東京の至るところで目撃される、婚活モンスター。

他をも圧倒するほどのこだわり。

時としてそれは、人をモンスターに仕立て上げる。

結婚へのこだわりが強いばかりに、モンスターと化してしまう、婚活中の女たち。

あなたのまわりにも、こんなモンスターがいないだろうか…?

前回は、「4K」という高すぎる条件を男に求めるモンスターを紹介した。さて、今週は?




「百合ちゃん、今日は誘ってくれてありがとう。こうやって二人きりでゆっくり話すのって、久しぶりだよね」

『ロテスリーレカン』でのランチを楽しみながら、美織はにっこりと微笑んだ。

美織と百合は、青山学院大学時代の同級生で、ともに29歳。

卒業してからはすっかり疎遠となっていたが、共通の友人の誕生日パーティーでバッタリと再会したのはつい先日のこと。それ以来、こうして再び連絡を取り合うようになっていた。

「私も、美織ちゃんとこうやってまた会えるの嬉しい!卒業後も遊んでた友達は、半分が結婚しちゃって…最近は全然集まらなくなっちゃって。美織ちゃんも独身なんだよね?」

美織が「そうだよ」と答えると、百合は少しホッとしたような表情を浮かべ、尋ねた。

「…そっか。ちなみに、彼氏はいるの?」

「ううん、前の彼と別れたばかりなの。私、人見知りだからお食事会とかも苦手で、出会いも全然ないし…。百合ちゃんは?彼、いるの?」

すると百合はテーブルに身を乗り出して、瞳をきらきらと輝かせる。

「私も今は、いないの!!お食事会だったらさ、私、毎週のように案件あるから。よかったら一緒に行こうよ!美織ちゃんみたいに顔も可愛くて中身も癒し系の女子連れて行ったら、男性陣も大喜びだよ!」

美織は、百合の勢いに押され、思わずコクコクと頷いていた。

その間にも百合はスマホを掴み、誰かにすばやくLINEを送っている。

「じゃあ、早速来週ね。慶應卒の男の子たちに食事会しようって声かけるから、一緒に行こう。美織ちゃんなら絶対モテモテだよ!」

-食事会は苦手だけど…私も29歳だし、そろそろ結婚のことも考えなくちゃ。このままノンビリしてちゃマズイ気もするし…。

こうして美織は、生まれて初めての“婚活”をスタートさせることになった。

ところが、そんな美織を、とんでもない罠が待ち受けていたのである-。


婚活を決意した美織を待ち受ける、恐ろしい罠とは…?


美織はこれまで順調にモテてきた。派手な恋愛遍歴はないが、つい最近彼氏と別れるまでは特に男性に困ったことがない。

そしてそれは食事会という舞台でも同様で、百合の予告どおり、確かに美織は男性陣にチヤホヤされた。

「へえー、美織ちゃんは、秘書さんなんだね!美人で品があって、確かに秘書って感じ!」
「美織ちゃん、下から青学だったんだ?どうりでお嬢様っぽい雰囲気だと思った!」

短所である“人見知り”からくる引っ込み思案な性格も、遊び慣れている男たちには新鮮に映ったようである。

-でもなんか、みんな軽そうだなあ…。さっきからやたらと距離も近いし…。

しかし、チャラチャラとした慶應男たちに混ざって、一人だけ寡黙で真面目そうな男がいた。メガバンク勤めで、美織と同い歳の29歳だ。何度かその男と目があい、その都度、彼ははにかんだように小さく笑う。

結局その日は、みんなでグループLINEを作って連絡先を共有し、お開きとなった。






「百合ちゃん、今日はありがとう。楽しかったよ」

帰りの日比谷線で、美織は百合と二人きりになった。

「美織ちゃんが楽しんでくれたなら、良かった!今日の男性陣、どうだった?私がいいと思ったのはね…」

そこまで言いかけた百合が、美織が手に持っているスマホの画面を急に覗き込んでくる。

「美織ちゃん、今、誰かからLINE来たみたいだよ?」

「…え?ほんとだ。あっ…」

百合に促されてスマホ画面に浮かんだポップアップ通知を見ると、さっきの食事会にいたメガバンクの男からの個別メッセージのようだ。

『美織ちゃん、今日はありがとうございました!良かったら今度二人で食事に行きませんか?』

「美織ちゃん、誰からだった?」

百合に尋ねられ、はっと我にかえる。美織が少し照れながら、メガバンク男の名前を伝えると、間髪を入れずに百合はこう言ったのだった。

「ああ、あの人かあ…!美織ちゃんとは、合わなそうだよね!食事会中も、他の男性陣が一生懸命盛り上げてたのに、彼だけはずっと黙ってたし…。話も全然面白くなくて、“で、オチは?”ってつっこみそうになったよね」

ぽかんとする美織に向かって、百合はさらに続ける。

「美織ちゃんはただでさえ大人しいし、普段も“聞き役”って感じじゃない?だから選ぶ男性は、会話をリードしてくれる人が絶対あうと思うんだ」

「そうかなあ…?でも私、今まで付き合ったことある人も、真面目で寡黙なタイプが多かったし…」

「まさか美織ちゃん、メガバンクの彼あんなにイケてなかったのに、ちょっといいかもって思っちゃってた?美織ちゃんはやっぱりお食事会慣れしてないなあ。よし、まずはもっと場数を踏んで、見る目を養わないとね!来週のお食事会も一緒に行こうね!」

結局、百合の勢いに押し切られるようなかたちで、美織はただ「そ、そうだね」と答えることしかできなかった。


百合に不信感を抱き始める美織。どうやら百合は、恐ろしい婚活モンスターだった!?


それからも、百合は頻繁に連絡をよこしては、食事会へと誘ってきた。

「美織ちゃんみたいな美人が来てくれると、幹事の私としても鼻が高いなあ♡」
「次回はドクターとの食事会だよ。美織ちゃんみたいに可愛い子なら、ドクターたちもメロメロだろうなあ!」

百合は相変わらず、こうして美織を持ち上げてくる。

婚活をしようと一度は決意したものの、美織は相変わらず食事会という場の雰囲気は好きになれずにいた。でも百合から「独身同士力を合わせて、結婚に向けて頑張ろうね!」と力強く言われると、どうも断れなくなってしまうのだ。

しかし、美織が百合に対して不信感を抱き始めるのに、そう時間はかからなかった。



『美織ちゃん。先日のドクターとの食事会、どうだった?あれから誰かと連絡とってる?』

『うん。あの中にいた佐伯さんっていう人と、来週食事に行くことになったよ!』

何気なく返したLINE。しかし、百合からの返信を見て、美織は思わず目を見開く。

『でも、佐伯さんって勤務医だよ??美織ちゃん、いくらお医者様でも、勤務医の年収じゃ美織ちゃんみたいなお嬢様には全然足りないと思うよ!美織ちゃんは、美織ちゃんのお父さんレベルの稼ぎの男の人じゃないと!』

しかし、そもそもその食事会に参加していた医師たちは、全員勤務医だ。だったらなぜはじめから、その食事会に美織を誘ったのだろうか。

それに何より、美織は全くそのことを気にしていないのだからいいではないか。

そう思った美織は、百合には黙ってそのまま佐伯とデートすることにしたのだがー。




「美織ちゃん、また良かったらこうして二人で会ってもらえないかな?」

佐伯と会った日、別れ際にそう言われて美織は笑顔で頷く。ところが佐伯は続けてこんなことを打ち明けたのだ。

「実はさ、昨日百合ちゃんから連絡もらって、二人で食事したいって誘われたんだ。忙しいって理由で一度やんわり断ったんだけど、今日もまた何度もLINEが来てて…」

困ったような顔で話す佐伯を見つめながら、美織は返す言葉が見つからなかった。



一方、百合はスマホ画面をニンマリと見つめていた。

-そろそろ、来る頃かな・・・?

百合が待ち続けているのは、佐伯からの返信だ。

-美織はボンヤリしてて自分の意思がない子だから、私の忠告を鵜呑みにして、佐伯さんからのお誘いを断ったに決まってる。美織にフられた佐伯さんから、そろそろ私に連絡が来るはず…♡

百合は、決して美織を嫌っているわけでも憎んでいるわけでもない。美織は可愛くて良い子だし、彼女には幸せになってほしいと、本心から思っている。

-でも、幸せになるのは、私より後でね。

百合はにやりと微笑むのだった。

しかしその頃、女友達のあいだでは百合の悪評が出回っていた。「友達の気に入った男を批判しておいて、自分がその男をちゃっかり頂く」という行動を、百合はあちらこちらで、しでかしていたからだ。

“おこぼれ頂きモンスター”と囁かれる百合が、今後、彼女たちから距離を置かれ、食事会に出禁を食らう日はそう遠くはないのであった。

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どんなに体調が悪くても、這ってでも食事会に参加するモンスターが登場。