創業家出身の辻朋邦・専務は29歳。サンリオをどう舵取りするのか(撮影:今井康一)

サンリオの業績が苦戦している。人気キャラクター、ハローキティの欧米でのライセンスビジネス(顧客商品にキャラの使用権を与え、一定のロイヤルティを得る好採算の形態)が好調で、2013年度まで好業績を謳歌していた。しかし、その後は4期連続で減収減益となり、足元でも業績不振から脱することができていない。
この状況を打開するため今年5月に公表した中期経営計画では、マーケティング機能の強化・再整備、アニメ・デジタル事業確立、物販事業の再構築、不振の欧米事業の建て直しといった戦略を策定。2020年度にほぼ倍増となる営業利益100億円への回復を掲げた。
この計画を中心となって策定したのが、創業者・辻信太郎社長(90歳)の孫である辻朋邦・専務(29歳)だ。1960年の創業から経営トップに君臨してきた信太郎社長は、長男の邦彦副社長(当時)を後継者にする計画だったが、2013年11月に出張中の米国で急逝。現在は「近々代わりをやってくれる」(信太郎社長)と、朋邦専務への期待を口にしている。
サンリオの若きプリンスは、現状をどう見るのか。そして、業績回復策をどう描いているのか。後継者としての適性を問う試金石ともなる中計の狙いを、朋邦専務に聞いた。

不振の原因はブランド力低下

――4期連続の減収減益となっている要因をどう分析しているのか?

サンリオの利益面で大きいのは海外のライセンス先からのロイヤルティ収入だが、不振の要因は国内も海外も同じで、一番の原因はキャラクターのブランド力の問題だと考えている。キャラクター商品は生活必需品ではないため、ブランド力の低下は売上減に直結してしまう。

特に、欧米では売り上げのほとんどがハローキティ関連。2000年代後半はキティブームとも言える状況だったが、どんな人気キャラクターにも浮き沈みは必ずある。依存度が高い状況で少しでもブランド力に陰りが出れば、業績に影響してしまう。認知度の高いキャラクターの力もあって非常にうまくいっていただけに、状況が悪化した場合にどう対策をとればいいのかという戦略が十分ではなかった。

――業績回復に向けた中計では、キャラクターのマーケティング強化を掲げている。

エンターテインメントを受ける側が何を求めているのかがわからない限り、キャラクターは成長していかない。サンリオの市場であるギフトビジネスは、B to C to C。目の前のお客様である「ギフトをあげる人」だけでなく、最終的に「ギフトをもらう人」のことも考える必要がある。

ライセンスビジネスでも同じで、ライセンス先だけでなく最終顧客のことを考え、最適なキャラクターを提案していかなくてはいけない。現状では、全社で共通したキャラクターのブランド定義がなく、お客様に提案する価値がぶれてしまうという問題があった。


欧米を席巻したハローキティもブームは一巡している(撮影:今井康一)

キャラクターのブランド価値と最終顧客の求めるものが一致しなければ、ライセンス先の商品の販売不振につながってしまう。それは顧客であるライセンス先にとっても、キャラクターのブランド価値にとっても良くない。

そこで、4月からマーケティング本部を新設し、それぞれのキャラクターにどのようなブランド価値があるか、再定義を進めている。そのうえで、最適なプロモーション、営業スタイルに変えていきたい。特に、来年45周年を迎えるハローキティの立ち位置は、他のサンリオのどのキャラクターとも違う。単なる「カワイイ」、「愛らしい」を越える価値を持っている。

サンリオの既存キャラクターのポテンシャルは変わらず大きい。改革をしなくてもそれなりにはやっていけるかもしれない。しかし、10年、20年と成長し続けられる体制を作るためには、戦略的な企業に改革しなくてはいけないと考えている。

アニメ、ゲームから新規IP創出

また、新規キャラクター、IP(知的財産)の開発を目的として、アニメ、ゲームの事業部を立ち上げた。サンリオの持つキャラクター育成のノウハウも活用して、この分野に従来以上に投資をしていく。新規IPを創出していくことは、グローバルなサンリオの企業価値向上にもつながる。

海外ではハローキティの知名度は高いが、サンリオという会社名はそれほど知られていない。新しいIPを創出し続けることで、キャラクタービジネスの先端企業であるというブランド価値を浸透させていきたい。

アニメ、ゲームはヒットすると収益貢献が大きい。しかし、競争が激しい分野でもあるため、一時的なヒットを狙うのではなく、投資対効果を見極めながら安定的に成長する仕組みを作っていきたい。


――サンリオが自社商品を販売するサンリオショップの位置づけはどうなるのか?

サンリオがライセンス先からのロイヤルティ収入を中心に利益を出していくということは変わらない。しかし、自社商品を売る店舗はサンリオの顔として重要だ。店舗では収益を出すだけでなく、サンリオのキャラクター体験の場として、ブランド価値の向上につなげる場にしていきたい。

現在のサンリオショップはキャラクターの熱心なファン向けの店舗になっている。しかし、コアなファン層以外にもサンリオを知ってもらい、ライセンス先へのブランド価値の提案にもつながるよう、商品開発、ショップのあり方を考えていかなくてはいけない。

まずはモデルタイプの新店舗を来年初めくらいまでに構築し、分析したうえでほかの店舗にも展開していく予定だ。

――業績が低迷している欧米など海外はどう立て直すのか?

一番業績への影響が大きく、一番難しいのが海外。国によって文化や嗜好性が違うため、国ごとに最適化した戦略が必要になる。これからの成長の中心となるのは間違いなくアジアであり、不振に陥っている欧州、米国については止血戦略をとり、復活させる方針だ。


辻朋邦(つじ ともくに)/1988年生まれ。慶応義塾大学卒業後、事業会社勤務を経て2014年1月にサンリオ入社。2016年6月に取締役企画営業本部副本部長を経て、2017年6月より専務取締役

欧米では主要なライセンス先である小売業の市場環境の変化にあわせ、eコマースへの対応を進めている。ハローキティの認知度は今でも非常に高いため、今後3年間でリブランディングを実施しながら、ライセンシーへの販売を再度強化していく。

そして、現在人気が出ている「ぐでたま」や「アグレッシブ烈子」といったハローキティ以外のキャラクターも育成していく。方針が定まっていない状態で業績が悪化したため対策が遅れてしまったが、中計を軸にいいサイクルに戻れば回復は早いはずだ。

中国が海外成長の柱

一方、中国やアジアでのビジネスは足元でも伸びている。しかし、市場のポテンシャルはそれ以上に大きい。欧米と違い、アジアではハローキティ以外のキャラクターも幅広く育ってきている。既存のライセンシーとの関係をさらに強化していくことはもちろん、中国でも存在感が大きいeコマースの市場に力を入れていく。巨大な人口がいる中国市場で広く認知度を上げるために、メディアを使った効果的なプロモーションも計画している。

――サンリオの将来の後継者候補との見方もあることについてはどう受け止めているか。

期待されているのであれば、それに応えたいという思いはある。現状に対する危機意識は、社内の誰よりも強いつもりでいる。