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東京大学の調査によると、東大生の親の6割以上が世帯年収が950万円以上。収入の少ない家庭が、子どもを東大に行かせるのは不可能なのか。プレジデント編集部では年収250万円の家庭から「東大」に進学した大手IT企業の男性社員に話を聞き、通常とは違う“意外な進学ルート”を取材した。「プレジデント」(2018年8月13日号)の特集「年収400万父さんの極上家計簿」より、記事の一部をお届けしよう――。

■高専→九大→東大院、内申点で勝負に!

小平幸雄さん(仮名)は九州南部の母子家庭で育った。母は体が弱く、一緒に住む祖母の清掃パートの仕事などで家族は生計を立てていた。世帯年収は250万円ほど。住んでいた古いアパートでは、夏はムカデが部屋の中を這い、冬は水道管が凍結したという。

子どものころ、塾に行くことはできなかった。小平さんは「正直、周りの同級生のことが羨ましいな……とは思っていました」と振り返る。

しかしそれでも、小平さんは通っていた中学校では成績上位にいた。そんな彼が選んだのは地域で一番の進学校ではなく、高等専門学校(高専)。

高専入学前から卒業後は就職せず、大学への編入を目論んでいた。「一般入試よりも編入で入るほうが倍率が低くなる大学が多いことは、当時からなんとなく知っていました」と話す。

高専を選んだ理由はもう1つあった。中学校時代同様、高専でも塾に通うことはできない。しかし、編入試験であれば一般入試よりも専門知識を求められる。だからこそ、塾の勉強ではなく、高専での専門的な勉強がそのまま試験に役立つ、とも考えた。

小平さんは高専で「電気」について深く学んでおり、その研究を続けられる大学に入ろうと思っていた。ただ、大学に入学するにしても、家庭環境を考えると学費の一部を免除してもらうような成績で合格する必要があった。

そこで小平さんは日々の勉強のほか、先生のスケジュールや行動パターンを分析した。わからないことがあれば、すぐ先生に質問できるようにするためだ。たとえ、先生が忙しいときでも、強引に話しかけていったという。「ある意味、ストーカーのようでしたね(笑)」と話す。

彼のそういった行動には、結果的に別の効果があった。編入試験は、大学によっては内申点がかなり大きなウエートを持つ。彼が愚直に質問しにくるその姿勢を先生は高く評価していたようだ。「塾に行けない分、普段の授業にもフルコミットしたので、先生からの評価はそれなりに高かったと自負しています」。

高専入学から5年、小平さんは見事、九州大学の3年生への編入を果たした。学費は半額免除された。そのころ、祖母は介護施設に入所していたので、福岡県で母と2人で暮らしながら大学に通った。生活費は母の年金と小平さんの奨学金から捻出した。

小平さんは九大で勉学に勤しむにつれ、次第に東京大学の大学院に進学したいと思うようになってきた。そこで、3年生の途中から受験モードに切り替え、東大大学院の過去問題を取り寄せたり、参考書を購入したりして、猛勉強を開始した。

しかし東大大学院の過去問は想像以上に難しかったという。それでも高専のときと同様、わからないことは大学の教授に質問し続けた。

ただ、努力むなしく、東大大学院の筆記試験は「全く手ごたえがなかった」。しかし、結果的には念願の東大大学院に合格した。その理由について小平さんはこう分析する。

「大学院の試験は筆記問題だけではなく、面接や大学教授からの推薦も重要になってきます。高専や大学で研究に打ち込み続けられたからこそ、面接では自信を持って面接官に語れたのだと考えます。また、高専時代同様、私の勉強や研究に対する姿勢を教授に評価してもらえていたのだと思っています」

小平さんは福岡県から埼玉県に母親と引っ越し、東大へ通った。

その後、東大大学院の修了証書を手にした小平さんは、大手IT企業に入社した。今ではエンジニアとしてAIの開発に携わる。会社は福利厚生も手厚く、家賃補助が月8万円もでる。現在は母と東京都内に住み、奨学金を返しながら母を養っている。

■無料の学習支援を探してみよう

現役で東大に合格した谷川勝彦さん(41歳)は鹿児島市で不登校児や貧困家庭の子どもに無料で学習支援などをしているNPO法人「ルネスかごしま」の代表。こうした活動を始めて、かれこれ5年が過ぎたというが、「現場の皮膚感覚ですが、離婚率の上昇による母子家庭の増加などもあり、子どもの勉強にお金をかけられない家庭は年々増えていると感じています」と話す。

それでは、経済的に余裕がない家庭が子どもに学習支援を受けさせたい場合、どうしたらいいのか。

「まず、われわれのように無料で学習支援をしている団体を探してください。大都市圏には大体あると思います。しかし、自治体によってはそういった団体のことを公表していません。貧困家庭向けの学習支援団体と大きく宣伝することによって、そこに通っている子どもが『いじめ』などの不利益を被る可能性があるためです。なので、公表をしていない自治体に住んでいる場合は、役所に直接問い合わせてみるのがいいと思います。教育委員会でも相談には乗ってくれると思いますよ」

また、地域の社会福祉協議会に相談するのも手だという。

「協議会のボランティアセンターに勉強を教えてくれる人がいないか探してみるのです。定年退職した先生が登録していることもあります。ほかにも、英会話教室を開いている教会もあります。大切なのは、アンテナをはって常に情報入手を心がけることです」

そのほか、安価な教材を利用することも勧めている。

「最近ではインターネットで塾の授業を受講できるサービスがあります。例えばリクルート系が展開している『スタディサプリ』です。そういったサービスは塾に通うよりも安価です。私の団体でも教材として利用しており、私がその授業の補足説明をしています」

自分の給料が低く、生活が苦しい。でも子どもに罪はない。子どもには自由な職業選択をしてもらいたいからこそ、ここは知恵を絞って子どもに学習支援をしてあげたいものだ。

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(プレジデント編集部 写真=amanaimages、時事通信フォト)