動物学と寄生虫学。特にマラリアやジカ熱、デング熱などの感染源となる蚊の研究を長年続けており、研究室では万単位の蚊を飼育する、言わば蚊のスペシャリストです。

※写真はイメージです



前回の記事 https://tfm-plus.gsj.mobi/news/g939ChPjpc.htmlでは、蚊が人間を探知する3大要素と呼ばれる二酸化炭素やニオイ、熱(体温)をセンサーで感知して動物や人間に辿り着く驚きの能力を紹介しましたが、人間に近づいた後、一体どのようにして血を吸っているのでしょうか?

注射針のようなもので“ブスリ!”と刺すようなイメージをする人が大半だと思いますが、嘉糠さんは「そうではない!」と否定します。なんでも、蚊の針は非常に精巧にできていて「例えるならドリルのような構造」だと言います。
針の先端にはギザギザな刃が付いていて、これをドリルのように“ズドドドドドッ!”と出し入れし、皮膚を切り開いてから、血を吸う針を刺して血管を探り当てます。研究によると、針の先に味を感知するセンサーがあり、これが針を正確に血管に刺す役割を果たしているのだそう。つまり蚊は血の味が分かるというのだから驚きです。

嘉糠さん曰く、1匹あたり2mgぐらいの量で満腹になるらしく、途中で気付かれ追い払われたりすると、お腹が満たされていないため、もう一度同じ人に寄ったり、違う人を探したり満腹になるまで血を吸い続けるのだそうです。
吸血を終えた蚊はお腹がパンパンで、飛ぶときの動きがとても緩慢。蚊にしてみればお腹の中に自分の体重に近い血が入っているような状態なので、人に見付かると非常に危険。そのため、満腹になった蚊がまずやることと言えば、人間から逃げることだと嘉糠さんは話します。

少しでも早く自分の体を身軽にするために「壁などにへばりついて、血液の主成分である水分を頑張って体外に出すんです。言うならば尿のようなもの」だと嘉糠さん。よく観察すると、蚊のお尻の先から綺麗なピンク色の水がポタポタと出てくるのが分かるそうです。
嘉糠さんによると、この血の水分を抜く作業は蚊にとってとても大事なステップで、「血の水分を抜いて固めたあと、濃縮された血の成分をゆっくりと消化して栄養分として吸収します。そのほとんどを卵の生産のために使う」と説明しました。

さらに、嘉糠さんは蚊に刺されると何故かゆくなるのかについてもレクチャー。蚊の針でドリルのように皮膚を刺されるのは、言わば人間がケガをしているようなもの。本来、人間はそれを治そうと血液が固まるような働きをするわけですが、血が固まることは蚊にとって不利そのもの。そこで蚊は血を吸うと同時に、血が固まるプロセスを妨害する物質を含んだ唾液を分泌することで、血は固まることなくどんどん吸うことができるそう。「人間からすると、まったく関係のない物質(蚊の唾液)が体内に入ると防御応答が働いて抗体を作ってしまう。この抗体が一種のアレルギー反応のようなものを起こします。これが蚊に刺されたあとにかゆみをもたらす原因なんです」と教えてくれました。

【番組概要】
番組名:未来授業
放送日時:毎週月〜木曜19:52〜20:00
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/podcasts/future/