ホームステイが成功するかのカギは、ホストファミリーとのコミュニケーションにかかっている(写真:Wavebreakmedia/iStock)

「ねえ、『Oh, my God!』ってどういう意味?」。1カ間のアメリカでのホームステイから帰国した中学校1年生のY君が質問してきました。「友だちになった子たちとよく言って、笑ってたんだ〜」と彼はどこか誇らしげです。「へえ、まさに生の英語を覚えてきたんだね。使っていた場面のまま覚えていたらいいのでは」と答えると、彼は笑顔を返してきました。親元から離れて異文化のなかで1カ月間生活し、新しい人間関係を作り、友だちができ、充実した日々を送った彼は自信がついたのでしょう。

近頃では、小学生、中学生、高校生が英語圏での海外ホームステイに参加するのは珍しくありません。ホームステイは、それまで身に付けてきた英語を実践の場で使ってみる絶好のチャンスであり、トライアルでもあります。しかし、その場がチャンスになるのか、あるいは無駄な時間になってしまうのかは、ホームステイに対する姿勢や前準備などで変わってくるのも事実です。

コミュニケーションする姿勢が重要

ホームステイに参加する最大の目的の1つは、英語力アップでしょう。実際、ホームステイではまず英語を「聞く」機会は当然ながら多々あります。人とのコミュニケーションではまず相手の言っていることに耳を傾ける必要がありますが、ホームステイでは生活に関して教えてもらうことがたくさんあるので、向こうでの生活はまず「聞く」ことから始まるわけです。

生の英語は学校で聞く音声教材とは早さやアクセントが異なるでしょう。なまりや独特のアクセントがあれば、それに慣れるにも時間が必要です。数日して相手の言うことが聞き取れるようになると、受け答えができるようになります。最初は単語で返すことが精いっぱいかもしれません。ただ、子どもはネーティブが話す英語をまねして使ってみようとするので、スラングも含めてネーティブが実際に使っている「生きた英語」を徐々に身に付けていくのです。

実際、Y君は友人が使っていた「Oh, my God!」をまねて、使ってみて、みんなと共有することによって自分の言葉にしました。たとえ意味が明確にわからなくても、使い方は間違っていなかったのです。その言葉を使って人と十分にコミュニケーションすることができたのです。

こうした生きた英語を身に付けるには、コミュニケーション、とりわけホストファミリーとの密なコミュニケーションが重要となります。言い換えれば、ホストファミリーとコミュニケーションする姿勢がなければ、英語を学んだり、話したりすることはできません。ホストファミリーとのコミュニケーションを通じて、家族の一員になり、その生活の中で学ぶことがホームステイの重要なポイントです。

名古屋から参加した中学校1年生のHさんは、ホストファミリーが話している会話を一生懸命に聞こうと、話の輪の中に加わる努力をしたと言います。家族の会話は固有名詞も多く、速くてHさんにはわからなかったでしょうに、わかろうとして必死に耳を傾けていました。すると途中、Hさんが理解していないと気づいたホストマザーは、彼女がわかるようにゆっくりと説明してくれたといいます。

日本に戻ってきたHさんが英語でコミュニケーションする様子を見てみると、単語をふんだんに使っていて、顔の表情も生き生き。ボディランゲージも多用していました。その様子からは、自分が言いたいことはなんとしても伝えようとする態度が伝わってきます。それがホストファミリーにも通じていたのです。ホストファミリーも積極的にHさんとコミュニケーションしようと、会話も進みます。Hさんの英語の力もどんどんついていきました。

ホストファミリーに受け入れてもらうには

一方、中学校2年生のKさんは、ホストファミリーになかなか溶け込めずにいました。「私がやりたいことを理解してもらえない。ホストファミリーが言ってくるのは私がしたくないことばかり」と、いまにも泣きそう。どうやら彼女とホストファミリーの間には誤解がいくつかあり、Kさんはホストファミリーに対して心を開けなくなってしまったようでした。

一つひとつの誤解を解いていくと、「な〜んだ」と涙は消えてすっきりした様子。ホストファミリーにもわだかまりが残った様子でしたので、そちらにも説明をして納得してもらいました。誤解が起きたとはいえ、コミュニケーションする態度がないとホストファミリーにも受け入れられませんから、居場所がなくなってしまい楽しく日々を過ごせません。

ホームステイに参加する理由はそれぞれです。「海外の家庭生活を経験してみたい」「実際に英語を使ってみたい」「アメリカで本場の野球を見てみたい」などなど、子どもの動機は多岐にわたります。海外に留学したり、海外で仕事をしたりすることを望む日本の若者が減りつつある中、海外の生活を経験してみたいと思う10代は、頼もしいかぎりです。

しかし、参加する子どもの中には、「親に行けと言われたから」「親が勝手に申し込んだ」などと、自分の意思で申し込んだのではないケースがあるのも事実です。本人の意思に関係なく、保護者が申し込んだというわけです。

野球少年の中学校1年生、S君もそうでした。ホームステイを始めてから5日後、彼のホストマザーが「何も話さないし、家族と何もしようとしない」と困った様子で引率者に連絡してきました。話を聞いてみると、「僕は来たくなかった。部活の夏練習に行きたかったのに、親が行けと言うから来た」とのこと。これでは英語を話すどころではありません。ホームステイを楽しもうとする意思はなく、ホストファミリーに対しても背中を向けるありさまで、S君はもとよりホストファミリーがお手上げ状態。「もう帰ってもらいたい」と、断られてしまいました。

日常生活で、人への興味を持てない子どもはホームステイへの参加は難しいでしょう。自分から人に話しかけない、人と目を合わせない、ゲームばかりして人とかかわらない、同じ世代の仲間とは話せるけれど大人とは話ができない――。このような子どもは今の日本では珍しくありませんが、このような人はホームステイには向いていません。

ホームステイで学ぶのは英語だけではない

現地のホストファミリーは、日本の子どものために存在するのではありません。ホストファミリーも、その子を受入れることを楽しいと思えないと、一緒に生活するのは厳しいでしょう。それは反対の立場になって考えてみればよく理解できます。

ホームステイで学ぶことは何も英語だけではありません。生活を通じて異文化を知るチャンスです。生活様式、食生活、時間の使い方、家族・人間関係、自然、気候、宗教など、日常とは異なるものに出会いますが、それらを受け入れる柔軟な態度が求められます。

「アメリカの家庭では、Bathroom(トイレ)のドアは人が入っていないときは開けていた。最初は嫌だったけれど、しばらくすると我慢できるようになって、いつの間にか自分も開け放していた」。笑いながら報告してくれた中学校2年生のO君は、日本に帰ってもしばらくは、家のトイレのドアを開けっ放しにしていたそうです。

「寝るときには『I love you!』と親子で言い合っていたのには驚いた。私は父親に『I love you!』なんて絶対に言わない! けれども『I love you!』はすてきな言葉だから、帰ったら家族に言ってみようと思う」と話していたのは中学校1年生のMさんです。

ところでアメリカではよく選択を迫られます。人の家を訪れると「What would you like to drink?(何飲みたい?)」と尋ねられ、レストランでの食事にサラダがついてくると「What kind of dressing do you like?(どのドレッシングがいいですか?)」と多くの種類の中からドレッシングの選択を迫られ、日が長いので夕飯が終わると「What do you want to do tonight?(これから何したい?)」と聞かれます。

日本では「(あなたと)同じでいい」と、他人と同調することが多々あります。レストランのドレッシングを選ぶことなどあまりありません。けれども、アメリカなどではそれは通じません。いつでも同調していると「自分で判断する能力がない」と思われてしまうのです。

ホームステイは子どもの自立の一歩

こうして、子どもが初めての体験をしているときに、よくないのは日本にいる親が電話やメールで連絡を取ることです。せっかく子どもが頑張ろうとしているのに、後ろから引っ張るようなものです。「かわいい子には旅をさせよ」とは昔からのことわざですが、インターネットなどの通信が発達した現代でも、子育てには必要不可欠な心掛けです。

ホームステイは単なる旅行ではありません。子どもの自立の一歩でもあります。相手の家庭に入って、自分で判断して行動し、相手に迷惑をかけないようにできるだろうか。親も子どもを信じて待てるだろうか。参加するまでに準備したいポイントです。

子どもを大きく成長させるホームステイですが、大切なのは日本語が話せる人が近くにいない環境と、ある程度の期間です。近くに日本語が話せる人がいると、恥ずかしくて英語が話せなかったり、思い切った行動をとれなかったり、なかなか自分の力を発揮することができません。2、3人で1軒の家にホームステイすれば、当然日本語を話してしまうでしょう。せっかくホームステイに行ったのに日本語を話していたのでは意味がありません。

また子どもの場合、英語や生活に慣れるのに時間が必要です。1週間では相手の英語を聞き取れるようになるのに精いっぱいで、自ら英語を発するまでには至らないようです。また異文化の壁にぶち当たったときに、それを自らの力で乗り越える時間も必要です。

子ども、そして受け入れたホストファミリーが、満足ができるホームステイを実現するには、事前にプログラムの中身を吟味して選ぶなど、準備が欠かせません。準備が終わったら後は、心を開いてファミリーの一員になるべく奮闘するだけ! 子どもを信じて背中を押してあげてください。