5月25日のフォーラムで開催されたイベント「CROSS LEAGUE TALK」では野球の枠を飛び越えて議論がされた(筆者撮影)

5月下旬、都心のある貸会議場は多くの来場者で熱気に包まれていた。この日、「パシフィックリーグマーケティング(PLM)」が「パ・リーグ キャリアフォーラム」を開催していた。

今年度パ・リーグのオフィシャルスポンサーである総合人材サービス・パーソル グループの転職サービス「DODA(デューダ)」とのコラボで実現した中途採用イベントだ。プロ野球だけでなく、サッカー・バスケ・卓球など、競技の枠を超えたスポーツ業界合同の初の試みだった。

イベントでは、『人と組織』をテーマにした3つのトークショーが開催され、立ち見が出るほどの盛況ぶり。

このうちの1つでは野球の枠を飛び越えて、日本ハム(野球)の森野貴史ゲストリレーション部長、川崎フロンターレ(サッカー)の井川宣之集客プロモーショングループ長、そして栃木ブレックス(バスケ)の藤本光正副社長が登壇し、チームの収益確保の課題や集客に向けた取り組みなどを話し合った。

スタジアムの客席数が収益の大きさを左右する現状や、ファンの心に響くアナログ的なマーケティング手法の重要性などが語られた。そしてトークショーの締め括りには、「スポーツ界を一緒に盛り上げる人材に来てほしい」と、スポーツ業界への転職を呼び掛ける発言もあった。

スポーツ業界の関連企業が名を連ねた

会場に出展していた団体は以下の通りだ。

パ・リーグ6球団(北海道日本ハムファイターズ、楽天野球団、西武ライオンズ、千葉ロッテマリーンズ、オリックス野球クラブ、福岡ソフトバンクホークス)、PLM、北海道ボールパーク(日本ハムと共同出展)、川崎フロンターレ、楽天ヴィッセル神戸、Tリーグ、Bリーグ、栃木ブレックス、横浜ビー・コルセアーズ、ワイズ・スポーツ(スポナビ)、コナミデジタルエンタテインメント

36歳男性(埼玉県さいたま市在住)は「14年間IT業界で働いてきたが、プロ野球の業界への転職の夢を持ち続けてきた」と明かす。

また、24歳女性(東京都大田区在住)は「学生時代に横浜スタジアムでアルバイトをしていた頃から、ずっとプロ野球業界に関心があった。転職サイトの情報でこのイベントを知って来た。今は運輸業界に身を置いているが、顧客満足を高めるという意味ではプロ野球と似ている面がある。各社の話をよく聞きたい」とまずは自分の条件に合いそうな球団を探したいと意向を語った。

今回のイベントでは、スポーツを盛り上げたいとの意欲をもつ求職者が多く集まった様子が伺えた。ブースを出展した西武ライオンズ経営企画部の光岡宏明部長も「もちろん直接採用につながればよいが、事業の拡大に伴い採用を強化しているので、ライオンズが中途採用を行っていることを多くの方々に知ってもらえる意義は大きい」と手応えを語る。

PLMが人材を獲得する狙い

なぜPLMはスポーツ業界を横断する合同中途採用イベントを開いたのか?

もちろんそれは、スポーツ業界を盛り上げる意欲をもつ優秀な人材を獲得することが重要だからだ。


出展したブースでは熱心に話を聞く人たちの姿が多かった(筆者撮影)

PLMは、パ・リーグ6球団の共同出資会社として2007年に設立された。

事業内容は、公式ライブ動画配信サービス「パ・リーグTV」やパ・リーグ6球団公式サイトの企画・運用・管理などの「ITサービス」をはじめとして、6球団が主催する試合のインターネット放映権販売や6球団共同プロモーションの企画・実施管理などの「マーケティングサービス」、「コンサルティングサービス」、「共同権利の協賛・ライセンスサービス」、そして「人材組織マネジメント事業」からなる。

つまり、PLMのミッションは、ファンに対するサービスの提供、ファン層の拡大、パ・リーグの振興にある。

パ・リーグの試合入場者数は、セ・リーグよりも少ない。2017年度の試合入場者数は、セ・リーグの約1402万人に対して、パ・リーグは約1111万人。セ・リーグの8割の水準にとどまっている。ファン層の拡大はPLMの最重要ミッションと言ってよい。

さらに、パ・リーグ全体としてチケット収入以外の収入源を確保する取り組みを進めている。球場に足を運ばないファンにもテレビやインターネットを通してパ・リーグの試合を観戦してもらうことで、テレビ局またはファンから対価を得ることが、セ・リーグよりも少ない入場料収入を補うことにつながる。実際、「パ・リーグTV」は7万人の会員数がおり、パ・リーグ各社が出資するPLMにとって大きな収益源となっている。


スポーツ界全体を盛り上げる採用イベントは今後も盛り上がるだろう(筆者撮影)

最終目標は、ファンの来場を促進し、パ・リーグ全体の活性化を実現することだ。そのためには、試合の前後にも楽しむことができる仕掛け作りなど各球団の努力も欠かせない。

たとえば、試合開始前後のグランド開放や、ファンイベントに留まらず、試合以外にも楽しめるレジャー施設やホテル、レストランなどを球場周辺に併設する「ボールパーク化」に向けた取り組みを各球団が進めている。

こうしたパ・リーグの活性化を実現するためには、優秀な人材を獲得することが不可欠だ。PLMの根岸友喜社長は、「プロ野球界はもとより、日本のスポーツ業界全体が更なる発展を遂げるために優秀な人材を獲得すべく、一致団結していきたい」と、パ・リーグのみならずスポーツ業界全体での人材獲得に向けた協働が重要との認識を示す。

優秀な人材の獲得が将来的な活性化につながる

日本のプロ野球は長らく、親会社となる運営会社が広告塔としての役割を期待して、球団が赤字を出した場合「広告費」の名目で補填してきた。赤字補填の持続性は運営会社の経営状況に左右される。事実、パ・リーグ球団のいくつかは身売りを経験し、幾度となく運営会社が代わってきた。

しかし、新規参入した楽天などは健全な球団経営に向けて積極的な施策を次々と打ち出し、入場者数を増やすなど、球団経営に新しい風を吹き込んだ。長らく人気のセ・リーグ、実力のパ・リーグと言われ、セ・リーグよりも入場者数が少ないパ・リーグであったが、ファン拡大に向けた積極策を打ち出し続けることで、入場者数を伸ばす余地はまだまだ大きいはずだ。

PLMの根岸友喜社長は「我々はどのようにお客様に喜んでいただけるかを常に考えている。野球の新しい楽しみ方はもちろんのこと、球場での新しい体験、インターネットでの新しい体験など、時代の環境変化に合わせた新しい価値をお客様へ提供し続けたい」とパ・リーグのさらなる活性化に向けた意気込みを語った。

優秀なスポーツ経営人材の獲得が球団経営の変革とともに、ファン拡大、ひいては入場者数増加といったパ・リーグ活性化のカギを握ることは間違いない。PLMの挑戦に、大きな期待がかかっている。