MINIの中で最も速いモデルの「ジョン・クーパー・ワークス(JCW)」(写真:BMW)

2001年に登場したBMW「MINI(ミニ)」は、「大衆車の傑作」と呼ばれたクラシックミニのデザインを踏襲しながら、「プレミアムスモールセグメント」としてすべてを刷新。当初は賛否もあったが、一目でミニだとわかるうえに質感の高い内外装、「FF(前輪駆動)のBMW」と形容される走りなどが高く評価され、今ではミニ=BMWミニを思い浮かべる人のほうが多いだろう。

MINI「ジョン・クーパー・ワークス」とは

そんなミニのスポーツバージョンというと「クーパー/クーパーS」が有名だが、さらに上のグレードが存在する。それが「ジョン・クーパー・ワークス(JCW)」だ。


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そもそもジョン・クーパーとは、1960年代にクラシックミニを素材にしたレーシング活動に関わり、チューニングされたミニでモンテカルロラリーを3度も制した人物のことだ。彼の名を冠したワークスマシンというだけあり、ミニのラインナップの中で最も速く、ハイパフォーマンスなモデルであることを意味している。

3代目となる現行モデルは2013年に登場。見た目はキープコンセプトながらもボディサイズは一回り拡大、3ドア初の3ナンバーボディとなった。パワートレインやシャシーも一新されパフォーマンスも大きく向上。そんなJCWだが、2018年にノーマルモデル同様に初のマイナーチェンジを実施した。

エクステリアは愛くるしいミニを精悍な印象に変貌させただけでなく、空力・操縦安定性にも貢献する専用デザインの前後バンパー/リアウイングは変更ないがライト類を刷新。ヘッドライトを取り囲むリング型のデイライト(ウインカーの役割も担う)を採用することで、今まで以上に人の顔に見える(!?)テールライトも新デザインのLED式に変更。一目でわかるモチーフはミニの故郷であるイギリスの「ユニオンジャック」である。

インテリアは操作系スイッチレイアウトの変更など細かい変更がメインだ。具体的にはシフトレバー根元にあったドライブモード切り替えダイヤルはセンターパネルのトグルスイッチ内に移動。また、ナビを含めたインフォテインメント機能もタッチスクリーン式へアップデートされるなど、利便性や使い勝手がアップされている。


日本仕様のATは今回のマイナーチェンジで6速→8速に変更されている(写真:BMW)

エンジンは吸排気系、タービン、エンジン内部など専用アイテムにより231馬力/320Nmのパフォーマンスを誇る2L直噴ターボを搭載するがスペックは変更なし。トランスミッションはMT/ATが用意され、日本仕様のATは今回のマイナーチェンジで6速→8速に変更されている。

一方、フットワーク系はスポーツ性能を引き上げた専用スポーツサスペンションやブレンボと共同開発のブレーキシステムなどには、“正式”な変更アナウンスはない。

JCWの“真”の実力

すでに日本でもメディア向けの試乗会が実施されているが、今回は韓国・江原道麟蹄郡にあるサーキット、インジェ・スピーディウムで開催された「ミニJCWチャレンジ」と呼ばれるイベントで試乗した。サーキット走行はもちろん、ジムカーナやドラック体験などを通じてJCWの“真”の実力を味わってきた。

インジェ・スピーディウム(1周約3.9km)は起伏に富んだレイアウトが特徴で、日本のサーキットに例えると仙台ハイラインド(現在は営業終了)に近い印象だ。比較的Rのきついコーナーが多いが、ストレートエンドは急勾配でその先に高速の1コーナーがあるなど、なかなかチャレンジングなコースである。

実際に乗ってみたらどうか?

いちばん驚いたのはハンドリングだった。以前から操舵時の応答性も高く、絶対的なスタビリティがあったものの、ミニ=ゴーカートフィーリングを意識しすぎて操作に対する動きが機敏で、結果的にコーナリングの一連の動作に連続性が欠けていたのが残念な部分の一つだった。しかし、新型はワクワク/ドキドキはそのままにハンドリングに連続性が備わったことでクルマをより信頼できるようになっている。


サスペンションの動きはよりしなやかでシットリとした奥深さがプラスされた(写真:BMW)

ノーマルに対してJCWはより引き締められ、スポーツ志向の味付けは不変ながらも、ステアフィールは“心地よいダルさ”、サスペンションの動きはよりしなやかでシットリとした奥深さがプラスされた。また、縁石を越える際のショックもうまくいなしていたので、日常域の快適性も引き上げられているのだろう。

以前よりもコントロールの自在性が増している

その結果、今まで以上に躊躇なくコーナーに飛び込め、アクセルを踏み込めるようになったのだ。もちろん、最終的にはスタビリティを重視した安定方向となるが、そこに辿りつくまでの過程は以前よりもコントロールの自在性が増している。つまり、より人間の感覚に近づいた……と言っていい。

それはサーキット走行だけでなくパイロンを用いたジムカーナコースでも同じ印象で、今まで以上に4つのタイヤを効果的に使えるようになったことでコントロール性が高まり、クルマをよりドライバーの支配下に置けるようになった。ちなみに筆者は今回のイベント参加者中で2位となるタイムを記録(1位はわずか0.2秒差で同業のこもだきよしさん)

パワートレインは今回のマイナーチェンジでATが6速→8速に変更されているが、今回試乗した韓国仕様は6速ATのまま。滑らかさの8速ATに対してダイレクト感の6速ATといった印象を受けた。実は車両重量は韓国仕様(左ハンドル、6速AT)1310kgに対して、日本仕様(右ハンドル、8速AT)は1290kgと軽いのにもかかわらず、0→100km/h加速は韓国仕様6.1秒に対して日本仕様は6.4秒とわずかに遅いが、リアルワールドやサーキットのラップタイムは多段化によりエンジンのおいしい領域を逃すことなく使えるようになっているので速いはず。

このように新型JCWは目に見えない部分に大きな“深化”が感じられた。「より速く」に加えて「より扱いやすく」アップデートしたことで、スポーツモデルとしてだけでなくミニのフラッグシップとして選んでも満足度は高いと思う。